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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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幕間2

 アメリカ国防総省、その会議室。そこには現国防長官を中心としたメンバーが揃っていた。


「一体全体これはどういうことだ。科学者一人相手に我が軍随一の部隊がこうもあっさりとやられる。いつからアメリカ軍はお飾りになったんだ」


「相手はあのハーヴェイ・ロウだ。普通のテロリストとは違う」


「イガキの指摘した通り、捕まえる気だったら全軍挙げるべきだった」


「それこそ第三次世界大戦を起こすつもりか。馬鹿らしい。今更出て行った科学者の事を気にすることは無いだろう」


「ただの科学者ならそうだ。だが奴はハーヴェイ・ロウだ」


「死の科学者と呼ばれた兵器の天才。奴が他国に亡命したと考えるとぞっとしない」


「おそらく奴は戻る気はない」


「だったら今ここで息の根を止めるべきだ。奴が生きてアメリカの外にいる限り、国家に災いを及ぼしかねない」


 不意に会議室の扉が開く。


 その闖入者に一同は一斉に息を飲んだ。


「君達は一体何をしているんだ?」


 悠然と歩くその姿。彼は現アメリカ合衆国大統領だった。


「こ、これは大統領閣下」


 国防長官が言った。


「もう一度聞こう。君達は私を無視して日本に独自の部隊を送り、あまつさえ同盟国の領土に攻撃をして何をしようとしていたのだ」


 大統領は睨んだ。


「致し方の無かったことです。全てはアメリカ合衆国の為です」


 長官は大統領を見据えていった。


 そして、大統領が口を開きかけた時、急いで局員が部屋に入ってきた。


「国防長官、緊急の……、こ、これは大統領閣下」


「構わない。続けて」


 困惑しながら国防長官と大統領を見ていた局員だったが、国防長官に睨まれ話を続けた。


「そ、それが至急国防長官に繋いで欲しいという緊急連絡が」


 このタイミングに、と国防長官は舌打ちをした。


「どこの馬鹿からかだ」


 それが、と言い淀んだ局員は続けた。


「ハーヴェイ・ロウ博士からです」


 瞬間、大統領を含めた全員がざわめく。


 国防長官がすかさず、繋げ、と指示をした。


 すぐさまスピーカーからハーヴェイ・ロウの声が響いた。


『やぁ。ペンタゴンの元上司の皆様方、お久しぶりです』


 何処か嘲笑するような雰囲気でハーヴェイ・ロウは話した。


「ハーヴェイ! このいかれた科学者め! 貴様、自分が何をしでかしたか分かっているのか!」


 国防長官は激昂し立ち上がった。


『自分達の行いを棚に上げてまず相手を非難することは止めていただきたい。そもそも、始めたのはあなた方だ。私はそれに対応したまでのことです』


「貴様、言わせて置けば……」


「国防長官」


 大統領が彼を見てその言葉を止める。


 黙りこくった国防長官は俯き、手を震わせながら自席に着いた。


「やぁ、元気かい。ハーヴェイ・ロウ博士」


『どうも、お久しぶりです大統領閣下』


 うって変わってハーヴェイの対応は丁寧だった。


「今回の件は誠に遺憾だが、ただ、私達にも非が無かったわけではない。その点は素直に謝ろう」


『もったいないお言葉です、閣下』


「しかし、君は自身の価値についてあまりにも無自覚だ。そして、その危険性についても」


『買いかぶりすぎです閣下。私にはそこまでの価値はありません』


 その言葉に大統領はため息を溢した。


「単刀直入に聞こう。望みは何だ?」


「大統領!」


 声を荒らげる国防長官。大統領は再び睨み付けた。


『率直に申し上げます、閣下。我々を自由にさせていただきたい』


「我々も出来ればそうしたいが、生憎と出来ないからこういうことになった」


『その点に重々承知しております。ですから、条件付きでお願いしたいのです』


「その条件とは?」


『我々を監視してもらって構いません。居場所についてはこちらか随時そちらに発信いたします。また、研究についても今後も同じようにアメリカに提供させていただきます』


