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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
29/60

幕間

ここに来て色々設定が浮かんできて失敗したなぁ、と思う今日この頃。

とりあえず、完結目指して頑張ってきます。


 ―――そして、私は文字通り生まれ変わった。


 『始めて彩月さんの笑った顔を見たよ』


 それが始まりの言葉。まるで魔法の呪文。


 その言葉を聞いた途端に、私の中にあった何かが動き出した。


 そして、いいようのない感覚が全身にあふれ出した。私の処理限界を超えて身体の中を暴れてまわる。


 頭の中に響く、管楽器と弦楽器の不協和音。それに金属やプラスチックやガラスを擦ったような音が混じってひたすらリフレインする。


 吐き気は止まらず、震えは収まらず、およそ考え付く不愉快な現象が私を襲った。


 それが繰り返す。意識を保ったまま、延々繰り返す終わらない拷問を受けているような感じ。


 それがある程度落ち着いて自分の状況が考えられるようになった頃には、私はコンクリートが打ちっ放しの部屋の真ん中にあるベッドの上にいた。


「気付いたかい?」


 聞きなれた声がした。聞くだけで癪に障る声だ。


 ……癪に障る?


「ねぇ、癪に障るってどういう意味?」


「目覚めた第一声がそれかい」


 声の主は呆れたように言う。だが、声音には欲しかった玩具を渡されて喜んでいる子どものように弾んでいた。


「というか、それくらいお前なら分かりそうなものだと思うがね。まぁ、一応言っておくけれど、癪に障る、という言葉はムカつくと同じ意味だよ」


「そう、それじゃ私は貴方の声にムカついたってことね」


 酷い話だ、と声の主、今はヤマダタロウとふざけた名前を名乗っている男は言った。もっとも、それを言ったら私も山田彩月(ヤマダサツキ)なんて偽名を名乗っているけど。


「随分と嬉しそうじゃない、何かいいことでもあった?」


「ここ数ヶ月はね、立て続けに。少し目障りな連中がうろついていて気分が悪いけど、それを差し引いても有り余るくらい。それも、今日という日に限ってはね世界的に記念日を作ってもいいくらいにね!」


 心底愉快でたまらないといったヤマダ。今にでも小躍りしそうな勢いだった。私が知る中でも五本指に入るくらいご機嫌だった。ああ、でもコイツ不機嫌なときってあったっけ。


「それで、君のほうはどうだい。調子は悪くないかい?」


 実に愉しそうにヤマダは言った。


「最悪。まだ混乱している。実際、意識したらまたさっきのがおきそうだから考えないようにしている」


 そういってあの時の事を思い出そうとする。瞬間、頭に痛みが走ったような錯覚を覚えた。痛むなんて機能ないのに、そもそも痛いってどういう感覚なのだろう。今のは嫌な感じがしたけれど。


 ともあれ、私の回路が考える事を拒否しているのだろう。なら、言ったとおり考えないに越したことはない。


「そうか、それは良かった」


 実に嬉しそうにヤマダは言った。


「何、私が苦しんでいるのが嬉しいわけ?」


 人の事を気にするような人間ではない。ましてや、私のことなんてもっての他。道具としか見てない奴に心配だとか配慮だとか求めても無駄だ。だから今まで無視してきたけれど、というか気にならなかっただけなんだけど、なんだか今は無性に腹立たしかったからヤマダを睨んだ。


 しかし、今のあの男にとってそれだけでも喜ばしいことなのか、丸椅子に座っていたヤマダはただでさえにやけている口元を、私が睨んだことでさらに吊り上げた。


「いや、そういう意味じゃないよ。ただ、君がそんな感じ方をしているのが喜ばしいってことさ」


「どうだか。アンタなら私が苦しんでいても喜びそうだけどね」


「随分と酷い男に見られたね。流石にそこまで性格悪くないよ」


「成程、性格がいい人間っていうのは人が苦しんでいるときに大笑いしている人間の事を言うのね」


 皮肉っぽく言ってみると、ヤマダは虚をつかれたように目を丸くした。


「しっかり覚えている訳か。まぁ、そうだろうね」


 ヤマダは肩を竦めた。


「なにはともあれ、全て少年と愉快な仲間たちのおかげ、なんだけどね」


 言ってため息をはいてヤマダは頭を押さえた。


「少年って……、ああ」


 いつもとぼけた顔をして微笑んでいる頼りない男の顔が浮かんだ。


「全く。私が3年かけて出せなかった結果を彼等は3ヶ月足らずで出した」


「……傷付いた?」


「まさか。丸5年以上も一緒にいて私が傷付くと思うかい」


「知ってる。むしろ、アナタとしてはむしろ満足しているんでしょ。自分も出来ないことがあるってさ」


 私の言葉を聞くと、ヤマダは肩を震わせてくっくっくっ、と笑い出した。


「出来ないことじゃなくて専門外なのよ。人の心とか、アナタには」


「かもしれないね」


 どこか自嘲したようにヤマダはいった。


「という訳で、私としてはあらためて少年に会ってお礼をしたいのだがね。もっとも、彼等は何のことだか全くわからないだろうけどね」


「彼に会うの?」


「お前は会わないのかい?」


 言われて考える。そういえば別れ際がかなり悪かった気がする。


 傍から見ればあの時の私は今にも死んでしまいそうな様子だった。それも、この男は碌な説明もなく立ち去ってしまったのだ。今頃心配しているのではないだろうか。


 人見知りで、大人しくて、弱々しいのに、その癖時々強引でしつこい男。


 瞼を閉じれば彼の顔が浮かぶ。開けばそこにいない。


 そんな彼を思うと違和感を感じる。ただそれは嫌じゃない。


 未だ混乱する私の中で、唯一安定している違和感。


 虚空に手を伸ばす。


「そうね、彼に会わなくちゃ」


 まるで何かを掴むように私は握り締めた。

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