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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
36/60

“彼女”?それとも“カノジョ”?(7)

 車が往来する歩道を彩月さんは僕の手を引き渡った。


 信号は赤で飛び出すように僕等は駆け出した。横切ろうとした車が寸で止まりクラクションを鳴らした。僕等はそれを無視した。


 目の前には高校の正門。休日ではあるけれど閉まってはいなかった。


 彼女は校門の前で立ち止まった。そして、正面の道を見る。


 水色のフェンスに突き当たり左に道がある。その先がどうなっているか良く分からないが、そちらを見て彩月さんは忌々しい表情をした。


「全く、私が何をしたっていうのよ!」


 彼女は一度だけ振り返って僕の手を引っ張った。


「こっち!」


 そして、僕と彼女は高校に入っていった。


 その高校の名前は山鳴高校という。3年程前に女子高から共学に変わった高校だ。目新しさと中の中ぐらいの成績で入れるということもあり、近場の地域の中学生には人気の高校だ。ただ、年々入学に必要な偏差値が上がっている。進学校でも目指しているのだろうか。しかし、元々水野にはすでに偏差値高めの高校があるというのに。


 高校の裏手には山があり、聞いた話によるとグラウンドはその裏山にある為長い階段を登っていく羽目になるのだとか。そういえば、学校に行く途中に見える山間の緑色の大きなネット、あれゴルフ場じゃなくてグラウンドなのかな。


 と、今は関係なし。


 敷地内には生徒や先生の気配はない。校門から入って真正面。佇む校舎に昇降口らしきものがある。ここに来たのは初めてなのでアレが昇降口かどうかは分からない。ただ、一階の教室のカーテンは全て閉め切られていた。


 彩月さんは僕の手を引っ張って体育館の方へ向かう。体育館は校舎の左手にある。


 体育館の入り口とその左手の建物、武道場だろうか、の間を通って右手、体育館側に曲がる。


 体育館の基礎と雨水を流す排水溝のある道を走り抜ける。地面だったりブロックだったりして走り辛く、足が縺れる。そして、2回立ち止まったのがいけなかった。


「……あ」


 感覚のなくなった自分の足に自分の足がぶつかり盛大に転んだ。


「ちょっと、越智君!?」


 倒れた僕に引っ張られる形で彩月さんが立ち止まった。


「急いで、立って!」


 振り返って彼女がしゃがみ込み手を引きながら言った。そんな無茶な。


 地面でへばる僕の呼吸は臨終間際を迎えたように掠れていて、吐いてるんだか吸ってるんだか分からない。


 今まで必死になって彩月さんについていこうとしてたからなんにも考えてなかったけれど、転んで少し冷静になって吐き気を感じた途端に胃の中のものが出た。


 頭はくらくらする。心臓は破裂しそうだ。足は悲鳴を上げてるし、身体中から汗が噴出し、世界は廻っている。


 何とか立とう試みたが、生まれたての小鹿のように震えて地面に倒れる。いや、状況は尚悪い。向こうは立てるがこっちは無理。


「……ごめ、ちょ、休、け、い」


 吐瀉物の中に頭を沈めて仰向けになる。


「辛いのは分かるけど今は休んでいる暇はないの、急いで立って!」


 そう彩月さんは急かすけれど、僕は一歩も動けない。


「……無理」


 息も切れ切れに彼女に言う。


 彩月さんは僕の言葉を聞いて頭を抱えてしゃがんだ。そのまま彼女は耳に手をあてる。


 始め彼女は物凄く怒った表情をしていたが、しばらくしてハッして、バツが悪そうな表情を見せた。


 本当、表情にとんでいるなぁ。ちょっと前までだったらずっと同じ顔していたのに。


「そうね。うん。確かに走れっていうのは酷よね」


 誰にいう訳でもなく彩月さんは呟いた。そして、しゃがんでいた彼女はこっちを向く。


「取り敢えず担いでいくわ」


「とり、担、……え!?」


 とんでもない事をさらっと言ってのける彩月さん。僕が驚いているのを余所に彼女は僕の身体を持ち上げようと胴体を掴む。


 ていうか、何これ?


