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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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“彼女”?それとも“カノジョ”?(10)

ところで、日本でのアメリカ国防省の一般的な知名度ってどのくらいなんだろう。そもそも、アメリカ国防省は一般的な存在なのか。

「君たちが“彩月”と呼んでいるアイツは私が作ったロボットだ」


 机に腰掛けたハーヴェイさんは口元を吊り上げて言った。


「私の持てる技術、知識、その全てを詰め込んだ、現在可能にしえる粋を集めて生まれた存在だ」


 彼は仰々しく両手を広げる。


「最高傑作、とまではいわない。というか、私はあの言葉が大嫌いなんだ。よく言えばもっとも素晴らしいって事だろうが、転じてそれは自身の限界ということだろう。生憎と私はまだ棺桶が遠い。まだまだしたい事できる事はある。生きている限り人は進化する。ここで打ち止めということはない。満足は停滞だ。私は現状に満足しない。次へ、その先へ、さらに良いものを。出来るものは常に試作品だ。それを超えるもの、それを凌駕するもの、今あるものよりもさらに素晴らしいものを。私はそういうものを……」


「それで、その考えが私のこととどう関係している訳?」


 まるで、オペラ俳優にでもなったように饒舌に喋っていたハーヴェイさんに、彩月さんは釘を刺す。


 本当に我を忘れて喋っていたようで、いわれてハッとしたような表情をした彼は、肩を竦めた。


「いけないね。つい自分のことになると我を忘れる。自分のことなのにね」


 何が面白いのか、ハーヴェイさんは笑っていた。


「それで、当然のことながら“彩月”という名前も偽名なんだが……」


 いって彼は彩月さんを横目で見る。機械に寄りかかった彩月さんは見たものを射殺してしまいそうなほど鋭い目付きでハーヴェイさんを睨んでいた。


 それをみて、彼は困ったように笑った。


「まぁ、いいか。君の中では彩月なんだから、それで。機会があれば話そう。ただ、今がその機会じゃないってことだ」


 そうして、肩を竦めた。


「何故、貴方は彩月さんを作ったんです?」


「そうだね。私は今まで散々ロボットを作ってきた。色々さ。趣味、玩具、医療用、工業用、コミュニケーションロボットから戦闘用まで。飽きるくらい毎日毎日。設計図を書き、金属板を溶接し、配線を繋げ、プログラムを組んだ。それこそ、6日間で世界を作った主のように、まるで創造神のように、私はロボットを作り続けた」


 それしか脳がなかったからね、と彼は自嘲したように笑う。


「そして、ある時ふと思ったんだよ。私は息をするようにロボットが作れる。しかし、それはあくまで心のない機械仕掛けに限ったことだ。そして、そんなもの誰でも作れる」


 とハーヴェイさんは話すが、おそらく彼の水準でその機械仕掛けを作れる人はこの世にはほとんどいないだろう。いや、ほとんどどころか、もしかしたら彼しかいないのではないだろうか。


 成程、彼は天才なんだろう。生まれながらにしてロボットを作ることに才を得た人間。故にそれを作り続けた。だが、天才である彼は彼が出来ることに満足しなかった。故にその結果。


「では、人間に人間は作れるのか、と」


 そう話す彼の言葉に超越的な存在への憧れや名誉欲などの利己的な意味合いはなかった。純粋な好奇心からそう考えたのだ。


 そんな考えを僕等が理解出来ようはずもない。それ故の天才であり、人智を超えた才能なのだから。だから、彼らは皆半ば狂人として理解されない。


「本当は生体組織を使った、一から人間を生み出してみたかったんだけど、元職場から駄目出しされるわ倫理的にあーだこーだ言われるわ、傲慢だとか切り捨てられるは散々だったんだよね。そもそもその手合いのセンスが私にははなから皆無だったから生身の人間は諦めたんだよね」


 けれど、と彼はさらに続ける。


「得意分野で、私の土俵でそれが出来ないかと考えた。この国には思い立ったら吉日という言葉があるだろう。故に仕事の合間に着手した」


「出来たんですか」


 僕は聞いた。随分と間抜けた質問だった。


時々鈍いよな君は、とハーヴェイさんは笑う。


「そうじゃなかったら君はアイツとあっていないだろう」


 知っている。だからこそ僕は彼女と出会えた。


「勿論出来たさ。完成した。けれど、出来たのはやっぱりただの機械仕掛けだった」


 それが心底許せないとばかりにハーヴェイさんは吐き捨てるようにいった。


「人格、思考、感覚。どれを一つとっても結局私のプログラム上のコマンドでしかなかった。決められた通り、決められた動きしかしないのは人間ではない。けれど、人間とは何だ? 人間を人間たらしめる要素はなんだ? 言語? 人種? 道具を使えること? それとも社会を営むこと? それもとも、自分で考えること?」


 どれも違う、と彼は言う。


「言語も人種も道具も使うことも社会を営むことも自分で考えることも、生物ならやっている。ならば、人間らしさというのは、機械仕掛けと人間の違いとは“感情”があり、それを“感じる”ことだ」


