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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女は変わり者(3-3)

 彼女を見失った僕らはとりあえず合流し、ボーリング場の後ろの路肩に座っていた。


「……いったい何処に消えたんだ?」


「あっという間だったぞ、あっという間」


「やっぱり最初から気付いていたんだよ。だからかくれた、とか」


「隠れたというんだったら何処にいたんだよ。あの辺り、隠れる場所ねーぞ」


「川の中にいたとか?」


 冗談のつもりで言ったのか、浮かんだヤマダさんの様子を思い返し何も言い返せない僕らだった。


「しかし、そう考えるとあやの家がこの近くにあるって事だ」


「貸家か家って感じだけど、どれもこれもそれっぽそうなのはないぜ?」


「そもそも外国の人が普通の日本の民家に住むかなって、そうでもないか。外国で日本人が日本家屋に住むって訳じゃないしね」


 外国人って何よ、と三九二君が聞いた。とりあえず、それは無視してこれからの事を考えようぜ、と正悟がいい僕らが同意して話を始めようとした時。


「やぁやぁ、これはこれは少年達元気かい。そして、そっちの少年は新しい友達?」


 不意にやけに陽気な声が掛かった。


 三人で振り返る。


「……うわっ」


 初めての三九二君はそんな言葉を漏らした。


 現れたのは似非日本人の謎の外国人、ヤマダタロウだった。そして、今日も今日とて酷い格好だった。


 相変らずの白衣にどぎついパッションピンクのシャツ。下は七色の花柄の短パンで、履物は便所サンダルだった。しかもなぜか金色。


 長い髪は相変らずで、しかし邪魔なのか後頭部で難解か折り返してヘアクリップで纏めていた。


 そして、手にはスーパーの袋と初対面時とは違って実に生活観に溢れていた。


「……何、このいかれた人は」


 引き攣った顔で三九二君が言った。


「何か私初対面の少年に酷いことを言われたことがするよ?」


 困ったように眉を顰めるヤマダさんだが、気にした様子はない。


「学校で噂になっているイケメンの保護者。つまり、あやの保護者だよ」


「え、この頭が悪そうな人が?」


 失礼だね、とヤマダさんは溢した。


「まぁ、少年達の友達ならいい子なんだろう。名前はなんていうんだい? そういえば少年達の名前も知らないけれど」


 そういわれてそういえば名前いっていないなぁと思い、でも言う必要はあるのだろうかと同時に思った。


 だが結局、それぞれ自己紹介をした。


「なるほど、越智君と五木君と三九二君だね。覚えておこう少年達」


 結局少年になるなら教える必要があったのだろうか。


「それで、ヤマダさんはこんなところで何をしているんです?」


「ん? スーパー行った帰り。この辺なんだよね、私の今の住まい。あ、これは今日の夕飯だよ」


 きいてもいないのにそんなことをいい、手に持ったスーパーの袋を掲げて見せる。そんなことよりも、僕らはその前の言葉に反応した。


「あ、ヤマさんこの辺に住んでるの?」


 ……ヤマさんって。


「それって僕のことかい? 日本人なのに珍しいね、随分とフレンドリーなんだね、少年は」


「特定の人だけだけどな」


 そうかい、とヤマダさんは口元を吊り上げた。


「まぁ、まんざらでもないね。私の知ってる日本人は寡黙だったからねぇ」


 そういって懐かしそうにくっくっ、と笑った。およそ過去を思い出すような笑い方ではないけれど、まぁ人それぞれということで。それよりも日本人っていう設定なのだから、日本人といっては駄目だろう。


「しかし、確かにこの辺りに僕は住んでいるけれど、あるやんごとなき理由でそれは教えられない。残念だけど親しい君たちにもね」


 全く親しくないのにそんなことをいうヤマダさん。驚いたように、ついでに信じられないものを見るように三九二君が僕らに振り返る。いいたいことは分かるけれど、見ないでほしい。