「……ちょ、まっ。な、んで」


「いいから、今は急ぐの。大丈夫、越智君は少し休んでいればいいから」


 などと彩月さんはいうが僕としては情けないことこの上ない。というよりも、本気で僕を担いで走る気だろうか。


 彩月さんがここまで焦る理由が分からなかった。


「……なん、で、そこ、まで、して」


 そう言った瞬間、くぐもった破裂音。今まで生きてきた中で聞いたことのないような、店で売っている家庭用の花火が炸裂したでもなく、打ち上げ花火の音でも、運動会で使われるようなスターターピストルを鳴らした音でもなかった。


 次いで、何かが空気を切る音。それとほとんど時間をおかずに金属が硬いものとぶつかったような音。


「フリーズイット!」


 叫ぶような声。その声に彩月さんが舌打ちをした。


 声の方向を見る。そこにはガタイのいい二人組みの外国人がいた。


 格好はさっきの二人と一緒。坊主で髭の白人の男と、サングラスをした褐色の男。


 彼等の手には拳銃。ただ、僕がイメージをしていた拳銃は黒とか銀とかの金属製だったけれど、彼等の持っている拳銃はエアガンと同じようなプラスチックみたいな材質をしていた。樹脂というんだっけ、ああいうの。


 で、その拳銃には丸い円柱上の物がついている。良くゲームとかで見る、ほら、眼帯した軍人がダンボール被りながら隠密行動するようなゲームとかで。


 サプレッサーとか消音装置というんだっけ。ああいうのは正悟のほうが詳しい。


 ともあれ、その消音装置をつけた拳銃を二人の外国人がこっちに向けている。エアガンという訳ではないだろう。


 彩月さんがあんなに焦っていたのか合点がいった。と、同時に訳が分からなかった。


 拳銃を持った外国人、おそらく軍隊の人間と思われる二人組みに何故彩月さんが狙われているのか。狙われるのは間違いなくヤマダさんの方だと思うんだけど……。


 そこで僕はヤマダさんと彩月さんがいろんな町を転々として生活していたことと、外国人が嫌いなのかという事を理解した。もっとも、根本的な何故までは理解しようがないのだけれども。


「ハンズアップ!」


 髭の白人が叫ぶ。


「……言うこと聞いて」


 物凄く不愉快な表情を浮かべた彩月さんが僕にささやいて手を挙げた。


 何にも出来ない僕としては言うことに逆らう気はないが。遅れながら僕も手を挙げる。


「プットユアハンズビハインドユアバック!」


 怒声。彼女は挙げた手を頭の後ろで組んだ。そういう意味か。習って僕も頭の後ろで手を組んだ。


 まさか、映画で見るような経験をするとは夢にも思わなかったけれども。


「ゲッダウンオンユアストマック!」


 そうなると腹這いになれって意味かな。思ったとおり彩月さんは腹這いになる。僕も転がって同じように腹這いになった。丁度、二人が並んで同じ方向に頭を向けて腹這いになっている。そして、男達は僕等の足のほうに立っていた。


 そこでようやく二人組みはこちらに近付いてくる。拳銃の標準をこちらに向けながら、ドントムーブと言いながら。


「ヘイ!」


 頭の方からさらに声。見てみるとさらに二人、帽子を被った強面の黒人と、ブロンドの髪の毛を短く刈りこんだ、これまた厳つい白人がこちらに近付いていた。僕があった二人組みとは違う感じだった。


 二人も同様に拳銃を構えこちらに近付いてくる。


 前後あわせて4人の外国人。彼らは僕等を取り囲むように立った。そのうちの一人、厳つい白人が耳にしていたイヤホンに指を当て会話をしていた。数十秒くらいの会話が終わると、褐色の男に声を掛け、ハンドサイン付きで何か指示を出している。褐色の男はイエッサーと返事。やっぱり軍隊で、偉い階級の人なのかな。


 褐色の男は僕の真横に立つとしゃがんだ。人が良さそうな雰囲気で、人が良さそうな笑みを浮かべて、そして僕に何か話しかけていた。残念ながら英語なので僕には理解できなかったけれど、安心させようとしていたのかもしれない。


