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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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出会いは突然に(4)






 開けて翌日。僕はなんともいえない気分で通学していた。


 橋を越えたあたりで珍しく正悟と行き会った。いつも自転車を漕ぐよりも大分遅いスピードで。


「やぁ、正悟。珍しいねこんな時間に」


 ふらふら走る正悟の背中に声を掛けた。振り返る彼もまた微妙な表情をしていた。


「よぉ」


「ああ、その顔。昨日のこと」


「おうよ。女が頭のおかしなおっさんに化けた話」


 彼女とあの白衣のヤマダさんとは全く関係ないと思うのだが。


「なんだその不満そうな顔。今言ったの気にしたのか?」


「……別に。別のこと考えただけ」


 あっそ、と興味なさそうに前を向いた。僕はその隣に並んだ。


 そのまましばらく無言で走る。


「……凄かったね、あの人」


 川から起き上がった妖怪染みた白衣の姿が脳裏をよぎる。


「ああ、色々衝撃だった。何より衝撃だったのはあの怪人この町に住むっていってなかったか」


「……まぁ、冗談だと思いたい」


 冗談じゃなかったときのことを考えると頭が痛くなる。この片田舎に新しい怪談が出来かねない。


「ともあれ、あのおっさんのことを考えるのは止めだ。不毛だ、不毛すぎる」


「真っ当な人ではなかったからね。でも、別にまたこの町で会うって訳じゃないだろうし」


「それよりも女。お前が見たって言う女の方」


「……なんだか僕よりも正悟の方が気になってない?」


「そりゃお前のお眼鏡に適った女だぜ。気になるだろうが」


 何がそんなに気になるのか、隣で走る正悟はにやけ顔だ。


「昨日からそれ、なんか嫌だなぁ」


 聞いた正悟がくっくっと肩を震わせ笑っていた。感じ悪い。


「……いいや、もう。先行くよ」


 そういって僕は思い切り自転車を漕ぎ出す。


「怒ったか。流石に言い過ぎたかねって、おい待てよ」


 遅れた正悟が僕を追う。


 桜の散る通学路。小川に沿って立ち並ぶ桜並木。


 昨日、彼女と出会ったその場所。チラッと振り向く。


 そこには女の子も不審者もおらず、ただの風景としてそこにあった。


 果たして僕が見たのは何だったのだろうか。


 幽霊か、はたまた妖精か。


 今のご時勢にそんな非科学的な。いつか思い返したら恥ずかしくなりそうな考えを頭を振って払い、意味なく急いで学校へと向かった。







 そうして登校してみると学校はちょっとしたお祭り騒ぎと化していた。


「一体全体どうなってんだこりゃ」


「なんだろうね。春先に何かイベントあったっけ、この学校」


「さぁ、聞いたことねーけどな」


 イベントだとしても少し異様な空気ではあったけれどね。


 自転車置き場から昇降口にやってきた僕たちの感想はそれだった。何せ入り口から校舎内にかけて人山の黒だかりが出来上がっていたからだ。


 男子、女子。一年、二年、三年。運動部、文化部。それこそこの学校に所属している人間が隔たりなく、よって集まってごった返しているような感じだった。ただ、比重としては若干女子が多め。


 そんな人だかりは伸びている先は職員室の方に伸びていた。


「おまえらー!! もうすぐホームルーム始まるんだからさっさと教室上がれー!!」


 体育件生徒指導の浅黒い肌の先生が怒鳴っていた。それ以外にも手漉きの先生が生徒を無理やり教室に戻そうとしていた。


「ご苦労なこって」


「それってどっち。野次馬っぽい生徒の方? それとも職務全うしている先生の方?」


 両方、と興味なさそうに正悟がいった。


 僕たちはそんな人だかりを無視し下駄箱で靴を履き替える。そんな最中でも生徒たちの話し声は耳に入ってきた。


 何でも保護者に連れられた転校生がいるらしい。それが超絶美人だとか超可愛い子だとか美少年だとか。そして、その付き添いで来ている保護者も保護者のほうでかなりのイケメンらしく、まるでモデルのような人らしい、とのことだった。


 偶々朝早く来ていた運動部の生徒がその二人組みを見つけて度肝を抜かれたらしい。そんな訳だから写真はなく、とんでもない学生が転校してきたとすぐさまスマホからライングループに。


 そんなあほな、といつもは時間ぎりぎりに来る暇な学生が予定を早めて登校。偶然目撃に至った生徒も同様に放心状態。物的証拠というものは残らずにそのまま話だけが広まって現在に至っているという。


 そんな訳で物象もない話は尾ひれをつけて広がり、超絶美人だとか美少年だとか言うほかにゴリラのようだとか身長が2メートルを越す童顔だとか柳の下の幽霊だとか得体の知れない無責任な怪談も混じっていた。


「幽霊って死んでんじゃねーか」


「気になった? 見ていく?」


 心底嫌そうに、いいと正悟は言った。


 下駄箱から移動しようとするが目の前には人垣。男女混在、みんな一緒くたに一様に職員室の方向に向いている。


 僕たちはそろって互いの顔を見合わせると人並みの中に突っ込んだ。その瞬間。


「おい、校長室から出てきたぞ」


 誰か生徒が職員室のほうから叫んだ。途端、一斉に人並みが流れる。


「……ちょっ!?」


「クソ、俺たちは上に行きたいだけだよ!」


 本流に逆らえずに流される。向こうでは一斉に黄色い完成が上がった。


 僕たちは階段をスルー、そのまま職員室のほうへ流される。


 飛び交う歓声、怒号。昔、ビートルズやマドンナが来たときはこんな感じになったんだろうか。現代では感じられない熱量で、詰まる所みんな暇なんだろう。


 そんなことを考えながら押して押されて揉まれること数分、人並みから弾きだされた。


 そこには二人の大人が立っていた。


 一人は入学式以来顔を見たことがなかった校長先生。若干表情が引き攣っているようにも見えなくもない。


 もう一人の人物はというと一風変わった御仁だった。

 一目で日本人ではないと分かる堀の深い顔立ち。青みがかった眼も涼しげで、目元がきりっとしていた。黄色に近いブラウンの長い髪を後ろに纏めている。


 身長は180cm以上。モデル然としたスラッとした体型で、服装は仕立てのいいストライプのワインレッドのスーツに白のシャツ。


 映画や雑誌でもなかなかお目にかかれないような美形の外国人は、しかしどこかで見たことがあるような風貌なのであった。嫌な予感がする。


 その姿を見て僕も正悟も顔が引き攣っていた。


「やぁやぁやぁ、君たちの学校だったか!」


 やっぱり。ワインレッドのスーツの御仁は両手を広げていった。


 途端に周囲の生徒の視線が一斉に刺さる。誘導をしていた先生たちも僕たちの事を見た。


 ただ一人、校長だけが僕たちの顔を見る眼が親の仇でもみるような感じだった。

 そんな訳で転校生の保護者、もといワインレッドのスーツの男は、昨日小川に浮いていた白衣の怪人物、自称日本人のヤマダであり、何のことはない、彼のいったこの町に逗留するという話は頭を抱えてしまいたい程の何一つ嘘のない事実なのであった。

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