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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
18/60

彼女は変わり者(9)

駆け足で階段を下りて廊下にでた、瞬間。


「……っぶねーな気をつけって、お前ら」


「あれ、三九二君部活終わり?」


「そりゃあねぇ、サッカー部期待の新人だからな、遅くまで練習よ」


「それ、自分で言うか普通」


 おうよ、と歯を出して微笑む三九二君はすがすがしい。どっかの誰かとは大違いだった。


 という訳で、その流れで僕らは一緒に昇降口に向かった。


 靴に履き替え駐輪場へ向かう。敷地内に生徒の姿が殆どなく、部活で帰る人もまばらだった。


 閑散とした自転車置き場に向かう。自分達の自転車を持つと僕らは校門を目指した。


 その途中。


「なぁアレってアヤだよな」


 自転車を押していた正悟が止まっている車を指していった。指した車の中にはひとはいたなかった。


「……何処にもいないよ」


「あ、いたいた。つか、何でそんなところにいる訳」


 一方で三九二君もそんな事を言う。馬鹿なと改めてよく見てみると、半透明な姿の彩月さんの姿があった。


 揃って振り返る。そこは普段使われない非常階段。その地面から三段ほど上がった場所に彼女は立っていた。


 というか、本当になんだってそんなところに立っているんだろう。


「……誰か待ってんの?」


「どうだろう。彼女が待っている人ってヤマダタロウさんくらいしか知らないし」


「いや、もう一人いんだろう、もう一人」


 そういって目を細めて正悟は僕を見た。


「だからさ、正悟が言っているようなことはね」


「うわ、マジだ。彩月ちゃん歩き出したぜ」


 再び振り返る。鞄を肩にかけた彼女は確かに歩き始めていた。


「ほら、え、何が違うんだい、あずま君」


「…………」


「え、何その微妙な反応。ちょっとお兄さん何があったか気になるよ!」


「何も、何もないです」


「怪しい。絶対に怪しい。昨日、昨日だな。昨日何かあったから話してたんだな。そして、それを聞いたんだな。俺聞いてないよ、そんなこと」


 ズリーと叫ぶ三九二君。にたにた笑う正悟。なんかもう逃げ出したくなってきた。


「とりあえず先行くよ」


 足早に先に行く。


「あ、待てよ。ちょっと俺にも聞かせて」


 続いて三九二君が追いかけてくる。


「いいのかよ、アヤがいんのに走っていくなんて、もったいない」


 そのもったいないは何を意味しているのか深く問いただしたいが、それよりも二人から離れようとする僕は先に校門を出た。その時。


「やぁやぁ、少年達。奇遇だねぇ」


 いきなり横から声を掛けられた。僕は振り向いた。いたのは人がよさそうな笑みを浮かべた男だった。

 次いで三九二君がぶつかりそうになり、正悟が三九二君にぶつかった。


「……ぬぐぉっ!!」


「あ、わりぃ」


 わざとだよな、今わざとだよな! と三九二君が怒る。許せ、と正悟が笑った。


「相変らず君達は仲がいいねぇ」


 そう笑ういきなり現れた男。そんな事を言われたってまったく見に覚えのない風貌なのである。


 普通の黒い髪。いまやおしゃれ眼鏡と化した分厚い黒縁の眼鏡。地味な紺のスーツに、ワインレッドのネクタイといった格好。


 一見してセールスマンかサラリーマンに見えなくもない姿なのだが、その醸し出される雰囲気から普通の仕事をしている人には見えなかった。


 そして、目の前の人物が誰なのか他の二人も分からないのか、二人ともいぶかしむ様にその人物を見ていた。


「……誰?」


 正悟が言った。


「嫌だなぁ、私だよ私。ヤマダタロウ」


 そういって眼鏡を外して顔を近づけてくる。言われて良く見れば確かにヤマダさんの面影が合った。というか。


「つか、あんた普通の格好も出来るんだな」


 また正悟がいった。それを聞いたヤマダさんは偉く不機嫌そうな表情を見せた。


「本意ではないよ。致し方ない理由でね、まぁ、それはいい話だ。それより少年達チョット私とお話しよう。そして、こんなところで立ち話もなんだっと、すまない」


 突如、山田さんは校門のほうを向いた。いきなりなんだと思っていると。


「スイマセン、チョットイイデスカ」


 片言の日本語で話し返られた。


 声のする方向を向くと、全体的に僕らの2倍はありそうな白人と黒人の二人組みが立っていた。Tシャツとカーゴパンツ。大きなリュックサックにポーチ。黒人のほうはサングラスを、白人のほうは帽子を被っていた。


