【改稿前】「作者」2
「な……何じゃこりゃ──⁉」
太陽に吠えそうな台詞を轟かせながら、俺は興味でのみ身体を動かし、ピラミッドの前まで来ていた。
「こんな巨大な氷の建造物……どうやって……」
隣でニジイロがぶつぶつと呟いているが俺も多少興味がある。少し色々見てみるか……
このピラミッド、中は大迷宮になっているらしいが、大迷宮が入ってるだけあってかなり大きな造りだ、端から端まで歩くだけでも一分は掛かる。ピラミッドは氷のブロックその物で、やはりここの氷粒と同じ原理なのだろうか。冬場とはいえ、太陽があるのにも関わらず溶けている気配はない。ここの氷……保冷剤として売れば大儲け出来そうだな…… しかし、変だな……入り口らしき物がない? というかただの積まれたブロックにしか見えんが……
「なぁニジイロ? 入り口らしきものが無いんだが」
「多分、こちらは裏側なんでしょう、反対の方に行けば入り口が見えると思いますよ」
そんな事をやっていると、鉄を蹴る音が適度に聞こえる。氷のピラミッドより一回り大きくはみ出ている鉄の基板、から察するに誰か来たな……
「あぁー!……を……キミ……!」
端の方から知らない男が出て来た。何か言っているのだろうか? しかし、よく聞こえない。
「えぇー? 何ですかー?」
俺が大声で聞き返すと、
「何を……いる……キミ達ぃ!」
「はいー?」
やばい本当に聞こえない、あの人が端に居るのに対して俺らが聞こえそうで聞こえない、真ん中の位置に居るのが悪いのか。いや、これは伝えたいことがあるのに自分から近づいてこないアイツが悪いと思う。
「もう!聞こえないならそっちへ行くよチキショー!」
何をキレてるんだあの人……こっちへ来るらしいのは聞こえた。というかキレれば聞こえるなら初めからその音量で言ってくれよ……
端からこちらへ、怒ってる感まる出しの大股早歩きで近づいてくる。
「なんか、あの人疲れてません?」
「あ、ニジイロもそう思う?」
何故かキレてたはずの大股男はこちらへ近づくにつれてへとへとになっていく。
「俺も体力無いからあの人の気持ち分かるんだがなぁ……」
「私はよく分かりませんけど、辛そうなのは確かですねアレ」
そしてアレ呼ばわりされた男は、死に物狂いでここまで辿り着くと転がりこんで荒い息を吐いている。服装は白衣に眼鏡という理系っぽさ全開の装いである。
「あの……大丈夫っすかね? 水飲みます?」
何となく気持ちが分からんでもないので、親身になって対応しよう。きっとこの人は根は良いタイプの人だ。多分。
「ぜぇぜぇ……ありがとう……」
ごくごくと、喉通しの良い音が男の水分補給によって奏でなれる。……とか思ったが、そこらのおっさんになんで、芸術的考え持ち出してんだ俺。
「ぷっはぁー! ……はぁ……はぁ……助かった、ありがとう」
「どういたしまして」
「私はニジイロです、こっちのバンダナと旅してます」
「えっ、オイラよりバンダナの方が大事なんでヤンスか?」
「唐突なキャラ作りは止めてください、それで貴方のお名前は?」
ちぇー、このヤンスキャラ結構、俺気に入ってるのになぁ……
「あぁ、俺は"ヘルプ・コールマン"、呼び方は"ヘルプ"で良い。この遺跡の調査をしている」
二人は唐突な出会いであったが、互いにここで握手する事により、双方の信頼を得る。
「それより、どうして走ってきたんだ?」
「伝えたい事が伝わらない怒りで走ったんだ、あれ? そういえば、どうして怒っていたんだっけ……」
「かなり怒っていましたけど、忘れるくらいなんですから些細な事ですよ」
ニジイロが場を丸く収める。ピラミッドは謎を潜めながら、日差しを受けた氷は輝き煌めく。
「それもそうだな……」
「では気を取り直して、一緒にこのアイスピラミッドの謎を解き明かしましょう!」
「よし! この氷のブロックを取ったら入り口が見つかるかもしれないぞ」
「では早速、解体しま────」
「ちょぉおおっと待ったぁあああ‼」
「どうしたんです、急にまたうるさくなって」
氷のブロックを解体しようとした直後、ヘルプが突然叫び声を上げた。
「思い出した! 君らが勝手に遺跡に触れるから止めようとしたんだ!」
あぁ、双方の信頼は数十秒で終わったらしい。
「何故?」
「何故って、遺跡を勝手に部外者に触らせる訳にはいかない!」
確かにそれもそうだ。未知の建造物を触って壊したら何されるか分かったものではないだろう。
しかしながら、ニジイロにとっては待っていたとばかりに解答する。
「それなら、私達にも協力させてください!」
「駄目だ。一般人をこの調査に加えるつもりはない、これでも一応国家命令で動いている。素人にコイツを壊されでもしたら間違いなく私の責任になるからな」
「そう言うと思いました。ですが、見たところ扉らしきものはここにはありません。責任者が貴方であるなら調査が進んでいないというのも見て取れますが?」
俺らが調べてた面は二つ、どちらも入り口らしきものはなく、変わった物が置いているというわけでもなかった。
「裏にあるんだよ、裏に。どっちかというとここが裏面だからね」
「もう見つけたんですか⁉」
流石に見つける事は予想外だったのか、ニジイロに焦りが見える。
「あぁ私を含め、研究員全員で見つけたんだ」
我々はその見つけたという表の入口がある方へ歩いた。そこでニジイロが俺の耳にこそこそとヘルプに聞こえないように話す。
「入り口が見つかっているのは迂闊でした、このままでは協力出来ず、中を拝む事すら出来ないですよ……!」
「しょうがないだろ、無理なら諦めろ」
こうなるとニジイロは嫌でも入りたがるだろう。
入れないならしばらく気まずい空気になるので、非常にめんどくさい。めんどくさいものが大の苦手な俺は何とかそれだけは避けなければなるまい……!
そしてそこの角を曲がれば入り口のある面、のはずだが……
「え? これが入り口?」
その入り口はまさしく入り口だが、入ることが出来ない。謎掛けとかではなくもっと単純な……
「入り口開いてないじゃん」
扉のようなものは存在しているのだが、それは閉じられていて、入ることが出来ないようになっていたのだ。
「そうだな、これを開けられるのなら開けてみろ、国家選りすぐりの精鋭調査員でも開けられない凍った宝物庫を……!」