カワラナデシコー魔王の調べ
2018/03/17 更新
「S君は何をしたというのだ…?」
ふとフィヨがそう呟いた。全員の手が一瞬だけ固まった。本人は鋭い目でその彼を見ている。
「…………追われるほd」
「失礼する、コップは何処だ?」
Sが口を開いた瞬間に、Hyが被せてリビングに入ってきた。
「そこのキッチンの…渡したほうが速いな。」
そう言って彼女はそのまま摘み途中の花びらを置いて立ち上がって行ってしまった。奥のキッチンで水をくんで彼に渡しているのが見える。
「…なぁルナ。お前は知って…。」
パウロスがそうルナに聞いたが、彼女は間を置くこともなく首を横に振った。
「最初は聞いたんだけど…誤魔化されて終わるんだ。その後聞くのも億劫になっちゃってさ。よく解らねぇの。」
「じゃあ本人に聞くしか…」
「今戻った。さて続きを…ってもう終わってるじゃないか。」
花束が入っていた籠を見れば無い中身を見ずに手で何かを掴もうとするディフの手があった。彼は籠の中になにも無いのに気が付くと、直ぐ引っ込めた。
「色分けは直ぐ終わる。手伝い有難う。」
そう言って彼女は籠を持って出ていってしまった。
フィヨは其の場で少し考え事をしてから、誰も居なくなった雪光の入るリビングを見回して部屋を出ていった。
【数時間後・アジト4階子ども部屋・深夜】
「んん…なんのおとだりょう…?」
寝ぼけた目で耳をぴこっとさせてクリアは起き上がった。みぃはすやすやと自分の籠の中で丸まってぬいぐるみをハグして寝ている。彼はそっと起こさないように自分の寝ていた籠から出て扉に近づいた。
「なにかめくるおと…?きになる。」
そっと背伸びをしてドアノブをガチャっと回した。手を引っ掛けるだけで開く扉はクリアの背丈でも開けられる様になっている。
【4階フロア廊下】
桃色の灯りが仄かに灯った廊下だ。彼は時々トイレに行くときに夜部屋から出るので怖くもなんともなかった。ただ一つ、微妙に聞こえる紙の音に耳が反応して動いている。
ゆっくり近づいて行くと、点描模様の扉が少し開いている。
ーいいか、お前たちの部屋以外は入っちゃ駄目だぞ。入れないからな…。ー
こう主が昔自分たちに言ったことを思い出したが、どうしても音が気になる。此処まで来て部屋に戻るという考えは彼にはなかった。
そっと黄色い光が漏れる扉にふれる。目を覗かせて中を見ると赤いマントと黄色い2対の角が生えた灰髪が床に座って下をうつむいて何かしているのが見える。
「…………ふぃよにぃ……?」
「!!…ど、どうしたのだこんな時間に起きて。」
そこにいたのはフィヨルドだった。多分その部屋の本を見ていたのだろうか、胡坐をかいたその膝の上にはあの分厚い本が開いて乗っている。
「おとがきになったの。ぺらぺらって。」
「あ…すまない、音が鳴りすぎていたか。」
クリアが彼の膝をのぞき込むと、あの記号の文字(以後RE文字)の羅列がびっしりと書かれている。その横には翻訳本のような、メモのような紙束が置かれている。
「その…かのもの…は、とても……ふぃよにぃはなにしてるの?」
「…読めるのか?」
「むずかしいけどよめるよ!よんでるの?」
「そうなんだが…読めなくてな。オレの世界と文字が違う。」
クリアはその彼の膝に乗ったままその本を音読し始めた。フィヨルドはそのままメモ帳を持って書き留めている。
「……だって。これどうしたの?」
その本をクリアはずっと読んでそのページも読み終わったが、フィヨルドは紙をめくるのをやめてしまった。
「ふぃよにぃ?」
「………………あぁ、もう大丈夫だ。クリア君も眠いだろう、もう寝よう。」
わしゃっと彼は子供のふわふわな髪を撫でて立ち上がった。メモ帳を閉じて部屋を出る。クリアを部屋に送って寝たのを見てから自分の部屋に戻った。
【3階・フィヨの部屋】
扉をしっかりと閉めて、月も出ぬ光のない部屋に戻ってきた。そのままベッドに寝転がりメモ帳を開く。
枕元の宝石のランプに触れるとその内側から眠たくなりそうな光を散らし始める。文字を読む程度には明るい。
紙をひらひらと散らされる光に当てて目で書かれた自分の見慣れた文字を追っていく。
ーソノモノ メイカクナ リユウナク キエサッタノデアル…ー
「…『我第三管理者の従者にして北の知識』…『後継者の帰りを待つモノ』…か。」
【彼にはまだわからなかった。これを書いたモノの名前もその姿さえも。】
おはこんばんにちは、朔実で御座います。
今回はぴーんと来た人も居たりいなかったり?な回でした。Twitter見ている人は最後「あっ」てなったかもしれませんね。(ネタバレ同然なツイ)
服作る所正直カットしたいなという感じで次回はいよいよ和国へ向かうかもしれません、進むの遅すぎなぁ!(自分でいうか)
ではまたこの世界でお会い致しましょう!