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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(9)

「よし! やったぞ!」


 校舎四階。自分が発射したロケット弾が爆発したのを確認した中東風の格好をした兵士は歓喜の声を上げた。


 もうもうと上がる黒い煙。おそらくあのロボットは跡形もなくなっているだろう。


 国からの命令はロボットの確保だったが冗談ではない。あんな出鱈目が服を着て歩いているようなもの、今すぐ叩き壊さなければ後々どうなるか分かったものではない。


 兵士は壁に寄りかかって座り込んだ。そして見上げる。その視線の先には天井にアルミの柱が深々と突き刺さっていた。


 今思うだけでもぞっとする。少しでも反応が遅かったら今頃自分はミンチになっていたかもしれない。


 耳にしたイヤホンからは隊長の誰が撃ったという怒鳴り声がやまないが知ったこっちゃない。そもそも、確保なんて命令ご丁寧に守っていたらこっちの命がいくつあっても足りない。


 深く息を吸い、吐いた。


 あんなモノのがこの世にあったことも信じられないが、それを作った男も大概ではない。


 ハーヴェイ・ロウ。


世紀の天才と呼ばれる科学者。ただ、自分にしてみれば悪夢以外何でもない。


国は再び彼を連れ戻そうとしているが、とてもじゃないが正気に思えない。自分達が扱えないものなんぞ、後に災禍をもたらすに決まっている。


 故に、捕獲なんぞせずに今すぐ見つけ出し、撃ち殺すべきだが……。


『待て! クソ、駄目だ!』


 不意にイヤホンから聞こえた声に顔を上げ振り返った。


「……あの野郎!」


 下を見下ろし吐き捨てた兵士。


 もうもうと上がる黒い煙。その中からあのロボットが男を連れて姿を現したのだった。







 ロケット弾が爆発した後、黒い煙が上がる中彩月さんは僕の手を引き直ぐに走り出した。


 割れて地面に散乱したガラス片を踏みつけながら、校舎の廊下を昇降口の方へとかけていく。


 煙を抜けて視界が晴れて数秒後、直ぐまた校舎中から銃弾の雨が降り注いだ。それは僕等の後を追うように迫ってくる。


 正悟や三九二君は大丈夫だろうか。


 振り返ってみれば校舎の廊下や壁を砕いて火線が迫っていた。ただ、二人のいる教室の壁は一応大丈夫な様子だった。


「……やっぱり来るのね」


「え、何が」


 忌々しそうに言う彩月さんに僕は尋ねたが、直ぐにその答えがやってきた。


 目の前。左にある昇降口に続く廊下から中東風の格好をした兵士が二人やってきたのだった。


 完全に挟まれたのだった。


「まずいよ、彩月さん!」


「知ってる!」


 叫ぶ彼女が僕を掴んでいた手を離した。


「そのまま走って!」


 そういう理由を聞く間もなく彩月さんが一気に加速する。いや、むしろ射出したような勢いだった。


 爆発するような瞬発で兵士達との距離を一瞬で縮める。彼らが引き鉄を引くよりも早く、彩月さんは先頭にいる兵士に肩から体当たりをした。


 体当たりされた兵士は身体をくの字に折り吹き飛ぶ。それに巻き込まれ、後ろに立っていた兵士も一緒にすっ飛んだ。


 彩月さんはまた踏み込むと教室側の壁に跳び付き、さらにそこから昇降口に続く廊下の壁に跳び付いた。


「そのままついてきて!」


 いうと彼女は手元の消火器を拾い上げ、自分が見ている方向に放り投げた。


 次いで聞こえる絶叫。遅れて聞こえる硬いものを破砕する音。間もなく彩月さんも僕の視界から消えた。


 背後からは鉛の弾が風を切る音。僕は全力で走り続けた。


 何枚ものガラスが割れる音を聞き、昇降口に続く廊下についた僕が目にしたのは伏せる兵士達と、散弾のように砕けて破片となって吹き飛ぶトロフィーや楯の破片と、同様の状態で煌くガラス片と、そして金属ロッカーに回し蹴りを決めている彩月さんの姿だった。


