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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
20/60

カノジョは変わり“モノ”?

 ヤマダさんとの話が終わりでてきた食事を食べた僕らは、結局そのまま解散となった。ぽんと置かれた5万円は当然の如くあまり、ヤマダさん本人に返そうにも彼の家が分からないため僕らの手元に残ることとなった。


 分けてもらうか返すべきか。少しもめたところだけれども、僕が預かりヤマダさんに返すこととなった。三九二君は物欲しげにずっと見ていたけれど。


 そして、開けて翌日。


「おはよう、越智君」


「ああ、おはよう彩月さん」


 そんな何気ない挨拶を彼女と交わし、その異常な光景に相変らずクラスのみんなは首を傾げていた。


 ふと、ヤマダさんと会う前に彼女が僕達についてこようとしていた事を思い出したが、それによって僕ら自身の墓穴を掘ってしまいそうな気がしたので深くは追求せずにいた。


 こうして、また日常が始まった。変わったといえば僕と彩月さんの関係、のはずだったのだが……。


 彼女と話が出来る。そんな進展に自然と僕は彼女との距離が急速に縮まる事を期待していたのだが、正直関係性としては以前と変わらなかった。


 話せばちゃんと反応が返ってくる。確かに以前と比べたら凄い進歩ではあるのだけれども、ここに来て一つ問題が。


「ねぇ、彩月さんって趣味ってある?」


「趣味って余暇とか道楽とかに費やす時間のこと? 特にないわ。別に有効に時間を使うとか考えてはいないけれど、だからといってそういう事をしようと考えたことはないわ」


「彩月さんってどういう本を読む?」


「別に本は読まないわ。およそ出版されて流通している本の内容なら覚えているけれど」


「彩月さんって好きなテレビある?」


「情報として記憶することはあっても好きとか嫌いとか考えたことないわ」


「……彩月さんって猫派? 犬派?」


「そのネコとイヌってネコ目ネコ亜目ネコ科ネコ亜科ネコ属ヤマネコ種イエネコ亜種とネコ目イヌ科イヌ属の事を言うのかしら。そして、そのどちらの派閥かっていうこと? ああ、それって愛玩動物としてどっちが好みかって話かしら。どっちでもいいわ」


「……好きな映画」


「映画は知ってい……」


「あ、ああ。うん。ありがとう」


 この通り。話は出来ているけれど、まったくかみ合ってないのだった。というか話すたび会話を潰されているようで、なんだったら以前のように黙りこくっていたほうがいいのではないかと思ってしまうくらい精神的負担が大きかった。主に僕が。


 それだけではない。そして、それに気付いたのはその日の内だった。


 それは何気ない移動教室へ向かっているときのこと。


 何気なくクラスの友達とゲームの話やら漫画の話をしながら廊下を歩いていた。その時、ふと違和感を覚えて振り返ってみれば彩月さんがいたのだった。


 まぁ、いるだけなら一人歩く正悟の姿もあったし、雑談しながら歩いて躓いている三九二君の姿もあったし、別に彼女がいてもおかしくはないのだけれども。


 彩月さんは何故か若干柱の影に隠れるようにしてこちらを見ていたのだった。


 初めは偶然だと思った。だが、どうやら違ったらしい。


 体育の時、給食の時、掃除で外に行くとき。後、トイレに入ろうとした時に。やっぱり隠れるようにして彼女はこっちを見ているのだった。


 違和感は核心に変わった。彼女は僕の事を見ていると。


 人を見ていると真っ先にこれが真っ先に浮かぶ。後輩やら同学年の女の子が好きな男子生徒の事を物陰から見ながら声を掛けようか掛けまいか思い悩んでいるような、そんな甘酸っぱい青春の一ページのような光景だ。


 そんな夢のまた夢のような光景が広がっていたなら僕も良かったんだけど、所詮人の夢でありとってもはかない考えだ。いや、恥ずかしげもない妄想だけど。


 悲しいけれども現実はそうではなく、彼女はそんな乙女な様子も見せることもなく、かといって凄く恨むような気配もない。


 ただ、見ている。文字通り、ただ見ていた。


 そして、気付けば彼女がいる。ふりかえれば彼女がいる。


 柱の影に、扉越しに、何気ない帰り道に。


 距離を置いて、しかしこちらに向けている眼は完全に僕は捉えているが、それは好悪とか人がもつ当たり前の感情なんて持ち合わせていなかった。


 近いのはビデオカメラ。まるで眼がレンズで頭が記憶媒体のように視界に捉えた全てを残しているようなそんな雰囲気。


 初めは気にせずにいようと心がけていたのだが、その内になんだか座りが悪くなってきたので思わず。


「な、何かようかな?」


 なんて聞いたのだが。


「別に。特に何でもないわ」


 と返ってきた。なら遠巻きにいつの間にか見ているのは何故でしょうね。


 結局、これといった理由は分からないまま、おそらく彩月さんも何で僕の事を見ているか話すことはないだろうな、と察した僕はそれ以上は追及せず彼女が見ていることも気にしなくなった。いや、完全には無理だけどね。


 当初は僕と彩月さんの関係の進展にクラスのみんなは驚き、そして淡い恋の始まりの気配と予感に楽しみを見出し、遠巻きに観察(みまも)ってくれていた。


 だが、先のこともありそのような僕らの様子をみて、恋愛しているというより対象を観察している彩月さんとその実験動物状態の僕との関係に、次第にみんなは興味を失っていった。


 こうして彩月さんと出会い、彼女との関係が進展しているようなしていないようなよく分からない状況が7月に入っても相変らず継続していたのだった。

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