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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(13)

 蜘蛛に似たような姿をしたロボットは、その8つの瞳をこちらに向けていた。


「アレ、スッゲー見てるけど」


 正悟がいった。


「まぁ、みてるねぇ」


 他人事のようにハーヴェイさんはいった。


「次世代戦車っていうくらいだから人が乗っている訳?」


 三九二君が聞いた。


「いや。そもそものオーダーが無人機だったからね。遠隔で動かせるようなものを希望していたはずだから、もしかしたら……」


 そういってハーヴェイさんはスマホの画面をいじり始めた。


「……んー、駄目だね。アクセスできない。きっと井垣君あたりがいじったんだろう。おそらく、アレは自律制御だよ」


 彼は肩を竦めた。


 シュピネが動き出した。折って立てていた8本の足を伸ばしていく。


「何してるんですか、アレ?」


 僕はハーヴェイさんに聞いた。


「んー、アレは。かなりまずいこと」


 落ち着いた雰囲気で、困ったように彼はいった。


 シュピネは八本の足全てを伸ばすと、次に附節にある杭を地面深く打ち込んだ。


 立て続け、リズミカルに八本の杭が地面に突き刺さると今度は身体を沈める。そして、腹部だけを上げ、そこから砲身のようなものがせり上がってきた。


「なにアレ、大砲? 随分代わった見た目だけど」


「でかい三角柱が四方に一つずつ。その奥に砲口みたいなの見えるけど、普通の戦車砲とかとも違うよな」


「そりゃそうだよ。アレは火薬で発射するものじゃないもの」


 三九二君と正悟が話していたところにハーヴェイさんが口を挟んだ。


 どういうこと、と二人が彼を見た。


 と、そこでシュピネの砲身のようなものに付く三角柱が光輝き始めた。そして、電気を放ち始めた。


「……なんかスッゲーやばい気がする」


 正悟が呟いた。



 直後、砲身から光線が放たれた。


「レーザー!」


「いや、ビーム!」


「どっちも違うから」


 網膜に焼きつくような強い光が柱となって直進し、そして校舎に直撃した。


 激しい衝撃と大きな破砕音。


「お、おおおぉぉぉッ!?」


「や、やばい! マジやばい!」


「し、死ぬ、死ぬ!」


 地面がひっくり返らないばかりの揺れに彩月さんを除いた全員が床に倒れ込む。


 揺れる校舎からは火山が噴火したような煙が濛々と上がり、それに混じって大小様々な破片が空を舞った。


「狙ったのはチャペックか!」


 振り返っていたハーヴェイさんがそう叫んだ。


 見てみれば煙の中、下半身と片腕が無くなって空を舞うチャペックの姿があった。というか、アレだけの被害で済んでいるのが凄い。


 さらに、学校の敷地の外から聞こえる絶叫、悲鳴、阿鼻叫喚。煙で様子は覗えないものの、おそらく吹き飛んだ破片が野次馬の方に飛んでいったためだろう。


「洒落になってねーぞあいつら!」


 正悟が叫んだ。


「つか、中の連中も死んでない、コレ!」


 三九二君も叫んでいる。


「というか、逃げないと! 多分もう一発くるんじゃなかな!」


 僕も叫んだ。


「いや、それはないと思うんだけどね」


 屋上の出入り口に手をあてて立ち上がるハーヴェイさんはいった。


「どういうことです?」


 僕が聞くと彼は、待って、といって屋上の縁まで歩いていった。


「あーあ、学校に大穴開けちゃって。まぁ、いいや。いやね、アレ隠れて作ってたから満足にはできなかったのよ。一応はつけたけど排熱に問題があって1発が限界なんだよね。2発目撃てばおそらく爆発するんだが……」


 そういってハーヴェイさんは縁からシュピネを見る。


 濛々と上がる煙のなかから現れた蜘蛛型のロボットはいまだ腹部の砲身を光り輝かせていた。


「……撃てるね、アレ」


 ボソッと彼は呟いた。


「……ちょッ!!」


「……マジ!!」


「うーん、誰だかわからないけど余計な事をしてくれたね。改良加えられてる。何発でも撃てるよ」


 困ったものだ、とハーヴェイさんは肩を竦めた。


「ちょ、ちょっとまった。ということはアレ、直ぐにでも撃ってくるわけ?」


 というか撃つ気じゃない、と三九二君の問い彼は気軽に答えた。


「逃げよう、今すぐ逃げよう!」


「逃げようつったってどうやって逃げるんだよ、三九二。ここ屋上でまた仲良く飛び降りるのか。今度は校舎ごと狙い撃ちにされるぞ!」


「まぁ、落ちたところで少年の言うとおり狙い撃ちだ。それに、階段はおそらく駄目だろうね。身近にロープもないし、詰んでないかな、コレ」


「すっごい気楽ですよね、ハーヴェイさん」


「君も動じないよね。神経が図太いのか、麻痺しているのか、おかしいのか」


 そうこう僕等が話していると彩月さんはシュピレと向かいあうように屋上の縁に立った。


「彩月さん!?」


「おいおいまさかお前アレとやろうって気か、正気か」


「正気といわれても私人間じゃないし。それに、アレは無人なんでしょ」


「まぁそうだが、一応シュピレ気に入っているんだよ、私」


「だったら自分の手の届く範囲に保管してなさい。他の奴が動かしているならもう他の奴のものよ。それに、また作れるでしょ、あんな玩具」


 そういわれてハーヴェイさんは肩を竦めた。


「もしかしてオマエ、怒ってる?」


 首を傾げて聞く彼を、彩月さんは振り返って睨み付けた。


「この感情を怒っているっていうならそうかもね。コレだけ好きなように暴れて、私は一切手を出せずに、これまたいいようにやられっぱなしだもの。今の私じゃ昔みたいにはいそうね、で済ませられないわよ。それに、目の前の奴には好き勝手やっても大丈夫みたいだし」


 そうこう話しているうちに、シュピレが2発目の弾を撃った。


 輝く光の直線は想像通り屋上にいる僕等を狙っていた。


 1秒にも満たない時間。一瞬で到達する光線は。


 しかし、彩月さんによってあっさりと弾かれた。


「「「……は?」」」


 唖然とする僕等三人。あーあ、と呟くハーヴェイさん。


 彼女のとった動作はじつに単純だった。まるで、 飛んでいる羽虫を追い払うかのように手を払っただけで、校舎に大穴を開けたほどの威力のそれを弾き返したのだった。


 弾かれ軌道を変えた光の弾はそのまま技術棟へとぶち当たった。瞬間、爆音とともに2階建ての木造の古びた建物は一瞬で粉々に吹き飛び、隣接する剣道場も遅れて跡形もなくなった。


「「「……えぇ」」」


 あんまりな光景に言葉が出なかった。


 そんな僕等をよそに彩月さんは振り返り。


「徹底的にやってやるわ」


 ちょっと楽しそうに、憂さ晴らしでもするかのような気楽さで屋上から飛び降りていった。

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