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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女と僕と(7)

 ガラスの割れる音、大きな衝突音、軽い揺れ。


 市役所と向かい合わせに立つこの校門に間違えてトラックが突っ込むということはあり得ない。ということは間違いなく故意にトラックが突っ込んできたことに間違いない。


 学校中が騒がしくなる。下の階では何人もの生徒や先生が顔を覗かせ外の様子を見ていた。


 と、バスに続き敷地内に大型トラックが入ってくる。


 止まっているバスを追い抜いてグラウンドに侵入し、サッカーグラウンドや野球場、技術棟に向かっていく。


 最終的に大型トラックが校門を塞ぐように止まった。


「ちょ、何だよ今の音!」


 バン、と勢い良く屋上の出入り口が開き、そこから三九二君がやってきた。


「おい、馬鹿野郎。今出てったらまた……って、あーあ」


 俺知らない、といった表情の正悟が後に続いてのそのそと付いてくる。


「……また、覗いてたの?」


「失礼だなあずま。ただ単にお前が気になっただけ……って何だこりゃ。何でグラウンドにトラックが入ってきてんだよ。サプライズライブ?」


「おー、何で校舎にバスが突っ込んでんだ?」


 それぞれ下の様子を見ながら正悟と三九二君は言った。


「そんな訳ないでしょ。決まってる。連中よ」


 正悟と同じようにバスを見下ろす彩月さんは忌々しそうに言った。


「それって、もしかして……」


 その時、僕の携帯がなった。


「お前、その携帯……」


「校則……」


 まるで僕の事を不良のように見る二人。


「いや、二人も持っているでしょ。今朝まで彩月さんとハーヴェイさんの家にいたんだから」


 そういえばそうか、と正悟が言った。


 鳴っている携帯をポケットから取り出す。着信はそのハーヴェイ博士からだった。


「もしもし、越智ですけど」


『やぁ、少年か? 今どこにいる』


「そりゃ勿論学校ですけど……」


 それはそうだよね、と忌々しそうにハーヴェイ博士は吐き捨てた。


「ハーヴェイどういう事。まだ時間はあるんじゃないの」


 振り返った彩月さんはいきなり僕の腕を掴み、携帯を自分のほうに引き寄せて怒鳴った。


『その筈だったんだがね。あー、少年今近くに誰がいる?』


「僕と彩月さんと、正悟と三九二君ですけど」


『それは都合がいい。ちょっと今すぐ音声をスピーカーにしてくれないか』


 言われてスピーカーを音にした。


「しましたよ」


『うん。それじゃ皆聞いている?』


「うえーい」


「へーい」


「はい」


「いいからさっさと説明」


 分かってるよ、とハーヴェイ博士。


『単刀直入に言うとね、この前のアメリカ人が性懲りもなくまた僕等を捕まえようとしているんだ』


「それじゃあ、やっぱりあのバスやトラックっていうのは」


『ま、彼等のだろうね』


 電話越しに嘆息するハーヴェイさん。


 それを聞いて正悟と三九二君が屋上から顔を覗かせ下を見た。つられて、僕も見る。


 衝突音とその異常事態に学校中の生徒が僕等同様窓から顔を覗かせていた。先生達がそれを教室に戻そうとしているが、誰一人聞いている様子は見れない。


 校舎に突っ込んだバスはそのままだ。校門前のトラックも動きはない。


 ただ、校外。道路を挟んで遠巻きに学校の様子を幾人かの通行人が見ていた。


 と、そうやって観察しているとバスの入り口が開き中から幾人かの人間がバスから出てきた。


「何だありゃ。顔を覆って嫌がってわかんねぇな。つか、アメリカ人って感じの格好じゃねーな、あれ」


「カーゴパンツに半袖シャツ。ベストに、それと頭と顔に変な布巻いてるぜ」


 正悟と三九二君がそんな感想を溢す。


 確かにバスから降りて着た人たちはニュースとかで見る砂漠の国の人たちがしているような、ターバンのような布で顔を覆っていた。


「どちらかと言えば中東って感じだよね、アレ」


 安直だけど。


 なんとなーく読めたかも、と不意に電話の向こうからハーヴェイさんが言った。


『中東のテロリストが日本の学校を占拠。それをアメリカ軍が協力して開放したって筋書きかな。そして何故か都合よく今現在太平洋沖に米海軍の原子力空母がいる』


「本気? そんな無茶が曲がり通ると思っているの? 頭おかしいんじゃない。ばれたら国際問題じゃすまないわよ」


 本当に呆れたように、けれども怒った様子で彩月さんははき捨てた。


『私達を連れ戻す為に日本と戦争する事を天秤にかけた結果前者を選んだんだろう。それ程私達は彼らに買われているんだ。ありがた迷惑極まりないよ。私達さえ抑えれば国際問題も何もないと考えているのだろう。一日二日でこれだけ準備したんだ、よっぽど本気なんだろう、ペンタゴンのお偉いさん方は』


「身勝手な……ッ!!」


 そう彩月さんは憤慨するが、僕等三人は置いてけぼりである。


 確かに、つい先日僕等は博士と彩月さんとアメリカの問題に巻き込まれたばかりだけれども、それでも実感が湧かない。そもそも、その時は彼女達と彼等の問題に巻き込まれただけだと思っていたのだが、なにやら戦争やら紛争やら国際問題にまで発展しそうになっているのだという。スケールが大きくなってきて良く分からなくなっている。


 ともあれ、今現在僕等に分かることといえばこの状況が限りなくよくないということだ。


「お、なんかバスから取り出し始めたぞ」


 と、下の様子を見ていた三九二君が言った。


「……あれは、銃っぽいね」


「ぽい、じゃなく銃だろう。AK47。よく映画で出てくる銃だぜ」


 次々と校舎に侵入していく。


 間をおかずに銃声が聞こえた。


「じょ、冗談だろう。連中、撃ちやがった!」


『理由は何だっていいのさ。同士の解放とか、米帝の同盟国だとか適当で。目的は私とエ……、いや、彩月お前なんだから。最悪どちらかでもいいとか思っているんじゃないかな、連中』


 周りで遠巻きに見ていた野次馬もいよいよただならぬ気配に騒ぎ出す。そして、遠くからサイレンの音。誰かが通報したのか、白と黒と赤ランプの特徴的な車が一台学校へと向かっていた。