 ただ、そこは軍隊。上官の命令は絶対なので僕の腕を掴んで結束バンドみたいなもので僕の腕を後ろでに拘束した。


「……越智君」


 その時、彩月さんが小声で言った。


「いい、何があっても絶対動かないでね」


 そう僕に言い聞かせるように彼女は話した。


「ストップイット!」


 褐色の男が拳銃の照準を向けて立ち上がった。他の三人も一斉に銃口を彼女に向ける。


 その動作の後、彩月さんは疲れたようにため息を溢した。


 彼女は流暢な英語で彼らに言葉を返したが、4人は叫ぶように何かを叫んでいた。なんとなくだけど、おそらく、黙れとか、撃つぞとかそういうニュアンスの言葉。


 彩月さんはもう一度ため息を溢すと黙り込んだ。


 しばらく4人とも銃口を彼女に向けていたが、厳つい白人が標準を彼女から外すとまた褐色の男に指示を出し、彼は頷き彩月さんの背後から彼女の横についた。


 褐色の男が彼女の腕に手を伸ばす。彩月さんの腕を掴み背中に廻そうとした瞬間にそれは起こった。


 彩月さんが腕を掴んだ褐色の男の胸倉を掴んだのだ。


 彼女を除くその場にいた全員が呆気にとられる。そんな僕等を余所に彼女はうつ伏せのまま褐色の男を頭の方向、前に立たずむ二人組みの外人に向かって、あろう事か放り投げたのだった。


「…………ッ!?」


 あり得ない。


 驚いたってものじゃない。彼女の細腕で、体重はゆうに80キロはありそうな大の大人を、しかも力の入らない伸び切った状態、それもうつ伏せで軽々と空き缶でも放るような感じで分投げたのだ。


