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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
30/60

“彼女”?それとも“カノジョ”?

やっぱり一個前サブタイトル間違えた。

 あの後僕はしばらくその場に立ち尽くしていた。そして、そうしていても意味がない事に気付いて家に帰った。


 家に着くとそのまま部屋に直行した。明らかに様子がおかしい自分の息子を前にして、母は心配してくれたが僕は大丈夫だと一言声を掛けて部屋の扉を閉めた。そして、着の身着のままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。


 仕事から帰ってきた父も母から事情を聞いたのか扉越しに声を掛けてくれたが、僕にはそれに返す余裕がなかった。


 目を開いていても閉じていても、浮かんでくるのは彩月さんが苦しんでいる様子。


 その時僕は何も出来ずにただ見ているだけ。


 なんて無力。


 その事実が僕の心を苛んだ。


 延々と繰り返される映像に、まどろんでいるのか、それとも起きているかさえ分からずじまいのまま、気付けば既に朝になっていた。


 そのまま洗面所に向かう。鏡に見た自分の顔は酷いものだった。


 とりあえず、着替えるだけ着替え学校に向かう。昨日から何も食べていなかったが、不思議とお腹はすいていなかった。


 キッチンで不安そうに見つめる父と母。僕は大丈夫だよ、とその場しのぎに言ったが鏡で見た自分ではとても説得力がない。


 とりあえず牛乳だけ一杯貰い、そのまま学校へと向かった。




 学校に辿り着きそのまま自席に着きうつ伏せた。


 心配そうに周りのみんなは声を掛けてくれたが、大丈夫だよ、とだけ返してそのままでいた。


 後ろの席に彩月さんの姿はない。


 時間が立つに連れて、次第にクラスに人が集まってくるが彼女の来る気配はない。


 その内に朝連組も部活動を終えてクラスに戻ってくる。


 そうして、剣道部から帰ってきた正悟もやってきた。


「どうした、あずま。この前みたいに寝不足なのか」


 自席に座って第一声。いつもと変わらない正悟が言った。


「どうだろう。眠いのか、眠くないのか良く分からない」


 そんな僕の返事を聞いてただならぬ雰囲気と察したのか、正悟の様子も少し変わった。


「落ち込んでいるって感じじゃねーな。もしかして、あやにふられた?」


「……別に付き合ってないし。いや、でも、振られたなら振られたでそっちのほうがましなのかもしれない。振られただけなら彼女はいるし」


 言って自分を抱いて苦しんでいる彩月さんの姿が浮かぶ。その記憶に唇をかんだ。


「……? 何を言ってるんだ、まるであやが死んだような言い草だな」


 それを知らない正悟は意味が分からないと眉をひそめる。


「……そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」


 あの後彼女がどうなったかは分からない。ヤマダさんは大丈夫だといったが、あの胡散臭い人の言葉は限りなく信用ならないとは思うが。


「……何があった?」


 僕の言葉にただならぬ気配を感じたのか、正悟は真面目にいった。


 その様子に僕は顔だけ動かして正悟を見た。いつものような砕けた調子はなく、彼の真剣な表情に逡巡したが、機能あった事を掻い摘んで説明した。


 聞き終えた後、正悟はちょっと言っている意味が分からないというような困った表情をしていた。


「なんだか訳わかんねぇ状況だな。部活巡って一緒に帰って笑っているっつったら死にそうなくらい苦しみだして倒れただ。なんだそりゃ」


「何が起こったのか僕も良く分からないけど、事実なんだ」


 とはいうものの、やっぱり正悟は困り顔だった。


「まぁ、ただそんな死人みてぇな顔している理由は分かったし、お前が嘘つくとも思えないから信じはするけどよ」


 とは言いつつやっぱり理解できかねるといった風の正悟だった。