「あ、パトカー」


「ああ、なんとなくダイ・ハードで似たような光景見たことある」


 あれかな。アーガイルがナカトビルに来るシーンかな。


「でも、これ警察でどうこうなるレベル……」


 正悟がいいかけたとき、こちらでも動きがあった。


 校門前に止まっていたトラックの荷台のコンテナが開き中から筒状のものがせり上がってきた。


「……うわ」


「……マジかよ」


「……冗談でしょ」


「……俺知っている。シュワちゃんがプレデター倒すときに持ってた奴だ」


 それを見た僕等は4人4者それぞれ感想を溢した。


 顔を覗かせたのはいくつかの鉄パイプを円形に纏めたような形状のものだった。


「ガトリング? バルカン?」


「ガトリングはああいう形の銃全般で、バルカンはその銃の種類。……サイズ的にはありゃミニガンっぽいから三九二、あってるぜ」


 聞いた三九二君に正悟が説明した。


 姿を現したミニガンがその銃口をパトカーに向けた。そうして、銃身が回転をはじめ火を噴いた。


 猛烈な爆発音。最大毎秒100発の銃弾が線を引き、パトカー目掛けて雨のように降り注ぐ。


 目の前のアスファルトを砕きながら鉛の豪雨にパトカーは急ブレーキ。しかし、銃弾は白いボンネットを紙切れを散らすように打ち抜いていく。


 乗っていた警官が急いでパトカーから飛び降りた。直後に、運転席と助手席の間を鉛玉が車内を粉々にして通り過ぎる。


 そして、炎上。爆発。


 学校の近くを走っていた車も、周りで見ていた野次馬も一瞬時間が止まったように停止した。次いで、絹を裂いたような悲鳴。


 今まで様子を覗っていた野次馬達は蜘蛛の子を散らしたように右へ左へと逃げ惑う。


 近くを走っていた車も、信号待ちをしていた車も急発進。前へ後ろへと逃げようとするものだから、いたるところで連鎖的に玉突き事故が起きた。


 悲鳴。怒号。阿鼻叫喚。まさしくテロそのものだった。


「え、えげつねぇ」


 下で起こった光景に三九二君が溢した。


「どうすんだコレ」


 振り返った正悟が言った。下だけではない。校舎内の銃声は確実に近付いてきている。


『まずは逃げなさい少年達。私も向かっている。話はそれから』


 電話越しのハーヴェイ博士は言った。


「……逃げろつっても」


 ここは屋上。下には中東風のテロリスト、に扮したアメリカ軍。


 飛んで逃げるわけにも行かず、かといってロープで下に降るわけにも行かない。


 外にはトラック。荷台にはミニガン。そしてそのミニガンの銃口がこっちを向く。


「あ、ヤベェ」


 咄嗟に僕等三人は顔を引っ込めて伏せた。直後、鉛の火柱。


「う、撃ってきた!?」


「ま、マジかあいつら!」


「もう何でもありだね」


 頭上を斜めに飛んでいく銃弾に削られ落ちるコンクリートの破片が頭に降り注ぐ。


「本当になりふり構わないのね、あいつら」


 僕等と一緒にしゃがんでいた彩月さんが忌々しくはき捨てる。


「でもどうすんだ、コレ!」


 正悟が叫ぶ。


「どうもこうもないんじゃないかな?」


