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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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“彼女”?それとも“カノジョ”?(4)

 屋上からの一件の後、彩月さんとの関係は良くいって平行線を辿っていた。本当のところは疎遠になりつつあったけど。

 人が変わったような彩月さんは以前と違って他の人といる姿を見るようになった。相変らず部活動の勧誘からは嫌そうな表情を浮かべて逃げ回る日が続いているが、それ以外はいろんな人と話している姿を見るようになった。

 男女問わず、同学年、先輩、はたまた先生と。

 目に見るもの、聞くもの、触れるもの。彼女にとって全て初めて手にしたように彼女は全てに興味を示していた。

 それは以前の彼女とは真逆のあり方。まるで、幼児がさまざまなものに興味を持つように。

 ただ、彼女の場合はおかしなことに興味を持っている物を知っているということだ。知ってて興味を持つのだから変わっている。もっとも、彼女が変わっているというのはいつものことだけれど。

 変わったといえばあの二人。屋上の一件以来妙によそよそしい。特に彩月さんに声を掛けられたときなんか正悟は露骨に顔が引き攣るし、三九二君は悲鳴を上げる。本当に、彼女は一体何をしたのか。

 それと、もう一人度々声を掛けてくる人がいる。僕にではなく彩月さんにであり、その人は沢渡先輩だった。

 その理由は例のバッティング勝負だという。始めは柳沢先輩と一緒に来ていて、先輩も頭を下げていたっけ。

 いつもの彩月さんなら我関せずといった感じで気にしなさそうなのだが、特に気にした様子もなく付き合っている。彼女が出て行って5分くらいしてグラウンドから快音が聞こえて三分後には戻ってくるのだからどっちも律儀な話だ。勝敗といえば語るまでもない。

 そうして僕は何をしているのかといえば、そんな彼女の様子を眺めているだけだった。

 なんというか、話す機会が見つからないというかタイミングがないというか。以前までは全く他の人を気にせず一人でいたから勝手に行って勝手に話していただけなんだけど、今では彩月さんがいろんなところに行ったり来たりまるで気まぐれなネコみたいに振舞っていてなかなか捕まえることが出来ない。いや、単に行く勇気がないというか。

 あらためて自分の情けなさに気付かされたが、こんなときは大抵正悟が嫌な笑みを浮かべて楽しそうに人に発破をかけてくるのだが、あの調子ではそういうことは当面なさそうだった。




 そんな訳で通りがかった川岸で彩月さんを眺めているような生活が一週間ほど続いた。気付けば夏休みまで2週間ほどと迫った金曜日。学校はちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。

 クラスの半数ほどの生徒がそわそわしているし、それ以外の生徒もグループでどうするか話し合いをしていた。

 この時期の恒例行事らしい。町中に住んでいない僕と正悟にとってはあんまり係わり合いの少ない話であった。

「何、この空気?」

 気付けば一週間ぶりくらいにやってきた彩月さんが浮き足立ったみんなの様子をみていった。

「ああ。彩月さん久しぶり」

「そういえばそうね、越智君」

 流石にこの日は彩月さんと話す人はいなかった。

「ところで、みんながどうして落ち着かないかって話だよね。彩月さんはこの町のお祭りのことは知っている?」

 一応はね、と彩月さん。

「夏と秋にやるお祭りのことでしょ。夏は八坂神社のお祭りで秋は諏訪神社のお祭りでそれぞれ違うんでしょ。今でこそ山車を引いてやっているけれど、元は御輿を担いでいたそうね。江戸幕府が誕生してからは利根川沿いにあるこの水野村は物流の要所として発展し、江戸後期くらいから山車が見られるようになって……」

「う、うん。そうだね。というか、良く知っているね」

「そう? これでもざっくばらんに話しただけなんだけれども」

一応の知識ではない気がする。ざっくばらんでもそんなこと皆知ってそうになさそうだが。

「それで、なんでこんなに皆浮き足立っているの?」

「参加するからだよ、お祭りに」

 もっとも、聞いた話だけれど。確かにこの町旧水野のお祭りの話だけど、残念ながら僕等の小学校は川の向こう、北側。市内でやるお祭りに関しては少し縁遠い。

 かといって行かなかった訳ではなく、この時期には父と母に連れられていっていたっけ。

「見に行くってこと?」

「そうじゃなくて、実際に山車を引いたりとかお囃子を演奏したりするみたい」

 もっとも、お囃子のほうは内の学校の郷土芸能部が演奏している様子を見ただけだ。ただ、山車については僕と同じ年齢の子や、それより小さい子が大人と一緒になって引いている様子を見たことはあった。

「ふーん、何人くらいの子が行くの?」

「さぁ、分からない。この中学校に来て初めてのお祭りだし」

 ただ、クラスの様子から大半の生徒が参加するような感じだった。もっとも、山車を引いたりお囃子を演奏したりする人もいれば、出店目的で行くような子もいるみたいだ。

「人それぞれってこと?」

「そうなるね」

 そうなの、といって彩月さんは少し考え込む。

「ねぇ、越智君。明日暇かしら?」

 伸ばした人差し指を顎に当てて、もう一方の手で自分の肘を支えていた彩月さんが振り返っていった。

「まぁ、特に予定はないけれど」

 そう、良かった。彩月さんは笑う。

「明日、私とお祭りに行かない?」

 そんな事を言った。

「まぁ、いいけど……、え?」

 それはつまり、どういうこと。

「あら、不満?」

「そういうわけじゃないけど」

 そんなことはないんだけれども、まさか彩月さんからそんな言葉が出るとは思わなかった。

 というか、これって傍から見たらデート?

「それじゃあ決まりね。待ち合わせは戸田屋ね。時間は13:00くらい」

 そういって彼女は行ってしまう。

 まさか、久しぶりに会ってこんな展開になるとは思っていなかった。驚いたような嬉しいような微妙な気分だ。

 なんだか落ち着かない。ふと、窓ガラスを見てみれば、ニヤついている自分がいた。

 全く、我ながら単純な奴だと正面を見たら、久しぶりに悪い笑みを浮かべている正悟がいた。

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