表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
32/60

“彼女”?それとも“カノジョ”?(3)

魔砲少女からはや十数年。

魔砲少女はもはや少女ではなくなり、少女ではないどころか出番なく、

魔砲どころか魔法要素皆無、まさかのベルカ式格闘戦オンリーなアニメに。

魔法(物理)少女ものになるなんて誰が予想しただろうか。

あ、まぁとりあえず楽しく見てます。


本編に全く関係なしです。はい。

 その日一日はまるでお祭り騒ぎだった。


 彩月さんが普通に会話している、と言う話を聞きつけた同学年や先輩たちが僕等の教室に押し合いへし合いやってきたのである。


 未知の転校生の話を聞けるということでこぞってみんな現れたものだが、何よりも多かったのは部活動の勧誘だった。


 それはそうだ。前日にいたるところでアレだけ目立った事をすれば注目されるのは間違いない。それより何より物凄い技術を持っていればどの部活だって即戦力として欲しい。何せ今は夏休み前。夏の大会目前だ。今から入ったって間違いなく好成績を残せる人間なら喉から手が伸びるほど欲しい。


 一方で、彩月さんはそんな気は全くないようで、苦笑しながら尽く断るのだが、休み時間ごとに勧誘に来るのだからたまったものではない。昼が近付く休み時間辺りからダッシュで教室から逃げ出していた。勿論それを追う部活動の皆。彩月さんは持ち前のスペックで逃げ出すので誰も追いつけずにいた。


