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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(11)

「気付いていたのか」


 そうJの声に驚きはなかった。


「ハーヴェイさんが言ってたからね。それでなくても、こんな片田舎にテロリストがやってくる意味も分からないし、思い当たることもある」


 だろうな、と彼も苦笑する。


「子どもが考えたって無理がある作戦だ。だが、アーリントンの連中はその無理を実行しろという。いや、連中も無理は知ってるだろう。それでも、それとあの男には価値があると思っているんだろう」


 吐き捨てるように彼はいった。


「本当は今ここでそれを壊し、あのクレイジーな男を殺してしまえばそれこそ平和的なんだろうが、あくまで命令は絶対だ」


「あの時は殺す気だったじゃないか」


 ついこの前の夜を思い出して僕はいった。


「お前達が指示を無視して攻撃したからだ。こちらとしてはアレはれっきとした正当防衛のうちだ」

「銃を突きつけておいて、正当防衛を主張するのか」


「適切な話し合い、と我々は思っている」


 あれが適切というなら大体の悪党はまともの部類に入ってしまう。


 ともあれ、彼らがそう考えているなら建設的な話し合いなんて望めないだろう。あくまで彼らが希望する答えが絶対であり、こちらの意見なんて取り扱うつもりなんてさらさらないのだ。


「それで、どうする。今、この場でそれから離れるならお前に危害を加えることはない。我々も好んで殺しをしてるわけではない」


 よく言う、と心底思う。


「嫌だ、といったら?」


 まぁ、凡そ予想は付くけれど。


「あの男とそれの協力者と判断し、我々への敵対行動と見なして行動させてもらう」


 言うとJは手に持っていたアサルトライフルを肩にかけ、胸のホルスターから拳銃を抜き取ると、スライドを引いた。分かりやすい警告だ。つまるところ撃つぞ、と。


 もっとも、脅されたところで答えは決まっている訳で。


「それで、答えは」


 スライドを引いただけの拳銃をホルスターに戻した彼は僕に言った。


 聞いた僕は口元を吊り上げて。


「答えは、ノーだ」


 答えた。


 そうか、とJは答えると。


「分かった」


 そういい、肩にかけたアサルトライフルを構え、引き金に指を掛けた。


 その時。


「動くな! あ、いや、ドントムーヴ、なのか!?」


 ちょっと気の抜けた叫び声。


 その声に一斉に兵士達が振り向こうとした瞬間に三発の銃声。


「待った、ストップ。振り向くな!」


 通じるのかいまいち分からない警告。幸いなことに兵士達には通じたようで、正面をから45度程向いたところで兵士達は固まっていた。


 僕と兵士達に一斉に緊張が走る。


 上がってきた階段に続く入り口。そこに見慣れた二人の姿。


「正悟!? と三九二君」


 やっぱりついでか、と三九二君は叫ぶ。そこにいたのは、アサルトライフルを構える二人の姿だった。


「よぉ、あずま元気そうだな。あやのほうは元気そうじゃなさそうってかそれ生きてんの?」


 銃底を肩にあててサイトを覗く正悟が聞く。


「分からない。大丈夫だとは思うけど、大丈夫じゃないかも」


 どっちだよ、と正悟は苦笑する。


 と、兵士達が互いに目配せをしていた。


「って動くな、動くなよ。動くなっつってんだよ。わかんねー、日本語わからねー? 俺も英語わかんねーけどな」


 傍から見ても興奮している正悟はかなり危なっかしい。うっかり引き鉄を引いてしまいそうな気配だ。


 そんな様子を察してか、J以外の他の兵士たちが正悟に声を掛けた。ただ、英語なので何を言っているのか分からず、ニュアンスから察するに落ち着け、とそれに類する言葉。


「だから動くなっつってんだよ。さっきから屋上から飛び降りるだ、銃で撃たれるは、挙句の果てに爆発するわで訳わかんねーんだよ。そして、たいして思い入れのねぇ校舎は廃墟寸前だ。一体全体何だってんだよ」