 苦笑いの僕は言った。


 伏せた状態で足元のほうを向く。


 屋上から見える校舎の中、雪崩のように廊下に出た生徒が一斉に悲鳴を上げながら体育館側に向かっていた。


 その後ろを牧羊犬のように銃を持った中東風の格好をした男達が叫び指示を出していた。


 それは一階から順に体育館に近付いていた。


 また、他に階段を物凄い勢いで駆け上がる男達の姿もあった。


「逃げ場なさそうだよ」


「八方塞ってやつ?」


「逃げる道二方向もねーぜ」


 まさにお手上げだ。僕たちはこの場に釘付けにされ、逃げ道も塞がれた。


「あーもう、本当に信じられない。あいつら、絶対に許さない!」


 眉を吊り上げ怒って叫ぶ彩月さん。不機嫌そうにしているのは良く見るけど、こうして怒っている姿は初めてだ。


「怒るのはいいけどよ、この現状どうするんだ? まさか上がって来た連中全員相手にするってか?」


 振り返って正悟が彩月さんに言った。


「無理。おそらく越智君たちも巻き込んじゃうから。それに、連中がこの程度で済ますとも思えないし、癪だけどやっぱり今は逃げる」


 さらっととんでもないことを言っているような気もするけれど、苦虫を噛み潰したような表情をした彩月さんは言った。


「でも、逃げるといったってどうするの。この状況じゃ動きようがないと思うんだけど」


 そう僕が聞くと、彼女は唐突に片手で僕の襟首を、反対の手で正悟と三九二君の襟首をつかんだ。


「ちょ、え、何。彩ちゃん何する気?」


 三九二君が聞く。しかし、彩月さんは答えずに彼女は校舎の中庭の方向を見た。


「何って、逃げるのよ。ここから」


 中庭を見据えた彩月さんは言った。


「あー、俺、コイツが何考えたか分かった気がする」


 彼女の言葉を聞き口元を引き攣らせて正悟がいった。


「右に同じく」


 僕も言った。


「え、何。もしかして、マジで?」


 そういう三九二君に僕等は、おそらく、と返した。


 その時、屋上の扉が勢い良く扉が開かれた。というか、蹴破られた。


 現れたのは中東風の格好の4人組。全員手にはアサルトライフルを持っている。そして、銃口は僕達の方向に。


「EVE!」


 銃を構えていた一人が叫んだ。聞き覚えのある声だった。


叫び声と同時に彩月さんは僕達の襟首を掴んだ。


「え、マジ?」


「あ、やっぱり」


「なぁ、もう少しまともな手段……」


「ある訳ないでしょ、そんなもの」


 そういって彩月さんは走り出した。


 直後、男達の構えていた銃が火を噴いた。


「う、お、おぉッ! う、撃ってきた撃ってきた!」


「洒落になねーぞ、オイ!」


 叫ぶ三九二君と正悟。それを無視して疾風のように駆け抜ける彩月さん。それを火線が追う。


 コンクリートの屋上を一息で駆け抜け、端に足をかけると。


「行くよ、三人とも!」


 そういって彼女は僕等を持ったまま屋上から飛び降りた。

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