 それが人間を人間足らしめる、彼は言い切った。


 そして、実は、とさらにハーヴェイさんは続けた。


「私はアイツを95%作っていない。残りの5%は知人のものを借りただけなんだ」


 そういって彼は期待するような目で僕を見据えた。それはまるで僕がその答えを知っていて、それを答えるだろうと考えているように見えた。


そして、その思いの通り僕には思い当たるものがあった。


「……メンタルドライブ」


 僕がそれを呟くとハーヴェイさんは満足そうな笑みを浮かべた。


「まさにそれだ。君と同じ日本人の男が作ったものでね。彼にこそ天才という名がふさわしい」


 そういって彼が褒める日本人とはどんな人なのだろうか。


「コイツに関しては私でさえ複製は不可能だった。そもそも、原理が良く分からない。設計図も見せてもらったがちんぷんかんぷんだし、説明してもらったところで何がなにやら。だからメンタルドライブに関しては考える事を止めた。人間、分からないことは分からないんだよ」


 開き直りが肝心、と実にハーヴェイさんらしい事を言った。


「ま、作った本人もかなり思いつきで作ったらしいからね。どっかの博士が滑って便器に頭をぶつけてタイムマシーンの基礎になる装置を思いついたのと同じじゃないかな」


 知らないけど、と無責任な事を言う。


「さらに凄いことにこいつは作った本人でさえ発動条件が分からなかったんだ」


「……は?」


 何か今とんでもない事をこの人は言った気がする。


「発動条件が分からないってことは、それってまともに機能するかどうか分かりませんよね」


「まぁ、そうだね」


「なのに、何で彩月さんに取り付けようと思ったんです? それって結局ハーヴェイさんが思い描くようなものが完成しないほうに限りなく近いような気がきがするんですけど」


「そういいたい気持ちもよく分かるんだけどね。メンタルドライブ自体すでに発動した前例があったんだ。だから、感情が生まれることは確かなんだが、如何せん私も彼も何が引き鉄が皆目分からなかったんだ」


 困ったことに、と彼は眉をひそめた。本当、良く使おうと考えたと思う。


「ま、結果としてあの窮屈な場所から出てきた理由のひとつにもなったんだけどね。あの場所ではメンタルドライブが発動する因子がなかった。だから、私はあそこから出て行った」


 夜逃げみたいに、と言うがこの人がこそこそと逃げるように出て行くイメージはない。きっとなんかえげつないことをしたんだろうな。深くは聞かないでおく。


「そして世界各地を放浪の旅に出た。西へ東へ歩いて周り、山をこえ谷をこえ、たまに密航したりしながら紆余曲折を経てこの街へ。そうして、少年達に出会い、そして、それはそいつになった」


 ハーヴェイさんは彩月さんを見た。見られた彼女は顔を背けた。ハーヴェイさんは苦笑した。


「結局、彩月さんは貴方の思うとおりの“人間”になったんですか」


「知らない」


 知らないって。


「だって私は“人間”を作った訳で、私の想定する範囲で動かれたらそれはただの“ロボット”じゃないか。あくまで“人間”であるならば私の想像を超えてもらわなければならない。今、その評価は出来ない。これからさ。結局、そこのところはこれからのアイツ次第なんだよ」


 再び視線を戻すハーヴェイさん。


「目下これからの私はそれを見極めたいと思っている」


 そういって彼は机から立ち上がった。


「それで、それを聞いた上で君はどうする? 彼女は人間でなくロボットだという事をしった。いや、人間になろうとしているロボットであるといったほうが正しい。その上で君はアイツと代わらず付き合っていけるのか?」


 いきなりそんな質問はずるいと思う。


 今まで人間だと思っていた人が、突然ロボットだと明かされて君はいつも通り付き合っていけるのかと聞くのだから。


 そりゃ普通じゃない兆候はいっぱいあったけれど、それが二足で歩くロボットですなんて分かる訳がない。大体、非常識だし。


 まぁ、でも。非常識といえば最初から非常識だし。だからといって何か変わるわけでもなく。結局のところ。


「ロボットだろうと人間だろうと関係ありません。彩月さんは彩月さんで、“彼女”は僕の好きな“人”です」


 そう断言した。


「そうか。うん。君ならそういうと思ったよ少年」


 そういってハーヴェイさんは笑った。


「越智君も物好きよね。そこの馬鹿の話を聞いてそんな事を言うなんて」


 今まで黙っていた彩月さんが口を開いた。


 酷い話だ、とハーヴェイさんはいった。


「でも、そうよね。変わり者の越智君はそういう人だもの」


 そういうと彼女は下を向いてしまう。ただ、彼女が顔を下に向けたとき、その口元は少し笑ったように見えた。


 と、その時。僕の携帯電話がなった。


「……と、電話だ。えーと、正悟から?」


 何だろう。特に祭りに行く約束だとか遊ぶ約束はしていないし、もしかしたら街中にいて今から遊ぼうという話なのかもしれない。


 取り敢えず、僕は通話ボタンを押した。


「もしもし、東だけど正悟どうしたの?」


 しかし、返事がない。妙な沈黙だけが続く。


「もしもし?」


 応答なし。からかっているのだろうか?


「もしもし、正悟? 何、黙りこくって。何企んでいるの?」


 何の悪戯だ、と思っていると予想外の声が耳に入ってきた。


『ヘイ、ボーイ。ゲンキデスカ?』


 それは聞き覚えのある片言の日本語だった。


「……正悟をどうした?」


 耳にあてたスマホを強く握った。俯いていた彩月さんが顔を上げる。僕の様子の変化にハーヴェイさんの表情も鋭くなる。


『ハナシシタイ。アエマスカ?』


 どうやら彼らはなりふり構わず僕等も巻き込む気でいるらしい。

かなり個人的なことだけど、最近ノーマン・スタンフィールドとゴードン警部補が同一俳優だと知った驚き。詳しくは『レオン』と『ダークナイト』を見てみよう。同じ警察なのにね。


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