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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(12)

「はッ! 本当にいかれてやがるあのガキ!」


 立て続く爆発音を聞き、Jは叫んだ。


 態々極東くんだりまで行方不明になっていたいかれた科学者とその発明品を追ってきたが、結局は逃げられ挙句に中学生にしてやられるとは、無能の極みと彼は内心毒づいた。


「どうするんだ、逃げられるぞ」


 隣の兵士が叫び返す。


「逃げられるか。上に行ってるんだ、逃げ番なんてない。それよりも外の奴らに伝えろ。今度は威嚇じゃなく狙えと。俺達は反対の階段から上がる」


 イエッサー、と別の兵士が答えた。


「本気か、相手は子どもだぞ!」


「子ども、確かに子どもだ」


 吐き捨てるようにJは叫ぶと、隣の兵士の胸倉の掴んだ。


「だからなんだ! ガキだからって許される限度がある。奴らは俺達に銃口を向けた。それは俺達に敵対すると同じ意味だ。なら、相手は子どもじゃい。それにガキだからなんだ。アフガンだろうとアフリカだろうと銃を持つガキはいた」


 彼の言葉を聞いた兵士は反論できずに黙り込んだ。


「た、隊長!」


 連絡を取っていた兵士が焦ったように叫ぶ。


「なんだ」


 Jは苛立ちながら返した。


「外のトラックからで、火器管制システムが誤作動を起こして動かないとの報告が」


「何をやっている、報告している暇があったらさっさと復旧しろ!」


「それと、屋上に」


「屋上に、何だ」


「屋上にハーヴェイ・ロウがいます」


 それを聞いた途端、Jはハッとする。


 アサルトライフルを構えたガキ。手榴弾を投げつけ、どこに逃げるかと思えば屋上への逃走。焦りでどん詰まりに嵌ったのかと思ったが、そもそも、ガキたちの背後には奴がいる。


 一杯食わされた。躊躇なく上に逃げた理由はそれか。


 大方完成システムが誤作動を起こしたのもあの男の所為だろう。


 兵士の報告を聞いた彼は心底不愉快そうに口元を歪める。何が訳わかんなくなっているだ、あの小僧!


「嵌めやがったクソッタレが!」


 そう叫び、彼は壁を殴りつけた。





 彩月さんを抱えて上がった屋上で待っていたのは、いつもの調子で飄々としているハーヴェイさんだった。


「と、いう訳でお疲れさん」


 実に気楽そうに彼は言った。


 しかし、ここまでどうやってきたのか。外にはかなり遠巻きに野次馬やらいつの間にかパトカーの大群やらがひしめいていた。


 一方で中学校の敷地への入り口の至る所にはトラックが止まっており、そのトラックからでたガトリングが狙いを定めている。おそらく、他のトラックも同じだろう。


 中に入ろうとすれば当然警察に止められるだろうし、例えその静止を振り切ろうとも銃弾の雨が降り注ぐだろう。


 それなのに彼は平然と、しかも屋上にいる。


「一体どんな魔法を使ったんです?」


 僕はハーヴェイさんに聞いた。


「ん? 魔法ってどういうこと」


「いや、どうやったらここに無事にこれるのかなぁ、と」


 ああ、と彼は言うとポケットからスマホを取り出すと画面を操作した。


 途端、ハーヴェイ博士の姿が消えた。


「え、どういうこと?」


「光学迷彩だよ、少年」


 ハーヴェイさんがさっきまで立っていたところで声がした。どうやら本当に消えていないらしい。


「具体的には特殊なスプレーを身体に振りかけてね、情報を電波で流すと周りの景色に合わせた映像を映すの。問題点といえばそれが中々上手くいかなかったり、あんまり汗かくと落ちちゃったりするかな、あんまり使える代物じゃない。ま、補助的なもので実は服の方も同じような仕組みになっているから、それの補助的なものかな」


