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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(19)

「まるでお祭り騒ぎね」


「そうだね」


 黄昏色に染まる夕暮れ。


 僕等は中学校からさほど離れていない川沿いにある巨大な電波塔に腰掛け下、学校のほうを見下ろしていた。


 瓦礫と化した校舎のまわり、自衛隊の車両や救急車、消防車、パトカーなどが何台も集まっていた。


 敷地のまわりの道路も至るところが閉鎖され、一般市民はおろかマスコミも近づけない状況であった。


 避難した生徒は一時的に市役所に集められているらしい。行方不明者の捜索を行っているという話だから、おそらく僕等のことを探しているのだろう。


「アレだけドンパチやって怪我人だけって凄いよね。ご都合主義もいいところだ」


「そうね」


「結局、兵隊達はどうなったんだろう」


「みんな川伝いに逃がしたそうよ」


「逃がしたって、ハーヴェイさんが?」


 それ以外に誰が、と彼女は返事をした。


「物好きよね。態々自分を狙った相手を逃がすなんて。まぁ、アレが物好きなのは今に始まったことじゃないし」


「それじゃ、今回の件ってどうなるんだろう。犯人達は全員行方不明。犯行声明は出ているようで出てない状況で何でこんな事が起こったのか、と」


「さぁ。でももっぱら話に上がっているのは誰がこんな片田舎でテロを起こしたかということよりも、協力という名目で派手な軍事行動を起こしたアメリカに対して非難よ。そのあたり日本も誰が犯人か分かっているんじゃないかしら。けれど、証拠も何も全部吹き飛んじゃったし。本当は在日米軍との共同調査で証拠隠滅しようとしたけれど、日本は珍しく強きで一切アメリカの介入を拒否しているからそれも無理。当然といえば当然よね。日本は日本でアメリカの自作自演の証拠を見つけたいんでしょ。まぁ、経緯も経緯だからアメリカも強硬姿勢が取れるわけない。それに、日本だけじゃなく世界中からもアメリカの軍事行動への非難の声明が出ているのだから、そうそう動けないわよ。あらゆる政治思想の国がこぞってアメリカは日本で第三次世界大戦を起こす気かって。もはや目立った行動は出来ないわよ」


「それじゃこれ以上は無いかな」


「やる気ならそれはよっぽどアレな頭の持ち主よ。当面は動かない、というか動けないと考えていい

じゃないかしら」


 それはよかった、と僕は返した。


 そして、沈黙。その沈黙が気まずい。


 見れば彩月さんは何処か遠くを見ているようで、何か決意めいた表情をしていた。


「私、決めたことがあるの」


 おもむろに彼女は言った。


「何かな」


 口にしようとして彼女は躊躇した。けれど、意を決したように話を続けた。


「やっぱり、私行くわ。ここにいたら越智君たちに迷惑をかけるから」


「……そう」


 なんとなく分かっていた答えだ。


「本当に感謝しているの。こんな私でも気長に付き合ってくれて、気にしてくれた人、始めてだったから」


「そんなことは無いよ。他にもきっと同じように気にかけてくれてた人はいたよ」


「……そうね。そうかもしれない。けど、私はそれに気付けなかった。気付かせてくれたのは貴方。越智君よ」


 そういって彼女は振り返った。


「東君、ありがとう」


 そして彼女は僕の頬に手をふれ、唇を交わした。


「さようなら」


 儚げに笑った。







 こうして彼女達はいってしまった。


 僕は彼女に何か言葉をかけることも引きとめることも出来なかった。


 おそらく、もう二度と会うことは無いだろう。


 結局、何一つ僕は彼女に伝えることは出来なかった。







 どうして彼は私に興味なんて持ったのだろうか。


 僅か半年にも満たない記憶を思い返しながら、私は部屋の隅に蹲っていた。


 教室で初めて彼に話しかけられたこと。


 放課後、いつも声を掛けてくれたこと。


 誰の提案だか、二人と一緒に私の後を追いかけてきていたときのこと。


 私の事を思っていっしょに部活をまわったこと。


 夏祭り。彼が私の手を引いてあるいたこと。


 いつだって彼は私の事を見ていてくれていた。


 そんな彼ともう会えなくなる。


 胸が締め付けられるような感覚。


 痛覚が無いのだから痛みなんて感じない。


 けれどこの息苦しさはなんだろう。


 思い返せば彼の顔ばかりが浮かぶ。


 彼のお蔭で生まれた感情。


 喜び、楽しみ、幸せ。


 彼と話しているだけで、彼と一緒にいるだけで幸せだった。


 その彼ももういない。そのことが酷く私の胸を締め付ける。


 まるで肺が締め付けられるよう。肺なんてないし、息もしない。けれども、こんなにも息苦しい。


 こんなに、こんなにも苦しいのなら。


「こんなに苦しいのなら、感情なんてなければよかった」


 けれども、捨てたくはない。


 例え苦しくても、これは彼がくれたものだから。


 でも、本当は苦しいのが嫌なんかじゃない。


 本当に嫌なのは、彼がいないこと。


「それじゃあ、いこうか」


 不意に現れたあいつが言う。


 私は決めたんだ。私がいると彼に迷惑が掛かる。


 だから、行かなきゃ行けない。


 けれど。


「私、行きたくない」


 自然と言葉が出た。


「君が決めたことだろう」


 確かにそうだ。ムカつくけどアイツの言うとおりだ。


 私がいるから連中がやってくる。連中がやってくればまた彼らに迷惑がかかる。今、連中がここに来なくたっていずれまた連中はやってくる。その時にまた彼を守れるかどうかなんて分からない。だから、私は行かないといけない。


 実に論理的な答え。でも。


「ハーヴェイ、私は彼と一緒にいたい」


 そんな論理到底受け入れられなかった。


 東君と、彼と別れたくなかった。


「……EVE、初めてお前が俺の名前を呼んだよ」


 どういうわけだかハーヴェイは心底驚いた風だった。


「けど、私達が少年と一緒にいればどうなるかお前も分かっているんだろう。それに決めたんだろう」

「そうよ。そうだけど」


 まるでわがままな子どもだな、とハーヴェイは言った。


「まぁ、しかし。どうせすぐには連中もこれないのだからもう少し冷静になって考えてみるといい。結局のところどの選択肢が一番いいのか、という事を」


 それだけいうと、ハーヴェイはこの場から立ち去った。

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