「やや、少年もだよ。今日から私たちは親友だ」


「……えっ!?」


 がばっと三九二君が振り向く。悪そうな笑みを浮かべた正悟が見返した。


「おっと、そうだ。君達に一つ聞きたいことがあったんだ」


 ふと、思い出しようにヤマダさんは言った。


「あのね、学校でアレのようすはどうだい?」


「アレって?」


 正悟が聞き返す。


「ほら、い……ああ、いやサツキだったか。サツキのことさ、サツキは学校でどうしている?」


 少し驚いた。まさかこの人からそんな言葉が出るとは思わなかった。


 しかし、こんな風体の人でもやはり人の親なのかと思わされる。やっぱり、なんだかんだ彩月さんのことが心配なのだろう。


「なんだい少年達、そんな驚いたような表情を浮かべて」


「ああ、いや。ちょっと予想外の言葉が出て」


 それを聞いてヤマダさんは不思議そうに首をかしげた。


「まぁ、いいや。それでどうなんだい?」


「どうって聞かれてもよ」


「うーん、なんといっていいやら」


「まぁ、一応学校には通っていますけど」


「ほう! 一応学校には通っているのか、ちゃんと。ま、そういうところアレは律儀だからな」


 どこか納得したように頷くヤマダさん。初めは心配しているのかと思いきや、なにやら少し様子が違う。


「それで、アレは学校に通って何をしているの? それと、君達はアレの事をどうしている?」


 いつの間にかふざけたようすはなく、真剣にヤマダさんは話を聞いていた。


 しかし、それを聞かれると正直に困る。はっきり素直に言えばいいのか、オブラートに包んだほうがいいのか。何を期待して話を聞いているのか分からないからなんだか答えずらい。


 果たして、ヤマダさんの真意が分からないのでどう説明すればいいのか。もし、彩月さんの心配をして話を聞いているのだったら、普段どおりの姿を話したら、なんか解剖されかねない気がする。や、白衣の印象だけで言っているけれども。


 それは他の二人も同様に考えているのか、二人ともいいづらそうな表情で互いの顔を見合っていた。


「別に気を使わなくて構わない。むしろ、ありのままの情報がほしい。アレの性格は知り尽くしているからな」


 そんな僕たちの考えを読んだようにヤマダさんは言った。


「まぁ、そういうのなら」


 そういって正悟、僕、三九二君はそれぞれ今までの経緯を話した。話しているとき、ヤマダさんは顎に手を当て真剣に話を聞いていた。


「そうか。まぁ予想通りか。驚きはしないけれども、残念ではある。やはり変わらないのか? いや、しかしアレは興味を失ってたらそもそも通い続けるなんてしないだろうし、何かしらにアレの気を引くものがあの学校にはあるはずなのだが……」


 話し終えると一人俯き気味にぶつぶつと何か言っていた。それは、心配しているというよりも、科学者が実験の検証をしているような雰囲気に感じられた。


「……あの」


「ん、ああ、いやすまない。そういえば少年達いたね。失念していたよ」


 そういうがヤマダさんはどこか上の空だった。


「しかし、続けてすまない。少し気になることがあるから私はこれで行かせてもらう。それでは」


 一方的に話を切ると、彼は足早に僕たちが来た道を歩いていった。


 あっという間の出来事に僕らの処理が追いつかない。と。


「それと、アレと仲良くやってくれてありがとう。引き続いて一緒にいてくれると助かるよ」


 そんな言葉を残して彼は行ってしまった。


 ぽかんと取り残される僕ら。しばらく茫然とヤマダさんを見ていたが。


「あ、いや。それよりおっかけねーと」


 正悟が言う。そういえばそうだったと三九二君が同意し走り出すが、結局僕らはまた見失った。


「……結局また見失った」


 正悟がつぶやく。徒労感とともに佇む僕らは道の端っこに佇んでいた。


「しっかし、すっげーおっさんだな。なんだアレ、どういうセンスしてんだ?」


「知らない。しかし、あんなの序の口だぜ。俺たちが始めてあった時はもっと酷かったぜ」


「アレより酷いってどんだけだよ」


「ああ。川に浮いていたんだよ。はじめてヤマダさんを見たとき」


 うわー、と心底呆れたように三九二君は言った。


「ああ、でもよ。何で彩月ちゃんがあんな性格になったか分かった気がするぜ」


「そうだろ、アレにはそんな説得力があるだろう」


 だよね、と僕もいった。


「しかし、結局家分からず仕舞いだったな」


「分かったことは取り合えずこのへんにあるって事だけはわかったぜ」


「まぁ、それだけでも分かっただけよしとしようか」


 そうだな、と二人は同意した。


 ふう、と自然と三人揃ってため息が出た。


「帰るか」


「そうだね」


「そうするか」


 そういって僕らは学校に戻った。


 再び学校についた頃には鉛色の空は赤く色づいていて、辺りは薄っすらと暗くなっていっていた。校門に立っていた生徒指導の先生に軽く注意され、僕らは自転車置き場に走り、自転車に跨った。


 三九二君とは変える方向が違うので、学校で別れることとなった。そして僕らも、学校から自宅への帰路に着いた。


 結局、正悟の計画は頓挫し、相変らず彩月さんは謎のクラスメイトのままなのだった。

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