 引き鉄に指を当てて正悟は叫ぶ。まったく聞いちゃいないのである。


「何をやっているのかわかっているのか?」


 そこでJがこっちを向いたままいった。


「何をやっているかなんかわかんねーよ。やけくそだ、やけくそ。ってか日本語わかんじゃねーか」


「アレ、あのおっさんどっかで見覚えあるぜ」


「そりゃアメリカ人だからな、正体は。見覚えっていうか、もろ俺達に銃突きつけてた野郎じゃねーか。名前は、何つったっけ。頭文字一つの、J?」


 撃つ、撃つ、撃っちまう、と正悟。聞いた三九二君は物凄く困った表情。僕から見ても正悟は正気に見えなかった。


「お前達、自分達が今何をしているのか分かっているのか」


 平静を保ってJは正悟に話しかけているが、彼は明らかに緊張していた。


「だからわかんねっつってんだろう。さっきからこっちはテンパってるって言ってんだろう。テンパるってどういう意味だわかる。クレイジーって意味だよ」


 違うと思う。だけど、まともでないという点では確かに今正悟はそんな感じではある。


「学校のことは悪いと思っている。しかし、これは世界平和のためだ。それは分かるだろう。コレは高度な政治の話だ。今あのクレイジーな博士とそれを回収しなければ、今後世界の軍事バランスがどう崩れるか分からない。不安定な情勢は世界に戦争をもたらすことになる」


「そうかい。そんなもんで崩れる平和だったらいっそ崩れっちまえって思うぜ」


 正悟は皮肉っぽくいった。


「正直なところあのいかれたおっさんがどうなろうが知ったこっちゃねぇけどさ、そこのひ弱そうな奴とそこに寝てる女の皮を被ったおっかない奴は俺達の友達だからな。平和とか戦争とかを名目に連れて行かれるのは意味わからねーのよ。大体、俺達中学生でまだ子どもだぜ。そういうのは大人がやることで、子どもを巻き込むなよ」