 見た感じバックパッカーの二人組み。話しかけてきたのは黒人のほうだった。


「アノ、チズヲアルイテツクッタヒトノハクブツカンドコアリマス?」


 黒人は人がよさそうに笑っていた。


 しかし、またマニアックな。日本人ならまだしも外人が知っているようなものなのか。


「ああ、忠敬記念館ね。ここを真っ直ぐ行って突き当たり……いや、ぶつかったらレフト。道に沿って行ったらまたぶつかるからそこをレフト。そしたら小さい川があるからそこをさらにレフト。そしたらライトにあるからそこね」


「オー、アリガトウネ。タスカリマシタ。アナタタチヤサシイネ」


 大きく手を開いた黒人は素行を崩して三九二君を抱きしめて背中をバンバン叩いた。


 苦笑を浮かべた三九二君。小声でいてぇ、とつぶやいていた。


 帽子の白人も帽子のつばを掴んでこくっと頷き、アリガトと片言といった。


「それにしても日本語上手ですね」


「アリガト。ニホンノアニメワタシスキネ。コトバモアニメデオボエタ。チズノヒトモマンガデシッタ。タダタカニンジャナンデショ?」


「ああ、そうなんですか」


 どんな漫画だ。


「デモ、モットニホンゴウマイシリアイイタネ。モットマエニニホンキテイル。ソノヒトニホンゴトテモジョウズニハナス。コノマチニイルケドシラナイ?」


 といわれたものの見に覚えがない。いや、一人日本語堪能な外人らしき人物を知っているが、あれはおそらく例外なのでカウントしない。


「残念ながら知りません。お知り合いですか?」


「シッテルヒト。ヒトメアイタイネ」


「見つかるといいですね」


 アリガト、と僕もハグされる。軽くなんだろうが、バンバン叩く背中が痛い。


 そうして、黒人と白人は手を振り去って行く。僕らも手を振って見送った。


「なんだったんだろうね」


 振りながら僕は言った。


「さぁ、でも悪いヒトでもなさそうな感じじゃなかったか?」


 三九二君がぶんぶんと手を振っている。


「しかし、いまさら忠敬記念館行ってもしまってね?」


 あ、と溢す三九二君。


「ま、まぁ大丈夫じゃないか。それよりも、気付いてたんだらいえよ」


 今思った、と正悟はそ知らぬ顔で言った。


「……言ったか」


 不意に掛かる言葉で思い出す。そういえばいたんだっけ、ヤマダさん。


 振り返ってみると心底嫌そうな表情を浮かべて、外国人がさった方向を睨みつけていた。


「……知り合いですか、今の人達?」


 例外かと思ったけれども、もしかしてあの外人が言う人はこの人だったんじゃないだろうか。


「いいや、赤の他人。というか、私はアメリカ人が嫌いなんだよ」


 吐き捨てるようにヤマダさんは言った。


 ……アレ?


「今の人たちアメリカ人なんですか?」


「ああそうだよ。君達は見てもわかんなかっただろうが彼等はアメリカ人だ。それも、私が凄く嫌いな部類でね。まぁ、それは置いといて。さて行こうか」


「行こうかって?」


 至極当たり前な質問を三九二君はした。


 なにやら話が勝手に進んでいる様子で、困惑する僕らを余所にヤマダさんはどこかに僕らを連れて行くつもりだった。


「いったろう、場所を変えようって。君達は肉は好きかい?」


 などといって僕らの肩を掴んで話さないヤマダさん。逃れるタイミングを失った僕らは互いに顔を見合わせてため息をついた。


 そういえば、と振り返る。


 僕らの後方、ついてくるように歩いていた彩月さんだったが、いつの間にかその姿は消えていた。


「じゃあ、とりあえず行こうか」


 彼女が何処に消えたのか考える間もなく、僕らは引きずられるようにしてヤマダさんに連れられていくのだった。

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