カノジョは変わり“モノ”?(5)
お久しぶりです。
繋がらないネット環境。
忙しくなった仕事。
引きこもって物書きするだけの人生って送れないですかね。
また続き書いてきます。
剣道場を出て次に目指したのは直ぐ隣にあった軟式テニス部のコートだった。
校庭の一部を高いフェンスで囲い、そこに作られた2つのコートで男女で分かれて練習を行っていた。
フェンス越しに見学をしていた僕らを練習中の生徒が見つけてコートの中に誘う。剣道上での様子を見ていたのか、部活見学なの? と尋ねてきた。
まぁ、あながち間違っちゃいないけれども本筋は違っている。馬鹿正直に“彩月さんが好きな事を探しているんです”という訳にも行かず、曖昧な返事を返した。変な誤解をされても面倒だし。もっとも、そんな誤解だったら歓迎なのだけれども……。
そんな訳で誘われるままテニスコート内へ。ラケットを渡されコートへ。
いや、ラケットを渡されたところでずぶの素人にどうしろという話なのだが、こっちの気持ちを余所にというか、案の定彩月さんは2、3回ボールが来たところで早速対応していた。
もっとも、バドミントンとかラケットを使った遊びをしたことがあるならば打ち返せないことはないだろうけれど。それでも打って返すだけ。ネットを越えるとか、真っ直ぐ飛ぶとかそういうのは度返しで、本当に当たって返るぐらいなら誰でもできるのではないだろうか。幸いにも彼女たちもそこまで強くやるつもりはない。
彩月さんも最初はあさっての方向に打ち返したり、地面を転がしたりさせてたが、そのうち打って部員のほうへ返すようになり、それだけでも部員からおおという声が上がるのだが、その内にボールが入れてあるカートに入れるという曲芸まで見せ始めたもんだからそれが歓声へと代わっていた。
僕? 僕といえばてんで返せてない、というかボールが凄い勢いで飛んでくるというか、男子、アレ絶対みんなスマッシュだよね。
10分ほど打ったり打ち返したり狙われたりした後、僕たちはコートを後にした。彩月さんは良かったらうちに入ってよといわれ、僕はといえば一斉に舌打された。
テニスコートから出てグラウンドの反対側に行こうとした矢先。僕らの目の前にサッカーボールが転がってきた。それを足で受け止めたのは彩月さんであり、そのボールを取りに来たのは三九二君だった。
何故か見合う二人。ふと、三九二君は何を思ったのか不敵な笑みを浮かべた。そして、すかさず彼女に向かって走り出した。
彩月さんはそんな三九二君を見たまま動かない。彼が彼女の前に現れて普段サッカーをするみたいに足でとろうとした。彩月さんは、踵でボールを蹴って後ろに転がす。
三九二君はさらに体を入れてボールをとろうとするが、彼女はそれを器用につま先に載せ持ち上げてやり過ごす。
「……うな!?」
あっさりやり過ごされたことに驚いたのか、彼女のボールの扱いに驚いたのか彼はそんな声を上げた。
そして彼女はサッカーコートに向かってボールを蹴飛ばした。
「うん、知ってたよ俺!」
叫ぶ三九二君を余所にボールは他の部員のところまで飛んでいく。
サッカー場でその様子を見ていた他のサッカー部の部員は、おお、という声を上げてボールを受け取った。
「で、勢いでこんな事したけど、ところでお前ら何してんの?」
戻ってきた三九二君が尋ねてきた。
「一応彩月さんの部活動見学をね」
「部活動見学ねぇ。まぁ、確かにさっき隣でテニスやってたのはみたけど、ありゃテニスしてるっていうか的にされていたというか。や、彩月ちゃんのほうは別だけど」
「……見てたんだ」
「見てたというか視界に入ったというか。しっかし、二人でまわる必要なんてあるのかね。大体東のほうは科学部入っているんだから部活見学なんて関係ないと思う……」
そこまで言うと三九二君はなにやらはっとしたような顔をし、直ぐに含みのある笑みを浮かべた。
「ふーん、へぇ、そう。部活動見学。部活動見学、ねぇ」
「……なんか、凄く勘違いしているようだけど、別に他意はなく本当にただの部活動見学だよ」
すると今度は片手で目を覆い、身体を捻ってこっちに背を向けたまま反対の腕を突き出すという面白いポージングをした。
「皆まで言うな。分かっている。俺はわかっているぞー」
なにをいっているのかまったく理解している風には見えないのである。
「そうか、東がか。おとなしそうな見た目してんのになぁ。今となっちゃ不思議にゃおもわないけどさぁ。本当、人は外見には寄らないよなぁ」
顎をしゃくってしげしげと彼は僕の事を見ていた。
「うん。なんとなくよからぬ噂が流れる前に言っておくけれどね、今三九二君が思っているような事実は一切……」
「分かっている。大丈夫。心配するな、俺は口が堅い。誰にも言わねーからな」
やっぱり何にもわかっちゃいないのである。
一方的に思い違いをしている三九二君の考えを訂正しようとしたのだが、彼は爽やかな笑みを浮かべて走り去ってしまう。うまくやれよー、と言葉を残していくのだが、うまくやるも何もないのにどうしろというのだろう。
「……不安だ。物凄く不安だ」
「結局なんだったのかしら彼。何か知った素振りだったけれど。越智君分かる?」
「……どうだろうね。彼の思考回路は良く分からないから」
そう濁した。彼女は彼女で、やっぱりそういう人なのね、なんていっている。
しかし、それはそうとこのまま三九二君を放置しておくのは精神衛生上よろしくない。口が堅いなんて到底信じられない話だからどうにかこうにか変な噂を立てないように彼に話さなければいけないのだけれど、具体的に妙案があるかといわれればない訳で、するとやっぱり部活終わりに彼を捕まえないといけないのかな、とか思っていると。
「危ない!」
そんな叫び声に振り返ってみれば、僕の顔面目掛けてボールが飛んできた。