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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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“彼女”?それとも“カノジョ”?(8)

 高校から出てタクシーを拾って移動すること数分足らず。辿り着いたのはあの桜の木の近くだった。


「ありがとう」


 ヤマダさんは運転手にそういってお金を渡して車から降りた。


 タクシーの扉が閉まる。


「しかし、皆勤勉で困るよね。多少過ぎてもいいからさ、お札一枚で受け取ってくれないかね」


 去って行くタクシーを見送りながらヤマダさんは言った。


「それじゃあ、行こうか」


 そういって彼は歩きだす。僕等もその後に続いた。


「どこに向かっているんですか?」


「私たちの住まい」


 そういって辿り着いたのは以前彩月さんの後をつけて見失った場所だった。


「こっちだよ」


 そして、案内されたのは廃マンションの前だった。


「……どこです?」


「いや、ここだけど」


 そういってほとんどの窓がベニヤ打ちされたコンクリートの建物を指した。


 とてもじゃないけど正気とは思えなかった。もっとも、この人が正気かどうかは怪しいものだけど。


 彼は雑草が伸び放題の敷地に入っていった。彩月さんもその後に続いていく。これって不法侵入じゃないかな?


 生活能力は無いと思っていたけれど、まさか家なしだったとは。


「ほら、ついてきな」


 草むらに立つヤマダさんが振り返って僕に言う。少し躊躇した僕は結局その中に入った。


 後に続いて階段の前に辿り着いた。


「上ですか」


 いいや、とヤマダさん。


「少年、ちょっと待ってて」


 そういうと彼はポケットの中からスマホを取り出した。


 なにやら画面をいじくっていると思うと変化は直ぐに起きた。


 軽い地響き。目の前のコンクリートの階段が動き出す。一番下の段から順当に収納されていく。


 そして開いた空間。そこには下に続く階段があった。


「えぇ……」


 何、このとんでもギミック。非常識というレベルではなかった。


「さ、どうぞ我が家へ」


 そういって恭しくヤマダさんは僕を招く。まともな人とは思っていなかったけれど、どうやら僕の想像の遥か斜め上を行っているようだった。


 自分の立ち居地から地下に続く階段を覗く。明かりはなく暗闇が深淵まで続いているようだった。


 踏み込むのに躊躇する。振り返るとヤマダさんが子どものようにニコニコしている。彩月さんは少し不機嫌そうだ。


 視線を戻し僕は地下に続く階段に踏み込んだ。中はひんやりと冷たく、ジメッとしていた。


 彩月さん、ヤマダさんが続いて降る。


 階段を15段ほど降ると地響きとともに天井が閉まっていった。


「大丈夫。自動ドアだから」


 そういって怪しく笑うヤマダさんの顔も見えなくなる。


 階段が暗闇に包まれた後、直ぐに明かりがついた。


 電灯は左右の壁に埋め込まれており、それが下まで伸びていた。


 見下ろせば通路があった。けど、結構深い。一体どこまで掘ったんだろう? というか、ほれる地下があるのだろうか、この町。


 取り敢えず一番下まで降りた。降りた階には一つの大きな扉があった。


「さぁ、ここだ」


 そういって彼はスマホを扉に向けた。画面を操作する。


 すると、その扉が開いた。


「どうだ、まるで秘密基地みたいで格好いいだろう」


 まるで、ではなく本当に秘密基地なのではないだろうか。


 打ちっぱなしのコンクリートの壁と同様の床。


 ロボットアーム、様々な工具、配線、機材。ガラス製のテーブルやパソコン等々。


 どっかのパワードスーツを着た社長と、砂漠のカジノ街やらアメリカ南部やら北東部の有名な街の科学捜査班の捜査室を合わせたような室内だった。


「……どうしたんです、これ?」


「いや、本当はもうちょっと簡素にするつもりだったんだがね。私も長くて興がのっちゃって」


 つい、と悪戯がばれた子どものようにはにかむヤマダさん。これ、どう見てもついって程度じゃすまないけれど。


 よくよく見れば室内には金属製の人型のような物があるのが見える。


「あれ、なんです?」


 思わず聞いた。


「ああ、あれ。アレはお手伝い用ロボットさ。名前は“チャペック”。日本にもあるだろう。白いのとか、黄色いのとか」


「……あれ、二足で歩くんですよね」


「勿論、直立さ」


 どう考えてもオーバースペックだった。


「チャペックっていうなら機械仕掛けじゃなくて生体組織のほうがいいんじゃないの?」


 棘のある声で彩月さんが言った。


「知ってるだろう。私はそっちは専門外だ」


 彼は肩を竦めて言った。


「……ヤマダさん、あなた何者ですか?」


「それを含めて、今から説明するんだ」


 そういってヤマダさんは笑った。

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