 確かに散々彩月さんの人間離れした行動は様々見ていて驚かないつもりだったけれども、あんまりの人間離れぶりに茫然となった。


 ただ、僕と違い彼らはその事を承知していたのか褐色の男が放られた時点で持っていた拳銃を構えた。が、前の二人は飛んできた褐色の男がぶつかり三人とも地面に倒れ込んだ。


 後方、足元にいた髭の白人が容赦なく彼女に向かって発砲した。けれども、その銃弾は僕の真横の地面を穿っただけだ。


 褐色の男を投げた後、彼女はすぐさま地面に手をつき、滑るように足元にスライディングした。


 スライディングというか、ほとんど地面と平行に飛ぶような勢いで彩月さんは後方に下がり、流石に想定外だったのか髭の白人は彩月さんがぶつかり前に倒れ込んだ。


 髭の白人の足元で彩月さんは止まるとすぐさま立ち上がる動作に移った。


 だが、それよりも早く厳つい白人が褐色の男を押しのけて立ち上がろうとしていた。


 それを見た彩月さんが立つのと同時に髭の白人の足首を掴んだ。


「……マイゴット」


 髭の白人がそう呟くのが聞こえた。


 厳つい白人が立ち上がる。同時に彩月さんが髭の白人を片手でぶん投げた。


 立ち上がったところで厳つい白人は再び飛んできた外人にあたって転倒した。


 遅れて褐色の男と黒人が立ち上がる。だが、すでに彼女は二人の目の前に立っていた。


 咄嗟に褐色の男が彩月さんに手を伸ばした。彼女はその腕を掴み、ほぼ同時に彼の胸倉を掴んでそのまま背負い投げた。


 大きな音を立てて褐色の男は背中から地面に落ちる。受身はなし。苦痛に顔を歪めて地面でもだえる。


 間もなく、黒人が銃を構えた。彼女はそれを予期していたかのように右足を軸に回転しながら左足の踵で、黒人の手を蹴飛ばした。


 手を弾かれ拳銃が中を舞う。続けざまに彼女は左足を戻し右足で黒人のわき腹を思い切り蹴飛ばした。


 苦痛に顔を歪める黒人にさらに戻した右足を軸に、今度はソバットを黒人の腹部に叩き込んだ。


 前のめりにくの字に折れる黒人。その頭にとどめといわんばかりに彼女は回し蹴りを叩き込んだ。


 こめかみ刺さる足。黒人はそのまま昏倒した。


 彩月さんが地面に足を下ろした瞬間、彼女の足に手が伸びた。先ほどの背負い投げされた褐色の男だ。


 彼はそのまま彼女の足を持ったまま立ち上がろうとした。しかし、腰まで状態を上げたところで止まってしまった。


 訳が分からない、といった表情で褐色の男は彩月さんの顔を見た。そのまま彼は彼女を持ち上げようと力を入れている様子なのだが、びくともしない。


 彩月さんはそんな褐色の男を一瞥すると裏拳を一発かました。褐色の男の顎に彼女の拳があたり、彼も力なく地面に伏せた。


 彼女が振り返る。そこにはすでに身体を起こして拳銃で彼女を狙う髭の白人の姿があった。


 髭の白人が引き鉄を引く。立て続けに発射される銃弾。


 銃弾は回転運動をし、真っ直ぐに彩月さんへとさっとして、しかし、どれも彼女の身体へとあたることはなかった。


 それはまるで魔法のよう。それとも、あらかじめそういう風に設定されていたかのような動き。


 彩月さんは明らかに銃弾が発射されたのを見てから、小さな弾を避けていた。


 一歩進むごとに首を曲げ、身体を横にし、時には状態をそらして。


 おそらく、必要最低限の動きだけで高速で飛んでくる弾を避ける。


 そして、彼女は何事もなかったかのように髭の白人の前に佇んだ。


 髭の白人は半口を開けて唖然と彼女を見上げていた。拳銃に入った弾丸はなくなり、彼の銃はスライドが下がりっぱなしだ。


 白人が目の前に立つ彼女に向けて何か呟いた。なんとなく分かる気がする。おそらく、“化け物”といったに違いない。


 それを聞いた後、彼女は褐色の男と同様に裏拳で彼の顎を殴りつけた。それで、髭の白人も昏倒した。


 そして最後の一人。一番階級が上らしい厳つい白人を見下ろしたが、彼は倒れたままピクリともしていなかった。


 二人目の男を食らったとき地面に頭でも打ったのか、気絶しているようだった。


 彩月さんはしばらく彼を見ていたけれど、動かないのを確認して視線を外した。


 彼女は数秒だけ空を見上げた。


 そして、振り返る。振り返った彩月さんは酷く悲しそうな表情をしていた。




 と、その時。気絶していたと思っていた厳つい男が目を開けた。




「…………ッ!? 彩月さん!!」



 