 ただ、彩月さんが逃げた先は気になる話で、一回ベランダから何事もなかったように帰ってきた。


 結局、その後休み時間は部活動の勧誘を巻くのに丸々使い、放課後も逃げ惑っていた。


『話したいことがあるんだけれど、放課後いいかしら』


 と彼女は僕に伝えたものの、これは無理かなぁと思ったが机にノートを千切ったメモが入っていたことに気付いた。そこには、PCで打ち込んだような文字が書かれており。


『5時屋上で。彩月』


 とあった。というか、いつ入れたんだろう。


 そういう訳で僕は普段は立ち入り禁止の屋上にやってきた。


 軋む音を上げて錆付いた扉が開く。


 夏の日の夕暮れ。眩いばかりの夕日が空をオレンジ色に染める。


 普段誰も訪れない場所だから周りにはフェンスも金網もない。


 手入れもされていないので自然に溜まったゴミがいたるところに落ちている。


 そんな場所に彼女は先にいた。






「ようやく来たわね越智君」


 屋上の出入り口に背を向けていた彩月さんが振り返っていった。


「なんだか大変だったみたいだね、今日一日」


 扉を跨いで屋上に出た僕は言った。


「そうね。まさかあんなに部活に誘われると思いもしなかったわ。あんまり不用意なことはしないほうがいいってはっきりしたから」


 そういって彼女は困ったように眉をひそめた。


「……まずかった?」


「あ、ううん。ご免なさい。越智君の所為じゃないの。あの場で見ているっていう選択肢もあったけど、結局やったのは私だし」


 そういって彼女は苦笑した。


「それで、話って何かな」


 と聞いたけれどもなんとなく予想は付いている。


 聞かれて彩月さんは少し悩むように斜め上の空を見ながら自分の顎に人差し指を当てた。


 そして、振り向き。


「昨日のこと」


 と、さして悩んだ様子もなく言った。


 やっぱり。


「……朝」


 ん? と彼女は短く言った。


「朝、クラスで『私一度死んで生まれ変わったの』っていったよね」


「確かに、言ったわ」


 というか聞いての、と彼女。


 席が近いからね、と僕。


「アレって本当?」


 僕が言うと彩月さんが目を細めた。


「おかしなこというのね、越智君。死んでしまったら何にもならないのよ。それとも、越智君は私が磔刑にかけられた大工の息子と同じようにみえるの?」


 なんとも遠まわしな答えだ。言った彼女は後ろで指を組み、身体ごとそっぽをむいてしまう。


「でもね、『生まれ変わった』というのは違いないわ」


 どこか遠くを見据えて彼女は言った。意味が分からなかった。


「……それってどういう」


 そのまんま、と彼女は言って頭だけ動かして僕を見た。


「それって越智君の所為」


 そういって彼女は顔だけ振り向いて僕を見た。


「僕の所為?」


 思い当たる節はない。精々あるのは必死に、一方的に彩月さんに話しかけていたことだ。というか、それ以外した記憶がない。


「……怒ってる?」


 僕のその言葉を聞いて彼女は目を丸くした。その後、笑い出す。


「怒ってはいない」


 そういって笑うのを止めた。


「でも、不思議な気分」


 そういって、彼女は僕から視線を外した。


 西側。壁のように佇む市役所に沈む夕日を眺めながら。


「実はね、今まで怒るってどういう気分か分からなかったの」


 唐突に彩月さんはそう切り出した。


「ううん。怒るだけじゃない。悲しいとか嬉しいとか楽しいとか面白いとか、そういう気分とか感情の動きっていうのが分からなかった」


 冗談なのか本気なのか分からない。どこか遠くを見据えるように佇んで、彼女は続ける。


「私は今まで全ての事を情報として受け取っていた。全てのことが情報なんだからそれを受け取るのは当たり前のことなんだけど、ただ、起きた事を起きたまま受け取っていたの」


 言って彼女は空に向かって手を伸ばした。


「例えば、鳥が空を飛んでいた。風が吹いている。水が流れている。雨が降ってきた。濡れた。風が吹いている。それが強い。映画がやっている。誰が出ている。猫がいる。イヌがいる。人がいる。話している。動いている。写真が景色を切り取るように、映像がそのままの光景を映すように、私はありのまま、そのままの世界を記憶していた」


 カメラみたいにね、そういって画家か写真家がやるみたいに指で四角を作って、そこから風景を見ていた。


「だから、そこに感情がない。あってもそれは情報として。笑っている、怒っている、泣いている、楽しそうにしている。笑いかけられている、怒られている、泣かれている、楽しませようとしている。そして記録するだけの私には、面白い、ムカつく、悲しい、楽しい、そういう心の動きがなかった」


 そういう風に感じていたのか。そういう風にしか見れなかったのか。それとも、もともとそういう風な視方だったのか。彼女の真意が読み取れない。


「でも、今は違う。人の言葉を聞いて怒っている。人と話して面白いと感じている。誰かと一緒にいて楽しいと思っている。幸いに。そう、幸い、と考える事だってある。危機とか危険がなくなる可能性の中の幸いじゃない。まだ、悲しいとか誰かが憎いとか、そういう経験がなくて幸いと思える、自分がいる」


 両手を大きく広げて空を仰ぎ見た。


「よく、世界が違って見えるとか輝いて見えるとかよく言うけどさ、あれって本当のことだったのね。レンズから通して見た世界がここまで違うなんて思わなかった。まるでモノクロ写真に色が付いたよう。世界が全て新鮮に、そして鮮明に感じるの」


