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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(8)

 そして僕等は宙を浮く。って。


「う、わぁぁぁぁぁぁっ!?」


「ま、マジで飛びやがったぁッ!?」


「え、だ、大丈夫な訳!?」


 服をなびかせ4階から地面に落ちる僕たち。紐もなければパラシュートもない。文字通りの落下。


 見下ろせば中庭の砂利とレンガが見える。


 1秒足らずで過ぎる窓の向こうでは、中東風の男達と逃げる生徒が茫然とこちらを見ている。目があう。


 傍から見たらどういう風に見えるのだろう。切羽詰った女の子が男三人掴んで無理心中、だろうか。自殺にしてはパワフルすぎるがどちらにせよ普通の人間からしてみたら正気じゃない。僕等も正気と思っていない。


 しかし、彼女は人間ではなくロボットなのだ。故に。


「な、何か考えあって飛んだんだよね!」


 勢いで飛んじゃった、とかないよね。戻りはきかない。何せ、もう地面が迫っている。


 僕の叫びを聞いた彩月さんは振り返りキョトンとした顔で。


「え? 何も考えてないよ」


 なんていった。


「えぇッ!?」


「ちょッ!?」


「おま、ふざっ!?」


 2階を通り過ぎたところで衝撃の告白。ちょっと、本当にただの無理心中だった。と思った瞬間。


「冗談よ」


 彼女が言うと同時に空中で静止した。


「……止まった?」


「……この前のと同じ、なのか」


「……死ぬかと、死ぬかと思った」


 衝撃はない。まるで重力が一瞬なくなったみたいに。


 比喩でもなんでもない。どういう原理かどういう理屈か。僕等は丁度ジャンプした瞬間を写した写真のように空中に止まっていた。


「落ちるよ」


 彩月さんそういった瞬間、重力が戻ってきた。


 1メートルほど高さを僕等は落ちる。腹這いで。


「うぐッ」


「あだッ」


「……おまえなぁ」


 連なり重なり山になる僕等。一方で彩月さんは音も立てずに着地をする。


「とりあえず屋上からは逃げれたがコレからどうす……」


 正悟がそこまでいいかけた時、僕等は思い切り彩月さんに引きずられた。


 彼女は横滑りするように校舎一階の廊下の窓ガラスの前まで移動して僕等を自分の後ろに放った。投げられた勢いで僕等は窓ガラスにぶつかった。


 直後、僕等がいた位置に屋上から容赦なく銃弾の雨が降り注いだ。


「悠長に次の手段なんて考えている暇あると思う」


 肩越しに振り返って僕等を見た彩月さんが言った。


「ねぇな、こりゃ」


 引き攣った笑みを浮かべて正悟がいった。


 屋上の4人組はすぐさま僕等の方向に銃口を変え乱射する。


 それに対応するように彩月さんが降り注ぐ銃口に向かい手をかざした。


 火薬の爆発音に混じり、空気の震える音。


 僕等4人目掛けて直進する鉛の弾は、見えない壁に阻まれるように彩月さんの前で右へ左へ兆弾した。


「この前もそうだけどさ、それって一体どういう原理なの?」


 三九二君が聞く。


「後で。今は逃げる」


 屋上を睨みつける彩月さんが言った。


 僕等は慌てて振り返ってガラス戸から校舎の中に入ろうとする。その時。


「待った、三人ともストップ!」


 咄嗟に叫んだ彩月さんの声に振り返った。


「あ、やばい」


「うっそだろ」


「冗談きつい」


 屋上から下、4階から2階までの各階廊下に2人ずつ佇む中東風の格好の兵隊は一様に銃を構えていた。


それを見た僕等は一斉に頭を押さえて伏せる。直後、一斉に火を噴いた。


 割れんばかりの火薬の爆発音。雨霰と打ちつける鉛の弾。


 レンガの地面が、植えられた樹木が、コンクリートの校舎の壁が削られ、砕かれ、粉々になっていく。


 硬質な音を立てて割れたガラスが僕等に降り注いだ。


「下手糞! どこ狙ってんだよ!」


 耳を押さえながら三九二君が叫ぶ。というのも明らかに僕等のいない位置に対しても弾を撃っているからだ。


 文字通りの出鱈目。向こうはプロの軍人。標的に当てるように訓練されているはずなのに、一体何を考えているのか。


「大方、あてても無駄と思っているから逃がさない方向に切り替えたんでしょ。まったく無茶苦茶するのね」


 忌々しそうに彩月さんがはき捨てる。成程、利に適っているけれど、本当にそういうの止めて欲しい。


「どうすんだコレ! 上より状況悪いぞ!」


 正悟が怒鳴る。分かっている、と彩月さんは返すと、僕等のほうに下がってきた。何をするのかと思っていると窓枠に手を伸ばしそれを掴んで平然と引きちぎった。


「……どっちが無茶苦茶だ」


 呆れたように正悟は彩月さんに言った。聞いた彼女がキッと正悟を睨みつけた。正悟は視線をそらした。


「たく、鬱陶しいのよ、貴方達!」


 そう叫びながら彩月さんは振り返る。同時にサイドスローで引き千切った窓枠を放り投げた。


 円盤さながらに回転しながら突き進むアルミニウムの窓枠は、4階にいる兵隊の片割れ目掛けて飛んでいく。


 アサルトライフルを撃っていた兵隊は、思わぬ反撃に真横に飛びのいた。そして、回転のこぎりじみた窓枠は、4階の窓辺のアルミの柱をへしきり、教室の壁を砕いて室内に消えていった。