 聞いた大統領は一瞬わが耳を疑った。今までの彼からしてみれば考えられない条件だと。


 しかし、あくまで冷静を装い大統領は続けた。


「随分と一方的じゃないか。仮にそれを君が守るという保証はどこにあるんだ。それに、自身に監視を付けるといったが、我々の行動を今の日本が快く承諾するとは思えないが」


『こればかりは信じていただくしかありません。後者については私からお話しましょう。何、しっかり誠意を見せれば話が分からない人たちでもない』


 一体どんな誠意を見せるのか、と内心大統領は肩を竦めた。


「話は分かった。だが、それに我々が従う理由がどこにある」


『そうなれば、私も私で覚悟を決めなければなりません』


「その覚悟というのは。まさか一人で合衆国と事を構えようというのか」


 ハーヴェイ・ロウという人物の人間性を考えれば十二分にありえることだった。


『それもあるでしょう。ただ、そういうのは私の趣味じゃない。もっとも、趣味だともいってる余裕が無ければ事を構えるかもしれませんが』


「であれば、君の趣味にあう方法とは何だね」


『アメリカも第二のジュリアス・アサジンを見たくはないでしょ。もっとも、私の場合はアメリカの不正を暴くといった目的ではないのをご理解ください』


 実に嫌な答えだ、と大統領は言った。


「しかし、それは私が思うに交渉ではなく脅迫だと思うが、どうだろうハーヴェイ博士」


『そうも聞こえるでしょう。しかし、私はあくまで非力な一介の科学者に過ぎません。大国を相手に一人で戦えるとも思っていない。出来れば話し合いで解決したいのです』


 聴いた大統領は組んだ指をもてあそび考え込む。


 しばらくしてため息を溢し。


「わかった。認めよう」


 そう答えた。


「閣下!!」


 押し殺したような声で国防長官は大統領に続けた。


「何故あのような狂人の話を聞くのです」


 大統領は背もたれに寄りかかって彼を見た。


「我々が今まで散々追って逃げられた男が、自ら首輪をはめてくれるといってくれているんだ。これ以上破格な条件はないだろう。それに、これ以上の各国への刺激は避けたい。日本が資本主義を止めるとも思えないが、わが国が第三次世界大戦の引き鉄を引いた、なんて歴史は避けたい。それとも国防長官はもっといい方法でも提案できるのかい」


 逆に聞かれて国防長官は黙りこくってしまった。


 また、他に意見は無いかどうか確認する為、この会議場に並んだ人々を見回した。


 けれども誰一人として発言することは無かった。


 決まりだ、とその場にいる全員に伝えるように大統領は言った。


「そういうことだ。認めよう」


『感謝します、閣下』


 相変らずの男だ、と内心大統領は呟いた。


「それで、こんな約束を合衆国と取り付けて、君はこれからどうするんだ」


『しばらくあの街にとどまろうかと思うのです』


 意外な事を言うハーヴェイに、大統領は内心驚いた。


「何の変哲も無い極東の片田舎じゃないか。私も、君が行くまではそんな街があるともしらなかったような」


『私もそうでした。実のところ私というより“娘”が気に入っていまして』


「娘? 確か、君には娘はいなかったと思ったが?」


『ええ、つい先日までは。でも、今はいますよ』


 その答えに彼が何を言っているのか大統領は理解した。


「……変わったね、君も」


『私は変わっていません。彼女が変わっただけです』


「そうか」


『では大統領、私はこれで。折角纏めた荷物の荷解きをしないといけないので』


「ああ。くれぐれも自分で言った事は守ってくれ。今だって君のお蔭で私は立場が危ういんだ」


『出来る範囲で気をつけます。それでは』


 そして電話が途切れた。


「という訳だ。今後は勝手な行動は私が許さない」


 そういって威圧するように全員の顔を一瞥した大統領。


 そして、ふとハーヴェイの顔を思い出し。


「確かに。君は昔からそういう奴だったな」


 懐かしむように、彼は笑うのだった。

次でとりあえずおわりかな。

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