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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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出会いは突然に(5)







「いやしかしなんていうか奇遇だね。何か運命を感じるよ」


 嬉々と自称ヤマダは言った。僕としては意図的な悪意を感じた。そして、僕と同様の気持ちなのか正悟も心底不愉快そうな表情をしていた。


 黄色い歓声はやみ、先生の怒鳴り声もやんでいる。そのかわりにひそひそと「誰?」「見たことない。一年生?」「知り合い?」「何であいつら知ってんの」などとみんな話している。先生方も困惑気味だ。


 だが、一人だけ。


「なんだ君たち、ヤマダさんの知り合いだったのか」


 恨めしそうな表情で僕らを睨みつける校長は、声音に敵意をむき出しにしていった。穏やかじゃない。怪人は校長に何をしたのだろう。


 というか、ここでもヤマダって名乗ってるんだこの人。


「別に、知り合いって訳じゃなく偶々昨日……」


 そこまで正悟が言うとヤマダは口元に指を近づけていたずらっぽく笑った。


「……まぁ、あんまり古くはないですけど知り合い、かな」


 聞いた正悟が顔を押さえる。だが待ってほしい。この場合、他にいいようがない。


 僕の言葉を聞いた彼はまるで子どものように無邪気に笑った。


「いや、全く理解のある友人というのは素晴らしいね」


 両手を広げて芝居がかったように彼はいった。本当に頭が痛い。


 そんな彼の様子にみんながぽかんとしていた。


「……で、本当にこの町に住むんですか?」


「当然だよ少年。いったろう気に入ったって。だからここにいる」


 傍迷惑なことにヤマダ、ノリノリである。


「つか、昨日いってた連れって子どもだったんだ」


「ああ、そうだよ。あ、いや。そういうものだね、アレは」


 アレ、何だろう。この人の連れの話になった途端、急に歯切れが悪くなった。


「ともあれ学校教育が必要だと思ったからね。今までそういう学習はさせていなかったからね」


「させてないってアンタ、その子今最低でも12歳なんだろう。今までどうしてきたんだよ、日本じゃないにせよ教育は受けさせるべきなんじゃ?」


 正悟の言うことは至極真っ当だった。日本では義務教育として9年間の就学する必要がある。もっとも、これに関していえば僕らにあるのはあくまで権利で義務ではなく、就学をさせる義務があるのは親だったりする。


 また、世界でも子どもたちに対して教育を受ける権利を認めている。ところがヤマダはそれを真っ向から否定する大人らしい。駄目な大人だが見た目からしてまとうな人ではないしね。ただ、そうさせられてる子どものほうはたまったものではないだろう。


「必要がなかったんだよ、普通通りの学習なんてアレには。それに、別に誰かに頼まなくてもそういうのは私が出来たからね。そう思っていた。だが、それでは足りなかった。笑えるだろう、この私が全く無意味なんて。その点では反省している」


 彼は自嘲するように笑った。何が笑点だったのかはさておき、出来たということはヤマダは元教師か何かだったのだろうか。確かに、それだったら白衣姿もなんとなく理解できるが、けれども彼から感じる印象から言えばもっとも遠い職業なのだけれども。


「ともあれ、その反省を活かしてこうしてアレをこの学校に入れることに決めた。幸いにも話の分かる先生だったからね。ねぇ、校長」


 そういってヤマダは校長の肩を叩いた。叩かれた校長は引き攣った笑顔をみせていた。


 ……弱みでも握られているのだろうか。


 と、そこで鳴り響く朝のホームルームを知らせるチャイムの音。


「お前らいい加減戻れ! 朝のホームルーム始まるぞ!」


 生徒指導の教師がはっとしたように叫んだ。それに続くように他の先生も生徒を促す。


 皆、全員が夢から覚めたようにしぶしぶといったように動き出す。


 ざわめく廊下。人ごみは次第に階段に吸い込まれていく。先生たちも足早に職員室に戻っていく。


「それじゃ、私はおいとまかな。後は若い子立ちだけでうまくやるだろう。まさか、井垣君の言うとおりになるなんてね。やっぱり、彼は信頼のおける友人だよ」


 などとヤマダは心底楽しそうに笑っていった。


「それじゃあ校長先生。よろしくお願いしますね。君たちも、私の連れがお世話になるだろうからよろしくやってくれ。僕はこれから引越し先のリフォームがあるから」


 じゃあね、とひらひらと手を振って去って行くヤマダ。相変らず取り残されたように茫然と佇む僕ら。彼が現れ去っていくのはいつも嵐のようだ。


「……俺たちも行くか」


「……そうだね」


 散会しつつある生徒の流れに僕たちものって帰ろうとする。


「ま、まぁ待ちたまえ君たち」


 呼び止められて足を止めた。声の主は校長先生だ。


「……凄く嫌な予感するんだけど、僕」


「……同感。無視、は出来ないか」


 揃ってため息をこぼして振り返った。その先、佇む校長先生は不愉快そうな表情を浮かべて冷や汗を拭いていた。


「何の御用ですか校長先生」


 出来ることなら聞きたくないなぁ。


「君たち、あの外国人の知り合いなんだろう」


「あの人、生粋の日本人って言ってませんでした」


 正悟が言った。それを聞いた校長先生が眉間に皺を寄せた。


「そんな訳ないだろう、どう見たって日本人離れしているじゃないか」


 吐き捨てるように校長は言った。本当、あの人何したんだよ。


「まぁ問題はそれじゃない。君たち、何組だね?」


「ええっと、俺たちそれをいわなきゃ……」


「何組、だね?」


 声音を荒く校長は言った。


「……僕たち、2組ですけど」


「2組だな。わかった。よろしい、結構。もういっていいよ」


 それだけ言うと肩を怒らせた校長は職員室に入っていく。


「……嫌な予感がする」


「……右に同じ。いや、絶対そうなるんだろうよ」


 見送った僕らは互いに溢す。間もなく、臨時の職員会議を行うという放送が流れる。


 生徒の流れは殆どなくなり、廊下はうって変わってがらんとしていた。


 先生たちが上から降りてくる。


「お前達、さっさと教室に戻ってろ」


 降りてきた先生が僕たちに言った。


「とりあえず、いくか」


 そうだね、と正悟にいって僕らは階段を上がっていく。


 臨時の職員会議。いったい何についての会議だかは想像に難くなかった。

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