ヤドリギー思考論
2018/06/09更新
「パウロス君…やっぱり君は、人に見えない。」
フィヨルドは空中に浮遊したまま、そんなことを呟いた。
…今まで見てきた『人間』は皆、脆く儚かった。一つ傷つければ体温の籠った血が流れるのは変わりなかった。炎の囲いに入れれば激しく身体に燃え移り、水に沈めれば息が詰まり浮くこともなく底に沈んでいく。体の一部を失えば他者の体を付け替えるか、偽物を作って生活の便をる為自然には復活せず、死んでも生き返る術もない。『人間』という生き物はそこで終わりなのだそうだ。体が腐り落ちればそのモノが起き上がって話すことも物を食うこともない。生き返ったとすれば…たちまち恐れられ酷い仕打ちを受ける。同族であれ、争い、殺し、追い詰める。ある世界では、小さな島国で同じ特徴を持った身体のモノがそれぞれの集団で集まり、陣地取りゲームをその集団を操ってやり取りするという国があるらしい。我々と同じ家族がそれぞれ居て、相手が負ければ捕虜となるか皆殺しか。そんな魔法の使える国より残酷な世界があるのだそうだと。小さなことで憎み、批判し、傷つけあう。一見強く見えてて実は弱いのだ。弱いからこそ群がりたがりまたそこで小さな争いが起こる。過去を記録するが、読み返すだけで根本的な原因は未だ形を変えて、彼らはそれに気が付かない。何とも弱く儚い生き物なのだ。
龍の猛攻に倒れぬ彼に疑問を浮かべていた。Sは手に触れて体温がないから、きっと別の何かだ。ルナに関しては『人間』には見られない獣のような耳と毛の生えた尾がある、これも違う。同様にディフも違うだろうが、彼は根本的に何かが変わっているらしい。自分はそもそも正体を知っている為考える必要もない。
「ふむ、興味深いな。…しかしあの龍、どうしたものか。」
「駄目だ、効かない。動きが封じられないのは少し辛いところがあるな。」
「ルナ君はどこに行った。」
「…あれ?」
そういえばと見回してみれば彼女がいない。
「ほら黒龍!こっちだバーカ!」
その間に地面を足裏で蹴り飛ばしている彼に煽られたのか、龍は怒ったような咆哮をあげ猛攻はまだ続く。ディフとフィヨも混ざって攻撃が分散される。
しのぎ攻撃してを繰り返すが、効いている様子もなければ、刃物の跡もすぐ消えていくようだ。HPメーターが見えていれば、1mmも削れていない、とても苛々する状態。
「(此奴、俺の能力でステータスは下がっている筈なんだけど…変わってない…?)」
「(こんなでけぇから範囲最小限でも此処ら辺で絡んでいれば体の一部は触れられるはず。)」
周りを見ればSは相変わらず攻撃を避けて様子を伺っている。不思議なことに彼女が攻撃していない。ただ避けると同時に移動の遅れるその長い青髪に黒いものがまとわりつく。毛先に行くにつれて黒くなっていく。まるで黒髪に『染め直している』かのよう。
「…チッ…後で清め落とさないとな…。」
「(清め…?そういえばこれなんだ?)」
Night王国のあの異変でも見たこの黒くドロドロしたものは例外なく、パウロスの腕やら服に飛び散ってくる。染みつく様子もない。腐敗している気配もないが、ただ肌の上を、布の上を球体になって、ガラスの上をすべる水滴のようにコロコロと動いている。勢いあまって離れれば下に逆らわず落ちていく。
思い出してほしい。彼らの死に様を。
飾りを破壊すれば、たちまち体が崩れ去った彼らを。まるで飾りが『その命を保っていたかのように』。
パウロスの頭にその思考がよぎると、離れて陵我の横に走る。
「陵我、彼奴一回死んだとかあった?」
「何を言うとる…!死んでいたら此処に居らんじゃろうて。」
そこで論は止まった。そう、彼は死んでいなかった。
【もう少し詳しいことは、また後で語るとしよう。】
おはこんばんにちは、朔でございます。
60話目、如何だったでしょうか。(多分読みにくかった)
長い長い毎回言っていますが、それほどでもなさそうなありそうな…。曖昧すぎる、誰かのがうつったな(おい
次回は時間軸がNight王国の異変直後に戻ります。パウロス君の回想ですが、結構重要かと。
こちらはまた忙しくなっていきます、今のうちに書き溜めちゃいましょう(現在6/2
ではまたこの世界でお会いいたしましょう。