 しれっととんでもない事を言ってのけるハーヴェイさん。やっぱり実はこの人物凄い人なんだなぁ。


「ところで、他の二人は大丈夫かい?」


 そういって彼は僕の後ろをみた。


 振り返ると、壁に腕をつき腰を折る正悟の姿と倒れ込む三九二君の姿があった。


「……無理っす」


 倒れている三九二君がいった。


「テンパってるとか、いかれてるとかいったり言われたりしたが、一番おかしいのはお前だ、あずま」


 気分悪そうな正悟が言った。


「なんか、酷く心外な事を言われてる気がする」


「阿呆、まともな神経してたらあんな銃弾が飛び交って爆発が起きて大人に脅されて、挙句に死にかかったらそんな平然としてられるか」


 といって正悟は吐いた。


「まぁ、彼の言うとおりだよね」


 ハーヴェイさんもそんな事を言う。


「……なんか、僕が普通じゃないって言われているみたい」


「みたい、じゃなくてそうなんだよ」


 いって正悟はまた吐いた。


「まぁ、彼がどうとか君がどうとかはここは置いておいて、とりあえず少年達、良く無事だった」


「まだ、完全に無事っていえる状況じゃないですけどね」


 今もって校舎の中には兵隊がいて、そして、外には重火器の搭載されたトラックが止まっている。逃げるにしたってそれらをどうこうしないといけないだろうし、まだ、もしかしたら何かあるのかもしれない。


「で、どうするんです?」


 まさかハーヴェイさんも無策でこんな場所まで来たわけではあるまい。何かしら、考え合っての行動だろう。


「さぁ、どうしようね?」


 ……考え合っての行動だよね。


 そうこうしていると、屋上の入り口の方から叫び声が聞こえ、さらに足音も近付いていた。


「やっぱり来るか。まぁ、そうだろうね」


 そういうとハーヴェイさんは手を叩く。すると、彼の真横に銀色のボディのチャペックが現れた。


「さぁ、チャペック。彼らを足止めして来るんだ」


 そういうと無機質なロボットは入り口の方へ歩いていく。


 階段をくだり姿が見えなくなって数秒後、悲鳴のような叫び声と銃声と、遅れて振動と物の破砕音が聞こえた。


「これでしばらくはあいつらもやってこないだろう」


 そういって悪い笑みを浮かべるハーヴェイさん。


 しかし、兵隊の危機がさってもトラックからまた砲撃されたら元も子もない。現に外のトラックはこちらに狙いを定めて砲撃できるのだから……。


 とそこで、その砲撃がないことに気付く。


「……撃ってきませんね」


 トラックが見えるか見えないかの位置で下を除くように見て僕は言った。


「そりゃそうだろうね」


 いってハーヴェイさんは笑う。


「……何かしました?」


「いやなに。遠隔で操作できる管制システムもなんありだなぁ、と。もっとも、そんなこと言ったら完璧なシステムなんてありゃしないんだけどね」


 スマホの画面をいじりながら彼は肩を竦めた。


「まぁ、でも子ども騙しもいつまでもつか。おそらく一番手っ取り早い方法で解除してくるだろうしね。彼は優秀だからね」


 さて困った、と彼は溢す。


 ……もしかして、この人本当に無計画なのか?


「……馬鹿と何とかは高いところがすきというけれど、まさか折角逃げた屋上にいるとは思わなかったわよ」


 その声に振り返ると横たわっていた彩月さんが頭を押さえながら身体を起こしていた。


「彩月さん!」


「ようやく起きたか」


「……寝るようなはめになったのは誰の所為?」


 そういう彼女は気分が悪そうに言った。


「体調はまだ悪いの?」


「……どうなのかしら。どこかおかしくなっているところはないと思うけれど、頭が痛いわ。痛覚はないと思うけれど、二日酔いってこんな気分なのかしら」


「一時的に回路が混乱しているだけと思うけれども。しかし、文句は井垣君に言ってくれたまえ。昔ちょっと話した事をしつこく覚えていて、そこをついてきたんだから。性格悪いよね、彼」


 そういって彼は肩を竦めた。


「まぁ、その内違和感はなくなると思うがね。お前はそんな軟じゃないだろうからな。さて、お前が目覚めたのなら外のを頼む。中の連中はチャペックで十分だろう。というか、そっちのほうがお前もやりやすいだろう」