「そりゃそうだよね。僕だって正悟の立場で聞かされたらがんギマりだと思うし、まともじゃない。けど事実なんだ」


 ため息交じりにいう。それを聞いて正悟もさらに困った表情を浮かべた。


「まぁ、昨日の状況をあれこれ検証しても無駄だろうし、分かることから消化するとして確認はとったのか?」


「確認って」


「いや、あやがくたばったかくたばってないか」


 正悟の言葉が心臓に突き刺さった。


「ああ、うん。わりぃ。悪気はない。悪気はないが」


「……わかってるよ。わかってるけど、オブラートに包んで。確認する前に、こっちが死ぬ」


 重症だな、と正悟はつぶやいた。


 しかし、正悟の言ってることは間違いじゃないし正しい手段ではあるのだけれども。


「確認するも何も僕等は誰も彩月さんの家を知らないし、彼女の電話番号も分からない。メールのアドレスも、ツイッターやラインのIDもね」


「そういえばそうだったな」


 僕等は学校以外で彼女たちと連絡をとる手段を持っていない。以前に彩月さんたちの家を探そうとしたけれど、結局それも見つからずに終わってしまったし。


「それじゃあ、他には?」


「学校で待つ」


「……現状のままってことね」


 それ以外なくね、と正悟。まぁそうなんだけれど。


「ただ、その前に何かあったらって思うと」


「考えすぎなんだよ、お前は」


 呆れたように彼はいった。


「……正悟は実際に見てないからいえるんだよ。昨日の彩月さんの様子を」


 いってその光景がぶり返しそうになり、僕は机に顔をまた伏せた。


 こりゃ重症だ、と正悟は口をへの字にしていった。


「それに、お前の杞憂で終わりそうだぜ?」


 と、いつもの調子に戻った正悟が言った。


 何だ、と顔を起こし正悟と同じ方向を向くと、彩月さんが普段と変わらない様子で教室の後ろの出入り口から入ってきた。


 思わず起き上がる。不覚にも泣きそうになった。


 そんな僕の思いと裏腹に、何事もなかったかのような彼女は自席へ向かってあるいている。と、そこに。


「彩月ちゃーん、おはよう!」


 こっちもいつもと変わらないテンションで三九二君が彩月さんに声を掛けた。


「こりねぇなぁ、三九二の奴も。どうせ返事なんて返ってこねぇんだから」


 呆れたように正悟が肩を竦めた。


 チラッと三九二君のほうを向いたクラスメイトも、性懲りもなくといった風に彼の事を一瞥していた。そして、彩月さんも。




「おはよう、三九二君」




 なんて挨拶して自席に向かった。


「ほらな」


 正悟が鼻で笑う。


 やっぱり、といわんばかりのクラスメイトは再びそれぞれの輪に視線を戻す。


 知ってた、と笑顔でグループに戻って。




「「「……えッ!?」」」




 全員が一斉に彩月さんに振り向いた。


 珍しく正悟が驚いたままぴたっと止まっている。各言う僕も度肝ぬかれているけれど。


「え? 帰ってきたよ。挨拶、返ってきたよ!?」


 三九二君に至っては若干裏返りながら酷く混乱している。


 クラスのみんなも何が起こったか理解できずにいて、ざわつきだした。


 そんなみんなの様子を余所に普段どおりの彩月さんは、自席に荷物だけを置いて僕等のほうにやってきた。


「おはよう、越智君」


「お、おはよう。彩月さん。き、昨日のは大丈夫、なの」


「ええ、お蔭様でなんともないわ。それよりも、ちょっと話たいことがあるから放課後いいかしら」

「べ、別に構いはしないけれど」


「よ、よう。あや」


「おはよう。五木君。どうでもいいけど何で鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている訳?」


 クラスの何人かが彩月さんに挨拶をした。


「おはよう。宮城さん、鳥取さん、群馬君」


 彩月さんも挨拶した。


 一斉に視線がこっちに向く。


「……おいあずま、お前何をした?

 驚いた表情のまま、正悟が聞いた。


 ただ、その答えについては僕が一番知りたいんですけれども。

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