ミヤコワスレー居なくなったモノ
2018/05/19(2018/05/26に同時更新)更新
うっすらと影が、太陽の見えない曇った空の方向から落ちてくる。黒く大きいその胴体を辿って見上げれば黒髪に黒い鱗、赤い毛先に燃えるような真っ赤な瞳がこちらを睨みつけている。
所々が汚染されたかのように痛々しい。煌々とした龍の印象はない。邪悪ななにかに取り憑かれたなにか解らぬモノだ。
「邪魔ヲスルナ…!」
大きな口を開けてそう吠えた。片言だが空耳で無くともそう聞こえる。
Sもルナもずっと構えて固まっている。攻撃の隙を伺っているのか、警戒しているのか。
「…もうやめてくれ、兄上。」
後ろから高めの声が響く。
「貴様マデ邪魔ヲスルノカ!」
声が聞こえた途端に黒い龍が吠える。声と一緒に口からドロドロとなにか黒いものが溢れ出して床に落ちる。落ちた場所の芝生はその雫の一回り大きい範囲が茶色くなり枯れていく。ルナはそれを見てぎょっとした。
陵我は歩こうとするとすこしふらついていしまう。パウロスに支えられて歩き出すが、Sに止められてしまった。これ以上先に行くな、というSの目線の後に彼は、足元に視線を落とした。
足元まで…いや、Sの靴は既に汚染しかかっていた。
「っ…。」
陵我は戸惑ってしまった。しかし。彼はパウロスの支えを離して、Sの警告も無視して一人で歩き出した。
彼がその汚染されて枯れてしまった芝生の跡に脚を踏み入れる。
踏んだその部分が、一回り…いや三回りほど蘇生され芝生が元に蘇っていく。生き生きとした美しい草が先程より長く伸びて茶色の中に緑色の足跡を刻んでいく。
「兄上、もう止めて欲しい。儂ゃ苦しそうにしている兄上の声を聞いているのは、感じているのは胸が痛いのじゃ。…兄上!」
「貴様二分カルカ!?コノ世界ノ異変ガ!」
陵我は黒い龍…兄上と呼んだその龍の顔の見上げられるほどの位置に、立ち尽くした。徐々に芝生が蘇生されて円状に広がっていく。龍のそびえ立つ手前で汚染と蘇生が反発し広がりは止まった。
「盲目が邪魔するのじゃ、どうか教えてくれ。兄上は何をしようとしているのかを。」
S達も静かに陵我の背中を見守る。足元は元に戻ったが、Sの靴はつま先が少し腐敗したままだった。
「…風ノ姫君ヲ…呼ビ戻スッ…。」
「!!」
彼は確かにそういった。陵我は見て分かるほどに衝撃を受けていた。
「姫君は死んだのじゃぞ!兄上!」
とっさにそう叫んだ。姫君はもう居ないと先程伝えなかったはずだ。
「兄上がそう言ったじゃろう!!忘れたのか!!」
「ソレデモ必要ナノダ!俺ニハ解ル…何処カニ気配ヲ感ジル。」
龍は上を見上げ、空を仰いだ。
…パウロスとルナにはわかっていた。数年ほど前にそのモノが行方不明になり、死亡したと噂されていたことを。もう居ない可能性のほうが高いだろう。
もう昔のことだ。唐突に前触れもなく、そのモノの母親が不自然に亡くなった翌日に消えた。跡継ぎとして有望だった美しい黒髪の蝶のような翼を持った少女。
「この龍…もう居ない奴を探しているのか。」
Sはずっと黙り込んだままだ。下に目線を落として、口をつぐんでいる。いつも何を考えているのかわからないから、思考も分らないが。「きっと彼女も知っているのだろう」。
「コノ異変ハソノモノが居ナケレバ…ソノ種族ノ力ガナケレバ!!衰退シ苦シンダママ時ハ止マルゾ!」
空を仰いでいた顔をこちらに向けて大きく咆哮を吐いた。突風と汚染にさらされ、思わず目を瞑り身構えてしまう。
陵我も例外ではなかった。そのすぐそばで風に飛ばされないように痛む脚で踏ん張っていた…。
盲目のはずの瞳を開け、異常に気が付いた。
「…見えている…こ、ここは…?」
【盲目の視界に光が入り、色鮮やかに移った。しかしそれは淡く、揺らめいていた。】
おはこんばんにちは、遅れてごめんなさい!!(おい)朔で御座います。
思いっきり忘れていました。今度から気を付けます…。
さてさて、こちらは色々落ち着いてきたかと思う束の間、また忙しくなりそうです。Twitterを見てもらえばわかると思いますが、サークル活動を始めました。もしかした多この小説のグッズとか出すかも…なんて?
ついにボス戦直前な気がしますが、もう少しお待ちくださいね。真相がちらりと顔を出す頃です…。
ではではもう一話もよろしくお願いいたしますね!
またこの世界でお会いいたしましょう。