 ハーヴェイさんは彩月さんに言った。


「で、また私に突っ込んで玉砕しろと」


 頭を押さえたままの彩月さんははき捨てるようにハーヴェイさんにいった。


 はいこれ、彼はポケットから銀色の輪を取り出した。


「銀の、ブレスレッド?」


 僕は言った。


「正確には電磁波を吸収する物。今改修なんてしていられないからね。即興で作った」


 パルス対策、とハーヴェイさんはしれっといった。


 出されたブレスレッドを彩月さんは受け取るとそれをはめた。


「なんていうか、無骨ね」


 自分ではめたブレスレッドを眺めて彩月さんは言った。


「そんなことはないと思うよ。似合っている」


 僕が言うと彼女は顔を赤くして意表をつかれた表情を見せた。


 それを見て、ハーヴェイさんは笑いを堪えた表情をした。


「……あー、漫談中申し訳ないんだけど、コレほんとうにどうやって逃げる訳?」


 不意に掛けられた声に振り返る僕達。


 とりあえず落ち着いたのか、しかし、壁に寄りかかって座り込んでいる正悟が言った。相変らず三九二君は寝転がっている。


「んー、君らがいると下手な小細工もないからねぇ。中はチャペック、外は彼女に任せてそのうちに避難するよ」


「……結局力技。もうちょっとスマートな方法ないんすか」


「今更目立つも何もないでしょ。大体、向こうさんがド派手にやらかしてくれたお蔭で……」


 と、その時。甲高い警報音が鳴り響いた。僕達はいっせいにその方向を振り向いた。


 視線の先、そこは校庭のど真ん中だった。


 無造作に放置されたトラック。その荷台が開いていく。


「……何アレ?」


「……なんだありゃ」


「……砲台、じゃないよね」


「……呆れた」


「ははは、本当に本気なんだなぁお偉いさんは。私より力技じゃないか」


 茫然とする僕等を余所に、呆れる彩月さんと笑うハーヴェイさんはどうやら積荷の正体を知っているらしい。


「……あれ、知ってるんですか?」


「知っているも何も、アレ作ったの私だもの」


 僕等は一斉に振り返った。


「いやね、いつだったか次世代型戦車を作るようにいわれてね、あんまり乗り気じゃなかったんだけど設計図描いていたらノッてきてね、気がついたら力作が完成しちゃって。ああでも、問題が一つあって如何せん金額が洒落にならなくて、B-2がアレ1機で3機作れちゃうの。そんなもんだから提出したのはいいけど採用されなかったの。仕方ないからこっそり作っててね、完成したタイミングでばれちゃって大目玉。廃棄するとか言われたんだけど、何だあいつら残してたじゃないか」


 あっはっはっは、と笑うハーヴェイさん。目下その趣味の作品が脅威になっているんですが。そして、その機体が身体を起こす。


「次世代戦車っていうくらいですからあれ、陸戦用なんですよね」


「そうだよ」


「陸戦なのはわかるけど、俺が見る限りあれキャタピラじゃなくて足が生えているように見えるんだが」


 ああ、僕の見間違いじゃないんだ、あれ。


 もっとも、足といってもトリコロールカラーのロボットや、白と黒と胸の赤いマークみたいなのがあるロボットみたいに普通の足ではなく、むしろ昆虫のような節足動物の足が生えていた。起き上がったその見た目は蜘蛛だ。


「前後にそれぞれ2本ずつ付いていてね。脛節にあたる部分にキャタピラが付いていて折れば戦車みたいに走れるの。で、普通に走るだけならキャタピラで十分だけど、どこでも動けるようにと足8本にしたわけ。附節にはパイルバンカーが付いていてしっかり機体を固定できるようになっている訳」


 訳じゃないし。


「さらに搭載物としてガトリングが二門。口の位置にあたる部分からは火炎放射。目には熱センサーや暗視装置、ライトとかその他もろもろ。注目すべきはその背。機雷、ミサイル、大型口径砲等々と兵器のオンパレード」


 まるで小学生が考えたような、僕が考えた最強の戦車、といった風だ。とてもじゃないけど正気じゃない。


「コンセプトは“歩く武器庫”。1機で都市を制圧する事を目的とした都市制圧兵器。その名は“シュピネ”!」


 そう胸を張って言い放つハーヴェイさん。


 呆れて物も言えなくなった僕等を余所に、彼等の秘密兵器、シュピネがこちらに狙いを定めた。

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