 僕は叫んだ。しかし、彼女もそれは予期していたとばかりに振り返る。


 ただ、彩月さんが振り返りきるよりも早く彼は拳銃を引き抜いた。




 その銃口は僕を狙っていた。




「……え?」




 銃口が火を噴く。白い煙を上げて弾丸が飛び出す。


 彩月さんが驚いた表情を浮かべたこちらを振り返った。僕が狙われることは予想外だったらしい。


 空気を切り、鉛の弾が回転しながら僕へ向かう。


 よく死ぬ間際になったら走馬灯が見えるというけれど、そんな暇すら今の僕にはないだろう。


 厳つい白人と僕の距離は10メートルもない。弾丸の速さがどれくらいか分からないが、おそらく一秒も掛からないうちに僕の人生は終わりを告げ……。




 瞬間、目の前に足が落ちた。




 硬い金属と金属がぶつかるような甲高い音。真っ赤な飛沫。


 どうやら、目の前の足が僕の事を守ってくれたらしい。彩月さんだ。


 どういう方法か分からないが、いつの間にか目の前に現れた彼女は僕の前に足を出し弾丸を代わり銃弾を受けてくれたらしい。


 僕を見下ろす彼女の顔が心底安心していた。


「良かった」


 足から血が流れて地面を赤く染める。


「……良く、ないよ。君が、怪我している」


 かといって僕に何が出来るだろうか。


「私は大丈夫。このくらい、なんでもない」


 子どもを諭す母親のように彼女はいった。


「よくないよ。君が怪我をしている」


 守られている自分の悔しさに拳を握る。


「ううん。私が怪我をするよりも、あなたが怪我をする方が嫌」


 彼女はそういって微笑んだ。


「僕はその逆だ」


 精一杯の強がりで彼女にいった。


「だから、動いちゃ駄目だ」


 彼女は凄いと思う。きっとあの傷だって刺すように痛いだろうにそんな姿を一切見せない。いつもと変わらない様子で彼女は佇んでいる。


 ただ、それよりも彼女にそんな怪我をさせてまで守られている僕が情けなくてしょうがなかった。


「ううん。今は駄目。今は頑張るとき」


 そういって笑って彼女は振り返った。


「あなたが気絶していないことは知っていた」


 酷く無機質な声で彩月さんは話す。その変化に厳つい白人は危機を覚えたのか起き上がり、手に持っていた拳銃を乱射する。


 立て続けに響く爆発音。しかし、彼女は避けようともしない。なのに、弾は彼女にあたらない。


「正直、私を狙うと思っていたから。こういうのを慢心っていうのかしら」


 一歩近付く。それに合わせて彼も下がる。


「けど、違った。あなた、あろうことか越智君のほうを狙ったわね」


 厳つい白人の撃つ拳銃の弾が切れる。彼はすぐさまマガジンを取り出して入れ替えた。


「別に、私が傷付こうがどうしようが関係ないわ。だって私のことですもの」


 立て続けに発砲。しかし、やはり弾は彩月さんにあたらない。


「彼は関係ないでしょ。これは私たちとあなた達の問題でしょ。なのに、彼を巻き込もうとした。それが許せない」


 目に見える殺気。彼女は怒っていた。


「許さない。目障りなのよ、貴方」


 明らかに彼女は冷静さを欠いている。


 再び弾が切れる。白人はなれた動きでマガジンを交換しようとするが、手元からマガジンが滑り地面に落ちた。


「だから」


 男が顔を上げる。彩月さんが立ち止まる。


 今思いのまま彼女が動いたらよくない結果になるに違いない。


「消えて」


 言って踏み込んだ。


 跳ぶ。


 彩月さんは彼我の間を一瞬で詰めた。だから僕も咄嗟に叫んだ。


「駄目だ!」


 瞬間、彼女の足が厳つい白人の鼻先で止まった。


 彼女はため息を溢すと足の側面で白人の顎を蹴り飛ばした。男は地面に倒れ込んだ。


 今度こそ、4人の男たちが力なく地面に倒れ込んでいるのを確認し、彩月さんは僕へと振り返った。


 振り返った彼女は困ったように笑っていた。


 そんな彼女の顔を見て僕は酷く不安を感じた。


 だから、立ち上がった。


「身体のほうは大丈夫なの?」


 僕を気遣うように彼女は言った。もっとも、僕のほうは体力の限界だったから休めばどうとでもなるし、さっきので少し動くぐらいならできるくらいに回復していた。


「僕よりも彩月さんの方だよ。銃弾が足にあたっているんだから」


 さっきから足から出る血を彼女は垂れ流している。


「動かないで。見るよ」


 そうってしゃがみこもうとする。そもそも、擦り傷とかと違う傷を僕がどうこうできるかは疑問だが。


 けれども、僕が彼女の足を見ようとすると、彼女は自分の足を引いた。


「ありがとう。でも、私はいいの」


「そうだぞ、少年。“彼女”のいうとおり、“彼女”は大丈夫だから。それにその傷は私が診る」


 不意にやけに明るい声が聞こえた。見ればチャシャを肩に乗せたヤマダさんがいつの間にか現れていた。


「……ヤマダさん」


 そうだよ、と飄々とした彼は笑っている。その様子を彩月さんは射抜くような目で睨み付けた。


「そんな怖い顔をするな。この連中以外はみんな足止めを食っている。目障りな空の目も一時的だけどつぶしてあるからね」


 そういって彼は笑った。彩月さんはそっぽをむいた。


 困った子だ、と彼は肩を竦めた。そして、ヤマダさんは僕を見た。


「いやぁ、少年。なんだか面倒なことに巻き込んでしまったようだね」


 そういって彼は困ったように眉をひそめた。


「一応、全部話してくれますか」


 謎の拳銃を持った外国人。尋常ならざる彩月さんの存在。そして、その図中に常に存在するヤマダという明らかな偽名の人間の存在。


「全部は話せないけれど、まぁ、答えられる範囲、君の疑問には答えよう」


 そういって彼は笑う。


「ともあれ、まずは場所を移そう。幾ら足止めしたとはいえ、いずれ彼らもここに来るからね。着いてきたまえ。後、“お前”はせめてその傷塞ぐ」


「いいわよ。私はきにしないから」


「私とお前じゃなくて少年が気にする」


 そういうと彼女は少し考え、ポケットからハンカチを取り出して自分で傷を縛った。


「それじゃあ、行こうか」


 そういってヤマダさんは歩き出す。それについで彩月さんも歩き出した。そして、僕後を追った。

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