 凄まじい音を立てて拉げた金属ロッカーが宙を舞う。顔を上げて銃を構えようと思っていた兵士達だったが、迫る巨大な金属の塊に再び顔を伏せた。


 そこですかさず走る彩月さん。伏せる兵士の目の前まで行くと先頭の兵士を蹴り上げた。


 サッカーボールのように職員室の方にすっ飛んでいく兵士。次いで彼女はその横で伏せていた兵士を掴む。そのまま振り被り、掴んだ兵士を昇降口の方に放り投げた。


 投げられた兵士は悲鳴を上げながら飛んでいく。とんだ先でさらに複数の悲鳴が聞こえた。


 とその時。伏せていた兵士の一人が起き上がり彩月さんに肩から体当たりした。


 あたったら吹き飛びそうな勢いのタックルをくらいながら、彼女は平然と佇む。むしろあたった兵士が驚きの顔を上げていた。


「邪魔、なのよ」


 彩月さんは兵士のベルトを掴んだ。


「貴方!」


 掴んだまま彩月さんは一回転して兵士を放り投げた。そのまますっ飛ぶ兵士に立ち上がろうとした兵士達が巻き込まれ、仲良く飛んでいく。


 あっという間に兵士が一人だけになった。


 恐る恐る顔を上げた兵士が、目の前に佇む彩月さんを見て変な悲鳴を上げた。彼女は迷わずその顔面を蹴り上げた。


「またかって何よ」


 呟いた彼女はしゃがみこむと兵士の持っていたアサルトライフルを取り上げる。そして何のこともなく職員室のほうへ発砲した。


「ぼさっとしてないでこっち来て」


 茫然と佇んでいた僕に彩月さんが言う。我に返った僕は急いで彼女の元に近付いた。


 銃を撃つ彼女の隣に座り込む。


「まったく。いい加減諦めてよあいつら」


 鬱陶しそうに彩月さんはいった。


「……彩月さん銃撃てたんだ」


「見よう見真似。というかそれ私に言う?」


 確かに。


「それよりも、早く2階に」


「え、また戻るの?」


「逃げ道がそっちしかないの。昇降口から出たら校門の前のに狙い撃ち。戻ればまた撃たれる。突っ切れないことはないだろうけれど数が不安。上にもいるだろうけれど、各階2人ずつなんだから下よりも突っ切るのが楽。むしろそうして数減らしたいの」


 片手でアサルトライフルを撃ちながら落ちている別のアサルトライフルを拾い上げる。


「こうして銃を撃って連中を釘付けにしている内にさっさと上がって」


 撃っていたライフルが弾切れを起こした瞬間、それを投げ捨て反対の銃を発砲した。


「わ、わかった」


 そういって僕は走り出す。


「あ、ちょっと待った!」


 そういって彼女は僕の袖を掴む。


「コレ、もってって」


 そういうと彼女は兵士からスプレー缶状のものをとり、それを僕に手渡した。


「え、何、スモーク?」


「スタン」


 さらっとそういう単語を話すのはどうかと思う。


「非殺傷だから大丈夫でしょ。それより急いで。弾切れるから」


 そう急かされて僕は階段を駆け上がった。


 踊り場まで出たところで銃声がやむ。やんだと同時に彩月さんが駆け上がってくる。直ぐに複数の足音が近付いてきた。


 あっという間に追いついた彼女は僕の隣に立った。


「手に持ってるの、1本貸して」


 そういって僕が持つスタングレネードを一本取り上げた。そして、安全ピンを引き抜きそれを下に投げた。


「耳を塞いで、下を見ない」


 言われて僕は耳を塞いだ。直後、下から激しい光。


 直視しなくてもその光に視界を焼かれる。一瞬、世界が白くなったが直ぐに色が戻る。


 彩月さんが隣で僕の肩を叩く。塞いだ耳を離せと手でやってみせた。


「これで少しは連中も止まってると思うけど」


 そういう彼女はすかさず二本目のスタングレネードを僕から取った。


 二階に辿りついた僕等は滑るように廊下に出る。そのまま、各組の教室等に走り抜けようとした時。


「……ッ! 伏せて!」


 そういって彩月さんが僕の事を押し倒した。


 直後、校舎の壁を砕いて銃弾が殺到した。

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