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音楽相談所へようこそ

353円になります。

 いつも使うコンビニでカロリーメイトと野菜生活を買うと、外に止めておいた自転車に乗って、大学へ向かう。

 まだ朝が早いからか、ランニングをしている人ぐらいしか人がいない。気持ちよく立ちこぎをして、今日の時間割を確認していると、自転車のタイヤが空回りをして転びそうになる。

 自転車を降りて足元を確認すると、一枚の張り紙がスリップの原因のようだ。

 アルバイト募集中、音楽ができる方大歓迎です。時給1500円から相談可能。ご連絡は、…

 余りにも話が良すぎて、目を疑ってしまった。とりあえず、スマホで写真を撮って急いで大学に向かう。元々それほど余裕を持って、家を出ている訳ではないので、ぼーっとしているとすぐに遅刻になってしまう。

大学の授業も終わり、家に帰る前に来る時に撮った写真をもう一度見返す。確かに時給1500円からと書いてある。本当ならば、滅多にないとてつもなく良い仕事だ。しかし、他に何も書いていない。もしかしたら、怪しい仕事かもしれない。

とりあえず、電話だけはしてみようと思い、書いてある番号に電話をかける。二回ほど呼び出し音がなったあと、とてもか細い声で、

はい。もしもし。

アルバイト募集のポスターを見て電話したのですが。

あっ、ありがとうございます。いつ頃から来ていただけますか、

すみません、仕事の内容を説明していただけませんでしょうか。

そうですよね、

 そのあとの説明は大体こんなものだった。

 その女性は岩原といって、ピアニストをしているということで、アルバイト募集を思い立ったが、初めてのことで、時給の平均的な値段がわからなかったので高いほうがよいだろうと思い、あの金額になったそうだ。

説明を一通り受けた後、それほど怪しい仕事ではないということがわかったので、そこで働くことにした。そのお店は運よく大学と家の間にあったので明日、一回実際に会ってみることにした。

 自分自身もそれほど、アルバイトをしたことがあるわけではないので、若干の緊張はしていたが、何しろ電話の相手の方が、猛烈に緊張していることがひしひしとスピーカーから伝わってくる以上、そんなことを気にしていることもできないことが身に染みてきた。

 その翌日、大学の講義が午前中で終わったので早速言われた住所をもとにして、店を探す。すると、ピアノの音が聞こえてきた。音を頼りに進んでいくと西洋のお城を小さくして持ってきたかのような建物に「楽譜、音楽相談 フリューゲル Flügel」と書かれた札がかかっている。

 インターホンがなく、ノッカーでドアをノックする。すると、若い男性が出てきた。

 いらっしゃいませ。どのようなご用件でお越しですか。

 昨日連絡させていただいた由井です。

 お待ちしていました。奥で岩原がお待ちです。

 失礼します。

 中に入るとホールのように広い部屋が玄関の奥に広がっている。壁には一面に楽譜の入った棚が据付けられていてざっと1000冊以上はあるように見える。しかし、この部屋にピアノは見えない。すると、若い男性はゆっくりとその部屋に入っていく。

 この奥の部屋になります。

 そう言って、手を向けた先には小さな扉があった。よくあるスタジオのドアのようになっていて、ガラスの部分からピアノ椅子に座る女性が見えた。

 ふと、辺りを見るとさっきまでそこにいたはずの男性はどこかにいってしまったようで、部屋の中には見当たらなかった。奥で待っているといわれた以上入らざるを得ないが、中でピアノを弾いているように見えるので入るのを躊躇してしまう。辺りに座っていられそうな場所もないので困ってしまい、ドアの前に立っていると、中の女性がこちらに気づいてドアを開けた。

 すみません。気づかなくって。岩原です。入りにくかったですよね。こちらに座ってください。

 いえいえ、演奏の途中で申し訳ございません。

 いえ、大丈夫です。逆にこんな突然な募集にこたえていただいてありがとうございます。

 このピアノいいものですね。羨ましいです。

 ええ。ベーゼンドルファーのModel290 Imperialです。

 そのあとの話は、しばらくの間ピアノ談義に花が咲いた。しばらくして、ふと思い出したように、岩原さんは私に質問をしてきた。

 ここは遠くありませんか。駅から近くではないのですが。

 自宅から大学に向かう途中にあるので、困りませんでした。

 それは良かったです。でも大学に行かれているのでしたら、こちらでの時間は遅い方がよいですよね。

 そうしていただけるとありがたいです。

 そして、細かい時間の話になった。そのときに、改めて仕事の内容について聞いた。簡単に言うと、今日私がここに来たときに、対応してくれた男性のように時々ここに来るお客さんの対応のようだ。といっても必要になったときに岩原さんが指示をしてくれると聞いて少し安心した。

 そんなことを話して今日はもう帰って大丈夫だと言われたので外に出るともう日は暮れていた。

 家に帰って、昔使っていたピアノの楽譜を探してみたがどこにも見当たらなかった。



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