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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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出会いは突然に(2)




「なんつーか、朝っぱらから人に聞かせる話か、それ」


 いっそ轢かれればよかった、とまで言ってのける冷淡な前の席の男子は、冷たい眼でしらけたようにこちらを見ていた。


「む、なんか心外だな、それ。ていうか正悟が遅刻した理由を聞いたんだろう」


 机に突っ伏していた僕は不服だ、と彼に訴える。結局、登校に関しては間に合わずに遅刻。朝のホームルーム半ばに教室に入り込み、教卓にたっていた体格のいい英語の担任に軽くどやされる羽目になった。


「聞いたがな、朝からそんな胸焼けするような気持ち悪い話を聞く羽目になるとは思わなかった」


 うげぇと吐くジェスチャーまでやってのける僕の友人。失礼極まりないこの人物、名前を五木正悟(いつきしょうご)という。


彼のことを一言で表すなら柄の悪い学生である。


見るものを射抜く様な鋭い目付き。目にかかるくらいまで伸ばした前髪。それにあわせて全体的に長い髪。


身長は170cmと標準からしたら高めなのだが、この田舎やたらと身長高い奴がいるために彼の身長でも基準値である。誰だ、平均値上げている奴。


で、そんな彼が猫背気味に相手を除き込むように他人をみるもんだから、自然と睨みつけているように見えなくもない。


そんなんだから上級生に目をつけられてもおかしくないのだが、彼の場合先輩たちからは別に学校で有名なのでそういう話はない。何でも、彼の兄が有名らしくてちょくちょくそれで先輩に声を掛けられている。


とまぁ、おとなしい僕と柄の悪い彼。何だってこんなのと友達をやっているかといわれれば、6年間通いつめた小学校からの友達であり、同じ櫛島に住んでいるからである。


「女に惹かれて轢かれそうになってりゃせわねーよ。それによ、あずま。お前が今いったこと、お前の親父さんとおふくろさんと大差ねーんじゃねーの」


 何か酷いことをいわれた気がする。ちなみに彼のいうあずまとは僕のことである。何でも彼曰く、東と書いて“はじめ”というのは自然じゃないと。そういう訳で彼の基準で普通の“あずま”と僕は呼ばれていた。


「失敬な。これでもあの二人の子どもで一番ならないように気をつけているところだよ、それ」


「そうか。でもな、俺は今ほど遺伝子って絶対なんだなー、と思ったことはねーぜ。今からでも見える。将来のお前はあの二人に輪をかけたような甘くて歯が溶けそうな女関係を作る。絶対だ」


 何を根拠に言っているのか、核心を持っていう彼の論調はなんだか頭に来る。


「まぁ、急ぐ気がなけりゃ間に合わない時間設定だったということで、女の話は一切関係なかったがな。水あめみたいな話で若干もたれたしな」


「はは、今になって正悟に話したことを後悔しているよ」


 俺は聞いたことを後悔しているよ、と彼は皮肉めいた笑みを浮かべていった。全く、いい友達を持ったと思う。


「うん。金輪際この話は正悟にはしない」


「俺も、聞きたくないから結構」


 そういって彼は鼻で笑った。そこで会話が途切れる。


 ふと、時計を見上げれば時間は一時間目まであと五分くらいある。一時間目は確か国語の授業だっけ?


「でさぁ、その子。この学校の何処にいると思う」


「話さねぇっつったのは何処のどいつだ。そしてそれが片鱗だっつってんだよ。大体、それを俺に聞くか」


「……そうだね。聞いた僕が馬鹿だったよ」


 だろう、と正悟は答えた。僕が言うのもなんだが、それでいいのか友人。


「そういうことは俺に聞くよりかはあっちに聞けばいいだろう。ほら三九二(みくに)に」


 そういって首で彼等のいる方向を指す。教室の中心よりも廊下側、楽しそうに談話するグループの中、椅子の背もたれに座っているテンションの高い生徒が三九二君だった。


「ああ、三九二君ね。確かに適任だろうね、彼。でもねぇ、絶対話題の種にされる」


「まぁ、されるだろうな。昼を待たずして連中のグループに。放課後までには一年全員に知れ渡っててもおかしくはない」


 誰と彼がくっつくのは自分達が関係をしていない限りは面白い話題でしかない。


「正悟、僕が君に話した理由は何だと思う?」


「目立ちたくないから。茶化されたくないから。後、極端に狭い交友関係」


「それって自虐。一応ね、信頼できる友達だからだよ」


「へぇ、俺って意外に信頼されてんのな」


 意外、と驚いたようにおどけてみせる。基本的に柄が悪いんだけど、こういうところ愛嬌あると思う。


「だがな、言った通り俺じゃあ役に立ちそうにない。もっとも、俺の知る範囲で答えていい、というならばおそらくは一年にはいない。お前の好みに入るんだからよっぽどなんだろうし、だったら話題になるだろうし、そもそも良くも悪くも俺たちの学年、普通のしかいねーぜ」


「それって女の子が聞いたらいい感想はもたなそうだよ」


 聞いてる奴なんざいねーよ、と口を歪めて彼はいう。


「だといいけどね」


「それに、だ。仮に上の学年だとしたら家のクソッタレが嫌でも話持ってくる気がするからな。アレ、色ボケだし」


 心底嫌そうに正悟は話す。アレ、というのは彼のお兄さんのことだ。


「目聡いアレが逃すとも思えない。ま、昨年度末に転校してきた奴だったら話は別だけどな。一応、先輩に聞いては見るけどよ」


「……ありがとう」


「しかしねぇ、お前がねぇ」


 正悟は含みのある笑みを溢す。


「……どういう意味?」


「いや、どうもこうも」


 そういう意味、と彼はにやける。そこでチャイムが鳴った。チャイムと同時に国語の教師が入ってきた。隣の気難しそうな顔をした男の先生だ。


 足早に全員が席に着く。正悟もさっと前をむく。


 一言二言あったがタイミングを失ってしまった。


 正悟の言葉も彼女の事も気になっていたが、とりあえず僕も授業を受けるため、身体を起こした。

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