彼女と僕と(16)
雨霰のように落ちる爆弾。華のような炎がいたるところで燃え盛る。
割れんばかりの轟音が耳を叩く。激しい衝撃が身体を打つ。燃えるような熱風が肌を焼く。
ひび割れたコンクリートの床はいたるところで波うつ。辛うじて形を残した校舎が崩壊した。
咄嗟に捕まろうとしたロープも、そもそも固定していた箇所が崩れて意味をなさなくなる。ロープを握ったまま、驚いたような、唖然としたような表情で正悟や三九二君、それに他の兵士達が落ちていく。
崩落する瓦礫の中、落ちるJの服を掴んでたわむロープを掴むハーヴェイさんの姿があった。彼は僕のほうを見て、Jを引っ張った。引っ張られたJはこちらを見て手を伸ばした。
僕はそれを掴もうと手を伸ばした。もう少しで届きそうなところで手は虚空を掴んだ。
彼は何か悪態をついてさらに手を伸ばしたが、もはや届かない位置だ。
崩れる足場にバランスを崩して、僕は背中の方へと倒れ込む。後は重力に引かれて落ちるだけだ。
同様に落下していくハーヴェイさんと目が合った。すると、彼は笑った。
何でこのタイミングで笑うのか。視線は直ぐに外れて空を仰ぐ。
視界いっぱいを埋める炎の塊と黒い煙。その隙間から嘘のような青い空。
校舎だったコンクリート片と、元は何だったか分からない金属の破片。
酷く緩慢に動く世界で、つかみ損ねた手だけが真っ直ぐ伸びる。
死の間際、過去の記憶が走馬灯のように脳裏をよぎるというが、浮かぶのは彼女の姿。
いつかの夕暮れ。教室に残った僕と彼女。
いつかの下校。帰路に着く彼女を追う僕等三人。
祭りの日、人ごみの中手を引いて歩く僕達。
そして、桜の木の下、儚げに佇む彼女の姿……。
そこで、唐突に伸ばした手を引っ張られた感覚に現実に戻る。
激しい爆音と焼きつくような爆炎の光の中、真っ黒い影が目の前を疾駆していた。
それは。
「彩月さん!」
彼女だった。




