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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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“彼女”?それとも“カノジョ”?(6)

 その後は町中を二人で練り歩いた。


 といっても相変らず並んでいる出店を見てまわったり、曳き廻しをしている山車を眺めたりしていた。山車が交差点に入ったときなんかは、“のの字回し”が丁度やっていたりした。“のの字廻し”とは山車に向かって左前の車輪を軸として、筆で『の』の字を書くように後輪を担ぎ上げるようにして、わっしょいの掛け声とともに担ぎ手が息を合わせて数回転させるものだ。7メートルをも超える山車が廻っている姿は壮観だ。


 往来する人々がそれぞれ祭りを楽しみながら通りを行き交いする。


「うん。やっぱり知っているだけのことと体験することは違うのね。お祭りってこんなに楽しいものだったのね」


 自然な笑みを浮かべて彩月さんは言った。


「それに、楽しいって感情は嫌いじゃない」


 そうって彼女はくるくる廻りながら道を行く。そんな彩月さんの嬉しそうな様子を見て僕も自然と笑みがこぼれた。


 山車を見たらそれを見上げ、通り過ぎて行ったら出店を見て廻る。


 それを繰り返しながら町を歩いて廻る。実際たいしたことはしてないんだけど、そうして楽しんでいる彼女を見ているだけで僕も楽しかった。


 ふと、立ち寄った出店の前で彩月さんは立ち止まった。髪飾りやアクセサリーが置いてある出店だった。そこで彼女が目を引かれていたのは飾り気のないシンプルなヘアピンだった。


「それ欲しいの?」


 聞いた。


「そうね。こういうもの興味がなかったから」


 それを見ながら彼女はいった。


「それじゃあおじさんこれ一つ」


 はいよ、といっておじさんは紙袋にそれを入れてこちらに手渡した。


「いいの?」


「別に構いはしないよ」


 ありがとう、と彼女は笑って受け取った紙袋を抱いた。


 その姿に僕はドキッとした。


「オウ、マタアッタネ」


 その時、後ろから掛かった片言の日本語に振り返る。そこには巨人、もとり巨漢の黒人が立っていた。


 サングラスをしたTシャツとカーゴパンツ姿。その隣には似たような格好の白人で、こっちは帽子を被っている。


 バックパッカー然とした二人組みだったが、また、といわれたような気がするがするがいまいち記憶にない。


「ワスレチャッタノ!? ホラ、スクールノマエデトモダチイッショニイタ」


 黒人のほうが大げさに言う。そういえばなんとなく思い出してきた。


「ああ、あの時の。校門前であった」


 あの時は確か伊能忠敬記念館の場所を知りたいといっていた……。


 と、そこでようやく思い出した。


「ああ、会いましたねぇ。というか、良く覚えていましたね、僕のこと」


「ワスレナイヨ。アナタシンセツ」


 人懐っこい笑みを浮かべて黒人は言った。一方で相変らず白人のほうは無愛想な表情のまま今日はスマホをいじっていた。


「ユーアーガールフレンド?」


 黒人は彩月さんを指差して言った。


 吹いた。


 人懐っこそうな黒人は僕の肩をバンバンと叩いた。


「ユーナイスガイ!」


 なんというか、こういうテンション付いていけないなぁ。


 どう返せばいいか困ったまま彩月さんのほうを見ると、先ほどの様子とは裏腹につりあがった目で二人を睨んでいた。


「ジャパニーズパレード? カーニバル? タノシイネイロンナオミセアル! タベモノオイシ。デモタカイ」


 ハハハ、と笑ってまた僕の肩を叩く。確かに、随分とお祭りを楽しんでいる様子で、外人二人組みはそれぞれ片手にエアガンの箱を持っていた。


「それ、あてたんですか?」


「ジャパニーズロトブースデゲット」


 そういって箱を見せびらかすように降って見せた。はずれでもらえるような奴ではなく、ちゃんとしたエアガンの箱だから、案外この人運がいいのかもしれない。


 と、そこで相方の白人が黒人の方を叩く。


 振り返った黒人に白人が手に持っていたスマホを見せる。画面を見た人懐っこそうな黒人の表情が一瞬鋭くなった。


 その時、僕の肩を彩月さんが叩いた。


「……そのまま」


 彼女が小声でつぶやく。


「何?」


 聞き返した。すると、彼女は僕の指に手を絡ませ、握った。


「いい? 走るわよ」


 僕の手を握る彼女の手の力が強い。


「言っている意味がよく分からないんだけど、走るって一体……」


 そう聞いた時に僕達の前方のほうから乾いた爆発音。良く駄菓子屋とかに撃っている玩具の鉄砲の火薬が爆発音だ。


 くじのはずれでよくもらえる奴だ。どこかの子どもが鳴らしたのだろう。しかし、外人二人は咄嗟に振り向く。その瞬間。


「……今!」


 言って彼女は走り出した。引かれて僕も走り出す。


「ヘイッ! ストップ!」


 振り返ると黒人が叫んでいた。その表情に人懐っこいものはない。


 一方で白人は耳に手を当て何か喋っていた。


 僕等が人ごみに紛れていくのを見て、彼らも走り出した。


 彩月さんは僕の手を引きながら、往来する人々の間を器用にすり抜けていく。


 後ろからは黒人と白人の二人組みが人を押しのけ追いかけてくる。意味が分からなかった。


「ちょっと、彩月さん、これ、どういう状況!?」


「今は説明している暇はない! とりあえず、走って!」


 いって彼女は僕の手を引く。それに合わせて走ろうとするけれど、追いかけるので僕は一杯一杯だった。


 人ごみに紛れながら小町川を渡り、直ぐに蕎麦屋さんの角を曲がって路地を進んでいく。振り返れば人を押しのけて外人が三人になって追っていた。


「振り向かないで、前だけ見て走って!」


 彼女が叫んで言う。後ろではみんなの怒声が聞こえる。


 路地を道なりに進み通りに出てさらに真っ直ぐ進む。普段なら車の交通がある道路だけれど、今は祭りの最中なので通る車もない。


 その代わり道を塞ぐように山車が練り歩いている。


 ほぼ道幅くらいの山車の、少しあいた隙間を彼女は器用に通っていく。


 少し置いて怒声。あの巨漢では通れないだろうし、流石にアレを押しのけていく訳には行かないだろう。


 後方に彼らがいなくなっても僕等は走っていた。以前として彼女は余裕な様子で走り続けている。一方で僕はもはや限界だ。


 筋肉は震え始めているし、心臓ははちきれんばかりに鼓動している。息を吸っているんだかはいてるんだかもはや分からない状況で今にも倒れ込みそうだった。


「あ、や、月、さん。ちょ、ちょっと、きゅ、休憩、させて」


「頑張って」


 んな無慈悲な。


 僕の様子を見ることなく彼女は走り続ける。左手に鳥居、右手に駅まで続く道を超え、規制がなくなって通りを行き交う車の真横を走り、倒れ込みそうな僕の手を引きながらも彼女は走った。そして、女子高から共学になった高校の前まで来たところで彼女は立ち止まった。


「前から!? 全く、何なのよ、もう!」


 苛立たしげに彼女は言う。


 手をもたれながら僕は膝に手をあて死にそうな呼吸をしていた。膝は笑い、足は振るえ、汗は噴出し、そして、気持ちが悪い。


 若干朦朧としている意識の中、顔を上げてみると彩月さんは前の道と来た道を見返し、彼女は高校がある方向へと僕の手を引いた。


「ま、まだ、走る、の?」


「頑張って、男の子でしょ」


 言って走り出した。なんというか、男とか女とか関係ないと思うんですよ、この状況。

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