表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
16/60

彼女は変わり者(7)

 朝のホームルームが終わり休み時間。


 いつものようにつまらなそうに外を眺めている彩月さん。一方で僕はというとクラスメイトに取り囲まれていたのだった。


「何をした?」「何があったの?」「経緯を、経緯を教えてくれ」「何をどうしたら挨拶される訳?」「もしかして金積んだ?」「どういうことなの?」「いみわかんねぇ」「つか、何でそんな親しげ?」「意外」


 一斉に、矢継ぎ早に、そして無秩序に質問が飛び交った。


「正攻法とか無理だよ」「そういえば一人挨拶してたよね」「越智の粘り勝ちか」「いや、これはむしろ正攻法が異常なんだと思う」「鋼のメンタル」「アレで心折れないのがおかしい」「彩月にして越智があったんだな」「これ、俺にもワンチャンあったんじゃ……」


 ついでに散々言われている。因みに最後のは三九二君で、「それはない」とみんなに言われている。

「結局、何がきっかけだったと思う?」


 僕を取り囲む一人のクラスメイトが尋ねた。けどねぇ、そんなこと言われても。


「これといって思い当たらないよ。僕は特に何もしていないし、しいて何をしていたかといわれれば、普通に挨拶していただけだし」


 結局、これに尽きるんだと思う。聞いたみんなは半分納得して半分納得していないようすだった。もっとも、これ以上僕から言えることはないのだけれども。


「ねー、ねー、彩月ちゃん。どうして東には挨拶したの? 俺には挨拶してくれない? ていうか、会話しようぜお話しようぜ。彩月ちゃんのこと俺もっと知りたいな」


 ふと、そんな風に彩月さんに話しかける人物の声がした。振り返れば三九二君がしゃがんで、彩月さんの机を掴んで彼女を顔を見上げるように話していた。


 しかし、彼女は机に頬杖をついて窓の外を眺めたままだ。今日の天気は曇り。梅雨も2、3日のうちには上がる予定だった。そういうことじゃないか。


 現在、三九二君がいるのは通路側にしゃがんでいる。だから、彩月さんの顔を覗き込むというより後頭部をみているといった感じだ。また、そっぽを向かれているようにも見える。


 ニコニコと笑いながら彼女の髪を見つめる三九二君。反対側を向いたままの彩月さんは微動だにしない。


 そんな彼と彼女の様子を見つめる僕ら。


 しばらく続く沈黙。耐えかねた三九二君の首が先に折れた。


「……やっぱり無理」


 お手上げ、といわんばかりに両手を挙げて立ち上がるとこちらに戻ってきた。


「本当、東お前はどうしたら彩月ちゃんに挨拶してもらえるんだよ」


 ため息混じりに三九二君は言った。


「お前も毎日挨拶すりゃそうなるぜ?」


 皮肉っぽい笑みを浮かべた正悟が三九二君にいった。


「俺はそこまで気長でも心も強くないんだよ」


 三九二君は正悟を睨み付けた。


「やっぱり東じゃないと駄目なのか」「いや、この場合三九二が悪かったんじゃ?」「人選ミス?」「そもそも誰も選んでないし」「勝手に行って勝手に玉砕しただけだぜ」「お前らひでぇな」「それじゃあ他の奴がやってみるか?」「いや、駄目だったとき辛いから嫌だ」「行くんだったら男子いきなよ」「男、女は関係ないだろう。女子が行ったって別に構わないだろう。同性のほうが話しやすいんだし」「いや、彩月さんは同性とか関係ないでしょ。異性も関係なさそうなんだから」「けど、異性と話せていたんだからやっぱり男子がいきなよ」


 そうして、みんなはどうして僕が彩月さんと話せたか、というよりも次は誰が彩月さんと話せるのか、という話題に変わり話し始めた。もっとも、自分から行こうとする者はなくほかの人が成功したら自分もかかわろうっといった感じだけど。それ以外も遠巻きに観察して様子を覗っている。正悟は話を輪には入っているものの我冠せず、といった感じだ。


「いや、もしかしたらさっきのは偶然なのかもしれない」「偶然東君が挨拶されたって事?」「偶然って事はないだろう。絶対狙ってやったって」「分からないよ。彩月さんの気まぐれって奴かも知れないし」「気まぐれを起こしてって一番イメージに合わない」「なら、一番手っ取り早い方法があるだろう」


 そうして、視線が一斉に僕の方に向く。


「えーと、つまりどういうことかな?」


 空とぼけた。


「決まってんだろう。ちょっと話に言ってみろよ」


 人ごみの中の男子が言った。他のみんなもそれと同じ意見で興味津々で僕の事を見ている。


「やらない、って選択肢はないんだね」


 ため息をして僕は立ち上がった。


 クラスのみんなの視線を一斉に浴びながら彼女の机の横に立った。


 ちらっと振り返ると、固唾を呑むように彼らが見ている。そこでもう一回ため息がでた。


 視線を戻して彩月さんを見る。さて、話しかけろといわれたが何を言おう。


「や、やぁ彩月さん。元気」


 なんだそりゃ、と男子の何人かがやじる。仕方ないじゃないか。いきなり話しかけろといわれていい言葉が浮かぶ気の利いた人間ではないもの。


 と、今まで退屈そうに窓の外を眺めていた彼女が振り返った。


「いつも通りよ、越智君。貴方も大変ね」


 僕らのやり取りを聞いていたのか彩月さんはそんな事をいった。うん、でも半分は彩月さんが関係しているんだけれどね。


 そして、偶然でも何でもなく僕と彩月さんが会話できるということが判明して、クラスのみんなは不可解そうに僕らの事を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