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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女は変わり者(8)

 この直ぐに先生がやってきて一時間目授業が始まった。クラスのみんなは不思議そうに首をかしげながらそれぞれの席に戻っていった。ただ一人、正悟は授業が始まる前に僕を見て意味ありげに口元を吊り上げていた。。


 こうして今日も一日が始まった。


 昨日のことがあり、何か劇的な変化が起こると思われたのだがそういう訳でもなく、僕らは普通に授業を受けており彩月さんもいつも通りの様子だった。


 ただ、授業が終わり休み時間になると相変らずクラスのみんなは僕のところに来て彩月さんとの事を聞いてくる。相変らず、どうして仲良くなれたのか、話すようになったのか。


 好きなもの、アーティスト、趣味、何処に住んでいるか。


 もっとも、あくまで僕は挨拶をして会話をしているだけだから彼女の詳しいことなんて知らない。


 僕が知っていることは朝の時点から変わらず、それ以上の事は離せないというとつまらなそうにみんな去っていく。けれど、次の休み時間にはまた来るのだから変わっている。


 さらに、辟易するのは休み時間を重ねるごとに話を聞きに来るギャラリーが増えることだった。


 2時間目の終わりの休み時間から別のクラスの生徒も教室にやってきて話を聞こうとしたり、入り口から中の様子を覗っていたりするのだ。


 あの鉄壁の山田彩月の牙城が崩された。しかも崩した相手はオタクっぽい冴えない1組の男だ。そんな話が一気に校内に駆け巡った。


 なにやら酷い偏見が混じっているが、ともあれ昼を迎える前には校内中僕の事を知らないものはいないといわんばかりになっていた。


 同学年、先輩構わず興味がある人または彩月さんを意識していた人で教室の出入り口は黒山の人だかりと化していた。


 動物園の動物になった気分だ。物珍しい生き物を見学しに来た人々と、それを折の中から見る動物。


 好奇心向き出しに野次馬となった生徒相手に僕は何度も同じやり取りを繰り返していたのだった。


 結局、授業の時間以外僕は先輩やら同学年の友達の相手をする羽目になった。それは放課後も続き、結局開放されたのは放課後の部活動も終わり、下校時刻も近づく午後5:40だった。




「やっぱりいたか」


 剣道部が終わってわざわざ来たのか、自席に座って背もたれに寄りかかって首を後ろに折っていた僕に正悟が言った。


「……なんか、もう疲れたよ」


「ご苦労。なんつーか見世物だったよ、あずま」


 人事だと思って正悟は気楽だ。


「あのね、傍から見てるのは気楽でいいけどさ、僕はたまったものじゃないんだよ?」


 朝から同じ質問を繰り返すわ、次から次へと入れ違いに人は来るわ、何人かは敵意を持っていたし。


 それに一々答えて、流れるように処理して、ちょっと肝を冷やしたり。


「おう、傍から見てるから気楽だぜ。むしろ前の席だから若干鬱陶しかったけどな」


「昔から知っていたけど正悟は友達思いだよね」


「いまさら気付いたか」


「今日改めて確認した」


 あはは、ふはは、と笑顔の僕らの間に殺伐とした空気が流れる。


「それでよ、結局昨日何があったのよ」


 自席に座って正悟が聞いた。僕は首を折ったまま天井を見上げていった。


「……本当に何もなかった。いつも通りに話しかけてたんだよ。ああ、でも少し長かったかたかな。そうでもないか。その時僕は前を向いて帰りの準備をしていたんだけど、『……ねぇ』って声を掛けられてさ、振り返ってみれば彩月さんがこっちを向いていて、『貴方暇なの?』ってさ」


 途端、大笑いする正悟。首を戻して僕は睨んだ。


「何だアヤ、人を見ていないようで見てんじゃねーか。テメェを相手するなんざ相当の変わり者と暇人でねーと駄目だからな」


「手を叩きながら笑うところ、今の」


「笑うところだろう、今の。『暇なの?』って。ああ、まぁ、ただな、その言い様だといよいよアヤは最初から俺たちのことなんざ相手にする気なかったんだろうよ」


 自分を落ち着かせるように深く息を吐いて正悟は言った。


 さっきからの態度に少しちょっとイラっとしたけれど、言われて気付いた。そういえば初めて来たときに自分は完璧で他の人なんて要らないって言ってたっけ。


「けど、イレギュラーが現れたわけだ。それがあずま、お前だ。気長な実直な馬鹿。まさか、ずっと話しかけてくる奴がいるなんて思わなかったんだろうよ。つか、アイツの相手する奴でそんな気長な奴がいなかったんだ」


「褒めてるの、貶しているの、それ」


 両方だよ、と正悟は笑っていった。


「時々凄いと思うよ。お前って。昔からやる時はやるからさ」


「まさか正悟からそういう言葉が出るとは思わなかった」


「おうよ、滅多にいわねーからな。高いぜ。それはそうと、まさかそれだけじゃねーよな、その続きは」


 ―――高いってそういう。


「……まぁ、その後どうして私なんか相手にするのって。だから僕は君に興味があるって言ったんだ」


「……告ってんじゃねーか、それ」


 正悟はしらけた表情をしている。


 そして、冷静に傍から言われるとちょっと気恥ずかしい。


「す、好きって言ってないから」


「顔赤ーよ。はいはい、それじゃあずま君の中では告ってないのね。それじゃあそれは置いといてその後どうなったの?」


「うん。それでさ何で私に興味があるのって」


「私なんかじゃなくて私と断言しているあたり孤高だなぁ。で、それで」


「僕は彩月さんに興味があるっていったんだ。そしたら、その理由は? ってさ。気になったから気にしたんだって言ったんだけど、それじゃあ良く分からないって。それくらいで人は人に興味を持つものなのって聞かれたから、人が人に興味を持つ理由はそんなものだよ、少なくとも僕はってかえした。そしたら、変わっているって言われた」


「……うーん、なんだ。恋愛とは違う、どちらかと言えば観察みたいな感じの物言いだな、それ。お前に興味があるというより、お前の反応に興味があるというか」


 聞いていた正悟が顎に手を当て首をかしげた。


「で、その後は」


 その後を話そうとしてふと思い出した。


 人のいない教室。佇む二人。見合う瞳、頬に触れる手。


 すっかり忘れていたけど、思い出して耳まで赤くなる。そんな僕の反応を見て正悟は悪い笑みを浮かべた。


「まさか、お前……!」


「ない! 今正悟が思っているようなことはない! その後はまた明日合いましょうって事で分かれた!」


「……そう。そうか。うん、そういうことにしておこう」


 にやっと笑う正悟。誰かに言うことはないだろうけど、このまま勘違いされていても僕の精神状況が芳しくない。だから訂正しようとした時。


「こら、お前らいつまで残っている。もう帰る時間だ、さっさと帰れ!」


 教室の扉が開け放たれ生徒指導の先生が怒鳴り込んだ。


 びくんと身を震わせた僕らは急いで鞄を持って帰りまーす、といって教室を出た。

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