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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女は変わり者

 ―――こうして彼女は転校してきた。


 僕らのクラスにやってきたことはあっという間に学校中に知れ渡った。他のクラスや先輩たちからは恨み辛みの呪いの言葉――やっぱり主に男子だけど――を盛大に浴びせられたが、実情は彼らが思うこととは少し異なっていた。そして、彼らもそのことを後で知る羽目になる。


 初めクラスのみんなは彩月さんに話しかけていた。どこから来たのか、趣味は、好きな物は、彼氏はいるのか、好みのタイプは、上からのサイズ云々。


 ごく当たり前な質問から、なんだか良く分からない質問まで。初対面の人に普通に触れ合う感じに彼等は話したんだけど……。


 しかし、当の彼女といえば。


「それって何か意味があるの?」


 と、意に介さず真面目な顔で返す始末。返された彼らも思わず黙ってしまった。


 それでもめげずに繰り返し聞くけれど、返って言葉は何で、どうして、必要ある?


 そんなつれないやり取りが続く中、痺れを切らしたように誰か苛立った様子で、


「みんな彩月さんに興味があるから聞いているの」


 と答えたものの、


「別に私は貴方達になんか興味はないわ。最初に言った通り私は貴方たちなんか気にしていないし。それよりほっといてくれない。一々話しかけられるのは鬱陶しいわ」


 なんて彩月さんが切り返すものだから教室の空気は永久凍土のように凍り付いた。


 そんな出来事を話半分に聞いていた他のクラスの生徒や先輩たちも来ていたが、見事轟沈。一度会って足が遠退く人が大半だった。


 それでも諦めずに声を掛ける生徒もいたのだが次第にその数も減り、彼女が学校に来てから2週間を数えた頃には、最後まで粘っていた三九二君も肩を落として自席に戻っていったそうな。


 という訳でその頃には彼女の言ったとおり誰も近づかなくなっていた。みんな周りから彩月さんを観察するようになっていた。


 人間関係は最悪なものとして、一方で授業中の彼女は別の意味でこれまたとんでもない生徒だった。その片鱗を見せたのが数学の授業だ。


 勉強の道具は持っていたけれども彩月さんが授業中に教科書を開く様子は一度もなかった。というよりも、道具自体机の上において置く様子はなかった。


 いつも何も置かれていない机。彩月さんは毎日その机に頬杖をつき外を眺めていた。


 そんな彼女のようすに数学の先生が教材を出すように指示するが彼女それを無視。


 彩月さんの態度に怒った数学の先生は、


「なるほど山田。お前は俺の授業なんて聞かなくても勉強の内容が分かるんだな。分かった。それじゃ、この問題解いてみろ」


 なんていってみたこともない数式を先生は黒板に書いた。後で調べてみたんだけど、それは高校生で習う数学の余剰定理ってやつだった。


 大人げのない問題を出した先生。つまらなそうに彩月さんは黒板にかかれた問題を見て、すたすたと黒板に向かい数式を解き始めた。


 盤面を走るチョークの動きは一切の迷いなく、滑らかにすべる様に公式を解いていった。


 ものの5分もしない内に彼女は黒板を埋め、


「これでいいですか、先生?」


 と数学の先生を茫然とさせた。


「あ、ああ。大丈夫だ山田。席に戻っていいぞ。ただなお前、教科書だけは机の上に出しておけ」


 分かりました先生、と半ば放心している先生を余所に彼女は自席に戻ると教科書だけを机の上に出し、閉じたまま肘置きにして再び外を眺めていたのだった。


 僕たちも一体全体何が起きたのか良く分からなかったけれど、とりあえず彩月さんがとんでもなく頭がいいことだけはその時に分かったのだった。


 そうして、僕たちが彼女のいうところの“完璧”の意味を理解したのは間もなく話だった。


 他の教科でも同様のことが起きたのは騙るまでもない話で、その度に先生たちの度肝を抜いていったのだった。


 国語の時間、先生が彼女に教科書を読むように指示したら彼女は立ち上がりそらで教科書の内容を読み上げ、理科、社会では聞かれた内容をのっている内容よりも詳しく答え、英語では言われれば英語で全部話しますよといい、実際本当に一時間英語だけしか喋らなかったりした。


 また、音楽では美しく透き通った声で先生生徒を魅了し、家庭科の授業では同じ材料を使ったはずなのにまるで高級レストランで出てくるような味の料理を作り、体育の時間では丁度やっていたスポーツテストで尽く学校のベストレコードを塗り替え、各部活の先輩たちの心をへし折っていたそうだった。


 ただ、美術の先生だけが唯一彼女の描き上げた水彩画をみて首を傾げていた。


 彩月さんはまさしく彼女のいうとおり“完璧”だった。天賦の才に恵まれた文字通りの天才。文武両道、才色兼備、荒唐無稽な程の能力を見せ付けた彼女はまさしく誰も必要としないほどの人間離れした存在だった。


 確かに彩月さんは義務教育を必要としていなかった。ここで手に入れられる知識は既に備えているだろうし、おそらくそれ以上の物を持ち合わせている。


 明らかに僕らとは逸脱した存在であった。彩月さんという女の子はまるで絵に描いたような超人だった。なるほど、そんな彼女がこんな片田舎の学校に通っている意味があるのだろうか。


 クラスのみんなからしても彩月さんは別次元の何かだった。あんまりにも違いすぎてもはや宇宙人といわれたほうが納得できた。だからこその言動かとみんな納得してしまった。


 こうしてクラスのみんなは彼女の言うとおり気にしなくなった。


 そして、彩月さんは最初に望んだとおり誰にも気にされなくなった。


 勿論、ただ一人を除いてではあるけれど。

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