「考え違いをしているようだが、アレは兵器だ」


「生憎と、俺達はそうは思ってないぜ」


 そういって笑う正悟を、Jはその瞳に敵愾心を燃やし、肩越しに睨む。


「ところであずま、あやは起きそうか?」


「起きそうにはないかな」


「じゃあ、引っ張れるか?」


「自慢じゃないけど、非力なのは正悟も知ってるでしょ」


 本以上の重いものは持ったことがない。冗談だけど。


「生憎と俺も三九二も手伝えねーんだ。どうにかしろ」


 無茶苦茶な、と正悟に返しつつも彩月さんが起きない限りそれ以外の方法を僕も思いつかない。


 とはいうものの、実際に人一人をらくらく引きずるには本当に僕は非力だ。彩月さんと僕の身長は同じくらいだし、体重も同じだろうと思うのだが。


 そう思って脇から手を伸ばし身体を固定する。そして、思い切って立ち上がる。あ、意外といけそう。


「大丈夫っぽい」


 ならさっさとこい、とにべもない。


 僕はそのまま後ろ向きに正悟たちの方向に向かう。佇む兵士の視線が怖い。


 不意にその中の一人が膝をぬいた。


「だから、動くなよ。さっきから言ってんだろう。今の俺は何をするかわかんねーぞ。あずまがいたって撃つかもしんねーぞ」


 それに気付いた正悟が叫ぶ。洒落になっていない。兵士はびくっと震えると、そのまま立ち止まった。


 そして兵士達の真横を通り、彩月さんを引きずって正悟達の隣まで辿りついた。


「で、これからどうするの」


 小声で聞く。


「考えがある」


 兵士達を見据えたままで正悟が答えた。


「考え?」


 下で話したとおり、と三九二君に耳打ちする。それを聞いた三九二君は引き攣った笑みを浮かべた。


「正気か。マジでやるの?」


「おうよ。つか、この中でまともな考え持ってる奴がいるか」


 俺だけ、と三九二君は自分を指差す。


「具体的な説明は省く。あずま、三九二とあやを担いで階段上がれ」


「また上に? さっき降りてきたばっかりで、結局追い込まれない」


 大丈夫、と正悟は断言する。


「正悟はどうする気?」


「見ての通り」


 兵士に銃口を突きつけたまま正悟は話した。


「ここは俺が食い止める、的なそういう?」


「それが出来るように見えるか?」


 まったく。


「まぁ、なるようになるさ。ていうか、なるようになってもらわないと困るし」


 断言した割には頼りない。


「いいから、いけ、早く」


 正悟がせかすと、三九二君は手に持っていたライフルを置いた。


「本気か。一人で。ローン・レンジャーのつもりか?」


 その様子をみたJが言った。


「それって俺がジョニデに似てるってこと」


 その答えは色々間違っている。


 三九二君と僕とで彩月さんを担ぐと、そのまま階段を上がっていく。


 下では兵士達と正悟の一触即発の空気が張り詰める。


 1分、1秒が酷く長く引き伸ばされたような錯覚を覚えた。


 そして、僕等が踊り場に辿り着いたところで、


「ちょっと待った」


 そういって三九二君が振り返って下の階を見た。


「本当にやるのか」


「本当にやるんだ」


「どうなってもしらねーぞ」


「どうとでもなれってんだ」


 わかったよ、と半ばやけ気味で三九二君は答える。そして、彼は自分のポケットをまさぐった。次にそこから出てきたのは手榴弾だった。


 ……え?


「もう、どうにでもなーれ!」


 叫んだ安全ピンをぬいて、三九二君はそれを2階の廊下目掛けて投げつけた。


 そして、三九二君が叫んだタイミングで正悟が手に持ったアサルトライフルを放って階段の方へと飛び込んだ。


 瞬間、一斉に放たれる銃弾の嵐。驚く速さで兵士達は反撃を行っていたのだった。


「くっそはめられた! 何が大丈夫だ、全然駄目じゃねーか、死ぬところだったぞ!」


 転がり込んだ正悟が叫びながら目の前の防火扉を蹴飛ばした。


 止め具が外れて弾かれるように防火扉が閉まっていく。


 銃声が直ぐにやみ、次いで殺到する足音が聞こえた。


 兵士達が迫っていたが、閉まっていく扉から手榴弾が転がり出て行ったところで彼らもまた叫び声を上げて一斉に戻っていく。同時に正悟も必死に階段を駆け上がる。


「というか二人とも本気なの!?」


 お前にだけは言われたくねぇ、と二人は同時に僕に向かっていった。


「それよりも、あずまはぼさっと立ってないでさっさとあやを担いで上がれ!」


 踊り場まで来た正悟に言われて慌てて彩月さんを三九二君と担ぐ。そして、二人三脚みたいに駆け上がり、三階に辿り着くところで手榴弾が爆発した。


 揺れる校舎。もたれる足。危うく転びそうになったところを何とか耐えた。


「見ろよ、見てる余裕ないだろうけど、防火扉拉げてるぜ」


 手摺りを掴んで下を見る正悟がいる。言ったとおり見てる余裕がないので僕等二人はさらに上がっていく。


「ほら、次!」


 そういう正悟はポケットから手榴弾を取り出し下に放った。


「一体何個もってるの!?」


「ああ、なんか下で伸びてた兵士がいっぱいいたろ。そいつらからあるだけ掻っ攫った」


 よくあるだろう、と正悟。あってたまるか。


「二人ともまともじゃないよ」


「まともでこんな事やってられっか」


 正悟が言った瞬間、2個目の手榴弾が爆発した。


 階段の真下で爆発した所為か先ほどよりもゆれが酷い。


 思わず壁に寄りかかる。見れば下から炎が吹き上げていた。


「無茶苦茶だ!」


「知るか。最初に無茶やってんのは向こうだ!」


 間違ってはいないけど、どっちが悪いんだか分からなくなってきている。


 しかし、散々手榴弾を投げている所為か、下から兵士が来る気配がない。


「で、どこに逃げるの?」


「とりあえず、屋上!」


「また、飛び降りる気?」


「詳しくは俺もしらねぇ、ただ、行けば分かるさ」


 そういって先行しつつも下に手榴弾を放っていく爆弾魔。僕はその後を続いた。

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