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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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カノジョは変わり“モノ”?(6)

なんだか感覚が戻らない。

 迫るボールを目前に反射的に膝を抜き、咄嗟に腕で顔を覆う。が間に合いそうもない。最悪の顔面セーフは免れそうだが痛いことには違いない。


 風を切って迫る白球。後一秒足らずといったところで僕を直撃すると緊張し、そしてパシンと子気味良い乾いた、ボールをキャッチする音を聞いた。


「……え?」


 おそるおそる手をどけて前を見る。丁度ボールと僕の間、そこに手が一本伸びている。彩月さんだ。彼女はあろう事か飛んできたボールを素手で掴んでいた。それも仁王立ちで。


「大丈夫?」


 触れば折れてしまいそうな細腕とはうってかわって、佇む彼女は実に男らしい。いやいや、そうじゃなくて。


「あ、ありがとう。でも、彩月さんのほうこそ手は大丈夫なの?」


「私はこのくらいじゃ怪我はしないから。それよりも越智君が怪我がなくてよかったわ」


 ほら、と彼女はそういって手を見せてくれる。彼女の言うとおり擦り傷はやあざの類は見られなかった。


「おい、大丈夫だったか一年。怪我ないか?」


 と、野球場のほうからユニホームを着た先輩が走ってきた。


「ええ、何とかまぁ。彼女のおかげで僕は大丈夫でした」


「うーん、女に守られる男は男としてどうなのかと思うが……。しかし、今の凄いな。というか、君は噂の一年?」


 腰を抜かしている僕に呆れつつ、飛んできたボールを素手でとって彩月さんに素直に驚くなんだか人の良さそうな見た目をした先輩。聞かれても彼女は何も答えない。


「……本当に噂どおり誰とも喋らないんだな。けど、お前とは話していたような」


「ええ、まぁ。何でだか良く分からないんですけれど」


「すると、お前が例の色男って訳か」


 僕と彼女を見比べその先輩はニヤニヤとする。彼女のことが噂になっているのは百も承知だけれども、先輩の話しようではどうやら僕も噂になっているらしい。この場合、あんまり好ましい話では内容だけれども。


「何やってんだよ、しっかり捕れよ柳沢!」


 と。投手板にたっていた野球部員が叫んだ。それを聞いた途端に人の良さそうな表情をしていた先輩、柳沢さんは露骨に顔をしかめた。


「うるせぇな! あれはどう見ても捕れる球じゃなかっただろーよ!」


「気合出せよ! もっと走ればいけただろう! 大体、そんなグラウンドのど真ん中に突っ立ってる奴らなんざ気にしてんじゃねーよ!」


 なんだか酷い言われようだった。しかし、野球部員同士あんまり関係がよくないのだろうか、なにやらピリピリとした空気だ。


「悪かったな。気を悪くしたか」


「いえ、大丈夫ですけど。まぁ、確かに僕たちもこんな場所にいたのが悪いですし」


「妙に謙る必要なんてないよ。大体、ここだったら陸上か隣の連中がいたっておかしくないだろう」


 隣とはおそらくサッカー部のことだろう。


「大体、アイツの言ってることが理不尽なだけだよ。気にすることなんかねーよ」


「おい、柳沢いつまでそいつらと話してんだ。さっさと練習に戻れ!」


「分かってるよ沢渡! ちょっと待ってろ!」


 ッたく、と柳沢先輩はこぼした。投手の野球部員の名前は沢渡先輩というらしい。


「アイツね、沢渡つってウチのエースなんだ。最高速125キロの球投げてそこそこ肩はいいんだけどそれを鼻にかけてえらそうにしてるからあんまり良く思われてないんだわ。昔はそうでもなかったんだけどな。まぁ、いいか。兎に角、悪かったな」


 それじゃあ、といって柳沢先輩は野球場に戻っていった。


「なんだかアレだったね。どうする彩月さん他の場所に行く?」


「剣道場から順番に回っているのだから野球部を抜かすのはおかしいと思うけれど、貴方に任せるわ、越智君」


 元々は彩月さんの好きな事を探すためにやってるので、その反応はなんだか流れ作業になっているような気もするが、先の先輩の反応から見ててもあんまりいいことなさそうだな、と思いスルーすることにした。


 グラウンドと野球場の間。確かにこんなところ歩いてていいのかなぁとは思うものの、そのまま僕らは体育館を目指すことにした。のだが。


「すいませーん、ボールとってくださーい」


 再び野球場のほうから声が掛けられる。一年生だろうか、7,8人くらい集まった野球部員がキャッチボールをしていた。そこで、手を振る体操着姿の生徒。


 そして、僕らの足元にはボールが転がってきていた。僕はそれを拾い上げた。


「といわれても僕、あんまり野球得意じゃないんだよなぁ」


 体力テストでボール投げ18メートルくらいだったし。


「それなら私投げるわよ」


 そんな事を言って僕の手からひょいとボールを掴む彩月さん。そういえば、今年のスポーツテストで尽く記録を打ち破っていたような気がと思い出した瞬間、彼女が踏み込みボールを投げた。


 イメージはイチローが外野から投げる球。ていうか、どういう球だ。


 手を振っていた野球部員の生徒もまさか女の子が投げ、それがとんでもない剛速球だと思わなかったのか、一瞬我を忘れて見ていたが反射的にグローブでボールを掴んだ。


 まわりも驚いたような声を上げていた。


「さ、行きましょう。越智君」


 何事もなかったように立ち去ろうとする彩月さん。なんだか悪目立ちしてきたな、と思っていると。


「ちょっとまてそこの二人。今のボール投げたのどっちだ」


 グラウンドの真ん中、投手版に佇むエース、沢渡先輩が不機嫌そうに尋ねてきた。


 ……一番目を付けられたくない人に目を付けられてしまった。

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