「……出鱈目」


 三九二君もたまらず溢した。


 同じ階にいた兵隊と、屋上、1階下の兵隊が茫然と柱が刺さっていると思われる場所を見ていた。


「まだ、終わりじゃないわよ」


 そういう彩月さんを見ると、今度は手にコンクリート片を持っていた。そして、今度はそれをスナップを聞かせて放り投げた。


 砲弾よろしく真っ直ぐ飛んでいく拳大の破片は、今度は3階の兵隊を狙っていた。


 自分目掛けてくる破片を兵士はしゃがみ込んでやり過ごす。彼の頭があったあたりを通り過ぎる破片は、そのまま教室の壁を壊し室内へと消えていった。


「いい加減やられっぱなしも癪よね」


 彩月さんは嬉々とした様子で言うと、手短に落ちている砂利をいくつか掴んだ。


「上じゃ何にもなかったけど」


 そして、掴んだ砂利を放る。


 先ほどのコンクリート片が砲弾なら、今度の砂利は散弾。狙いもつけずに気軽に投げられた砂利は、物凄い勢いで校舎へと殺到する。


 散々撃っていた兵隊は一斉にしゃがみ込んだ。


 物凄い音を立てて壁に、窓枠に激突する。


「ここなら武器の宝庫よね」


 といって今度は地面のレンガを引き剥がす彩月さん。これには流石に僕も苦笑するしかなかった。


 砕けたコンクリート片、落ちている石ころ、埋まっているレンガ。


 今この場にあるありとあらゆるものが彩月さんにとって武器であり銃弾であった。


 そして、同時に彼女にはあの謎のバリアがある。


 片手でそれを展開しながら、彼女はひたすらに物を投げつける。


 僕等を釘付けにしていた兵士達は、今度は彩月さんに釘付けにされていた。


「……俺達こんなのに狙われてたのか」


「良く生きてたなぁ、本当」


 なにやら感慨深そうな、しかし嫌そうな表情を浮かべて三九二君と正悟が溢した。


「これで少しは時間が稼げそう。今のうちに逃げる算段よ」


 手当たり次第に物を投げ続ける彩月さんは肩越しに離しかけてくる。


「……なぁ、このまま連中やっつけるっていうのは?」


 正悟が彩月さんにいた。


「あのね、コンクリートの壁なんて片手間で壊せるわけないでしょ」


「……片手間じゃなきゃいけんのかよ」


「廊下を急いで走って逃げる……は、難しいかな。なんだかんだで撃ってきてるし」


「いけそうでもない気はしないけど、屋上。2人いなくなっているの気付いた。それに、各階ごとに後二人いたでしょ。そいつらがいないからもしかしたこっちに来ている可能性もあるわ」


「後ろか。後ろの教室か?」


 三九二君が言った。


「とりあえず逃げるだけなら一番現実的なんだけどね」


「けど、外には連中の仲間とあの非常識なトラック」


 正悟が肩を竦める。


「これ、やっぱり八方塞?」


 僕は言った。


「流石に3人守りながらはきついわ」


「おいおい、だからって頼むから置き去りにするなよ」


 俺達二人を、三九二君を指差し真剣に正悟がいる。


「するわけないでしょう、そんな……」


「って、お前らアレ、アレ!」


 指差しながら三九二君が叫んだ。僕等はそちらに視線をやった。


 階は4階。場所は彩月さんが最初にアルミの窓枠を放り投げた場所。その拉げた窓から物騒な大きな筒状のものを抱えて顔を出している兵士の姿。


「……!? おま、ふざけんなよッ!!」


 正悟が叫んだ。


「あれ、ロケットランチャーだよね!?」


 僕も叫んだ。


「流石に、拙い!」


 そう叫んで彩月さんは地面に手をつくと思い切り振り上げた。


 かき上げられて飛んだ石が校舎全体に広がり飛んでいく。兵士達もそれに合わせて壁に身を隠すが、その前にロケットランチャーを持った兵士が引き鉄を引いた。


 煙を上げて射出されるロケット弾。弾幕のように撒き散らされる石。


 ロケット弾は、飛ぶ石の間をすり抜けこちらに真っ直ぐ飛んできた。


 それを見た彩月さんは舌打ちをして後ろに手を伸ばして正悟と三九二君をまとめて掴んだ。


「「へ?」」


 そして、振り返る。振り返り際、二人を大きく振り回すとそのまま後ろの校舎に放りこんだ。


 悲鳴と恨み節を吐く二人を無視して彩月さんは僕の事を掴むとそのまま引き寄せた。


 さらに振り向き、炎を上げて直進するロケット弾に向かいいつの間にか手に持っていた石を投げつけた。


 すぐさま手を突き出す彩月さん。直後、石とぶつかったロケット弾は爆発した。

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