 そういって彼女はまた僕と向き合う。


「これも全部越智君の所為」


 そういっていたずらっぽく彼女は微笑んだ。


 その言葉に思わずドキリとする。


 夕暮れの屋上、彼女の笑みがまぶしい。


 ふと、記憶が蘇る。4月。通学路の途中。川を挟んだ桜の木の下。散る花びらを眺める一人の女の子の姿。


 今、目の前にいる人はまるで別人のようだけれども、でも、やっぱり僕は彼女に心奪われたんだろう。


 その後は、自然と僕の口から言葉がもれた。


「初めてあった時から言いたいことがあったんだ」


 それを聞いて彼女は一瞬きょとんとする。でもすぐに分かったような表情を浮かべて歩き出す。


「何かしら」


 彩月さんは僕に近付いてくる。


「前から思っていたことで、なんとなくは話していたと思うけれど、でも、はっきりと君と面と向かっ

ていったことはないんだ」


 僕が言う間も彼女は歩みを止めない。


 狭い屋上。彩月さんはもう目の前だ。


「僕は君のことが……」


 そこで、彼女は人差し指を立て、僕の唇にかざす。


「その次は知ってる」


 そういって笑って。


「でも、それは別の機会に聞かせて欲しいな」


 僕から離れた。


「残念だけど、今は」


 彩月さんは足元に落ちていたコンクリートっぽい破片を拾い上げる。すると、おもむろに屋上の出入り口に向かって投げつけた。


 僕も振り返った。


 良く見れば閉めたはずの出入り口は薄ら隙間が開いており、彼女の投げた破片はその隙間に吸い込まれた。直後、悲鳴。


 あ、馬鹿! という声とともに開く扉。そこには仁王立ちの正悟と、床から生えた手足、おそらく三九二君、があった。


「覗き見なんて古典的よね」


 彩月さんがコンクリート片を拾い上げる。


 二人がいつからいたのか、彩月さんはいつから気付いていたのか。なんだか僕一人馬鹿っぽい。


「そら、大事な友人がここ一番というときに様子を見てやるのが友達の心情って訳で」


 引き攣った笑みを浮かべて取り繕う正悟。


「別に面白そうだとかそういうわけじゃなくてな」


 嘘のつけない三九二君。瞬間、正悟が踏みつけた。


 どう表現すればいいんだろう。僕の中でいろんな感情が渦巻いている。おそらく、筆舌しがたい表情をしていたんだと思う。


「……怒っているか、あずま」


 気まずそうに正悟が言った。その瞬間、自分でも不思議なくらい気持ちがクリアになった。


「うん、怒ってないよ」


 自然と笑みも出た。それを見た正悟が蛙を潰したような悲鳴を上げた。


「……駄目だ。アレは駄目な奴だ」



「おおぅ、笑ってるけど背筋が薄ら寒い」


 のっそりと起き上がった三九二君もこっちを見てそんな感想を述べる。


「越智君は怒ってないようだけど私は怒ってる」


 そういって二人は彩月さんを見た。僕も彼女を見ると彼女は手に持っていたコンクリート片をスナップを効かせて投げたところだった。


 空気を切って飛ぶコンクリート片は入り口の壁、扉に直撃する。扉に直撃したコンクリート片が扉に食い込んだ。


「……!? え、ちょ、ま」


 唖然とする正悟。


「凹んだ! 扉凹んだ!」


 叫ぶ三九二君。


「さぁ、覚悟は出来てるわね、二人とも」


 腰に手をあて、もう一方の手でコンクリート片をもてあそぶ彩月さん。


「よ、よし。山田さん。落ち着いて、冷静に話そう。うん。いつも貴方様頭の中にドライアイス入ったみたいに冷静ではないですか。その感じでお話を」


 逃げ腰で両手を前に突き出して、降参のポーズで三九二君は言った。


「問答無用」


 微笑んで返答。


「しゃ、洒落になってない、洒落になってない! 扉が凹む勢いなんて普通の人間食らったら普通に死ぬ!」


「は、はじめ。はじめ君。はじめさん。はじめさんからも山田さんに一言お願いします」


 よしなに、よしなに、と三九二君が助けを求める。ただ、僕としては。


「やっちゃっていいんじゃないかな」


 ほら、やっぱり聞き耳って人間性的にどうかと思うし。


「ああ、やっぱり駄目だ!」


「だろうね、知ってた!」


 うろたえる二人。


「よし。男は度胸でしょ。覚悟しなさい」


 腕を回しながら歩き出す彩月さん。


 その瞬間、脱兎の如く逃げ出す二人。


 楽しげに笑いながら彼女は二人の後を追った。


 一人屋上に残される僕。


「自分は変わったと彩月さんはいったけれど」


 誰もいない夕暮れの屋上でつぶやく。


 扉の向こう。見える薄暗い階段の下からは男の悲鳴が聞こえる。


 一体どうなっていることやら。


 まぁ、しかし。


「いくらなんでも変わりすぎじゃないかな」


 全くの別人ですよ、アレは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