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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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カノジョは変わり“モノ”?(3)

「それで、話したいことって何?」


 放課後。


 気の滅入るような夏の外気も今では落ち着き、それでも纏わりつくような熱気は名残を残して未だに僕らの体温を上げていた。


 僕の教室は閑散としていた。みんながそれぞれ部活に移動し、残っている生徒は僕と彩月さんの二人だけだった。


 夏至は過ぎてもっとも長い昼でないけれど、それでも沈まない太陽は午後4時半の空を薄っすらと赤く染めてはいるが、相変らずの青色のが空を覆っていた。


 窓の外、蝉の鳴き声は勢いをひそめて、あれだけ耳に障った羽根の音もか細く聞こえる。


 その代わり、夏を謳歌する学生の合奏、合唱。


 グラウンドから聞こえる野球部の声。体育館の床を跳ねるバレーボールの音。男子、女子入り混じり合唱のように聞こえる走る掛け声。遠くから竹刀のぶつかる音、隣からは畳を叩く音。


 3年間を全力で走り始めた、そして走り抜けようとしている青春の吐息をBGMに僕と彩月さんは僕の机を挟んで向かい合っていた。


「私、以前に越智君が私に興味を持っていることに興味を抱いていることを話したでしょ」


「確かに、そんな話したよね」


 梅雨の終わり。今日と同じような誰もいない教室で、彩月さんは僕にそう告げた。


 僕だってそれは覚えている。何せ、その日から僕と彼女の関係は始まりだしたのだから。


 だからね、と彼女は続ける。


「それから今まで何故越智君が私に興味を持った理由を知るために貴方の事を見てきたんだけど」


 ああやっぱり見ていたんだ、アレ。


「結局その理由は分からなかった。見るだけでは分かる問題ではないから、話をしてみようと思ったの」


 興味を持って試行錯誤して僕の事を知ろうとしてくれてる点は嬉しく思うけれど、好意の持ち方が観察的な辺り、ちょっと残念に思っている。


「まぁ、でもこうして話そうとしてること自体が進展なのかもね」


「それってどういう意味かしら」


「深い意味はないよ。言葉通りのこと。ただ、僕にとっていいことって事かな」


 少なからず、一方的なコミュニケーションのときよりは圧倒的によくなっているのだから。


「それじゃあ、具体的にどんな話をするの?」


「何でもいいから話して」


 ……なんていうか一番困る答えだった。何せ今までの経験で真っ当に話が続いた経験がないからだ。キャッチボールは出来るようになったけれど、どうしてこうどストレートにどっちボールをしているのだろう。


 まぁ、でも彼女から言われたから何かしら話そうと考え込んでいた。


 しかし、浮かぶわけもなく5分くらい黙りこくって僕は考え込んでいたのだが。


「ねぇ、何か話してよ」


 何だろう、この倦怠期過ぎて末期を迎えたカップルの会話みたいな切り口は。


 痺れを切らしたのか、そういうのは一切表情に見せない彩月さんだけれど苛々しているのだろうか。それとも気のせいか。


「何か話して、といわれましても」


 話す会話全てを潰されてしまう僕としてはこれ以上会話しようがないというかなんというか。


 ……そういえば。


「彩月さんの好きなことって何かな?」


「私の好きなこと?」


「そう、彩月さんの好きなこと」


「な……」


「ないは無しで」


 先読みして僕は強めに言った。


 彩月さんはそれを聞き、無表情ではあるが何か訴えるようだった。


 今まで人に聞いてばかりだった彩月さんだったが、ここに来て初めて僕にそんな事を言われるとは思わなかったのか、黙りこくってしまった。


 そして、僕と同様しばらく悩んでいた様子だったが。


「……分からないわ」


 お手上げといった感じで彼女はいった。


「具体的に何が好きかってないの? 何かに興味あるとか?」


「考えたことはないわ、そういうの。何かに興味を持つなんて今までなかったから」


 本当なのだろうか。いや、今までの彼女の様子を見ている限りではあながち嘘を言っている訳ではないのだろう。


 彩月さんを知る上で何か興味があることから話を広げてみようと思ったが、どうやら彼女自身がそういう話を持ち合わせていないらしい。というか、今までどういう風に生きてきたのだろうか。


 今まで僕がしてきたことは骨折り損だったのかもしれない。そう考えると普通の人に普通に話す内容では彩月さんの場合はまったく意味がない。そもそも、彼女の興味があることから探さなければならないようだ。


そうなると、彩月さんの興味を持ちそうなことは何なのだろう。何事においても我関せず、といった風の彼女は、一体何をみて心動かされるのか。


といってもそこまで突拍子もないことが日常にあるわけもなく、彼女がやっていないことで複数見れることはないかと思ったその時、そういえば彩月さん帰宅部だったなぁ、というところでひらめいた。


「それじゃあ身近なところで、ちょっと部活でも見に行ってみようか」


 斜に構えているようでどこかそういう雰囲気でない彩月さん。単純に興味が持てずにやったことがなければ、体験をしてみて何かに興味を持つかも知れない。そこを切り口として彼女の何かを知れるかもしれない、という期待を持って話をした。


「それで、貴方を知れるの?」


「どうだろう。僕というよりかは彩月さんしだいなんだけどね。それ以上のことは分からないかな」


「貴方、分からない事だらけなのね」


「残念だけど、僕が知っていることは限りなく少ないからね」


「まぁ、でもいいわ。どうせすることなんてないし」


 そういう訳で僕らは教室を後にした。

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