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メカな彼女とノーマルな僕  作者: 日陰 四隅
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彼女は変わり者(3-2)




 ―――そうして現在。僕らは彩月さんの後ろに戻いた。





 学校の正門の真正面には市役所がある。学校に対して正面を向いており、6階立くらいでこの田舎では高い部類に入る建造物である。自然、野寺川は隣接して流れていた。真っ直ぐ伸びしているし。


 そんな川沿いの道路を市営住宅の方向に真っ直ぐ歩いていく彩月さん。特に他に目もくれずに真っ直ぐ進む。


 いつも黙って何を考えているのか分からない彼女。僕らはこの先に彼女の家があると期待して追いかけているものの、正直彼女が真っ直ぐ帰っているかどうかすら怪しい。というか、分かりようがない。


なので、彼女がふざけていようものならばこの行動自体が全くの無意味なのだが……。


しかし、発案者とのってきた人は全くそういう憂いを感じてはいないようすだった。


「俺見たことあるぜこういうシチュエーション。探偵が電線に隠れながら追っかけるんだろう。アンパンと牛乳持って、トレンチコートと変な帽子かぶって、でも全身真っ黒でにやって笑っているっていう」


「色々ぐちゃぐちゃに混ざりすぎて原型とどめてねーよ。探偵なのか警察なのか犯人なのかはっきりしろよ」


 電線から顔を出している三九二君が嬉々として言い、一方で正悟が鬱陶しそうにそれに返していた。僕もついでに電線から顔を出している。


 作り話の中で怪しい人物を追う人が電信柱に隠れてやり過ごすような描写がある。大の大人がである。かなり不自然だ。ていうか、怪しい。怪しくなかったら頭がおかしな人だ。


 百歩譲ってそれが大人ではなく小学生の子どもだったとしたら、電信柱に対して肩をむけて立てば、もしかしたら怪しい人物が振り返ってみても気付かないかも知れない。


 けれど、残念ながら僕らは中学生。しかも三人組。電柱に隠れて頭は出る、尻は出る、隠すつめも見当たらない残念な、何処に出しても恥ずかしくない頭の悪い能無し三人組であった。


「ほら、完璧。あやの奴振り向かない」


「ああ、そうだな完璧だ。彩月ちゃん振り向いてない。ていうか、そのあやって何?」


 大真面目なのかふざけているのか、しかし、二人がノリノリだということは分かった。


「そんな訳ないと思うよ。おそらく。気付いてるけど無視しているんじゃないかな」


 この有様だし。


「だったら声ぐらい掛けるだろう。声掛けないんだから気付いていないんだ。そう思うだろう、三九二」


 おうよ、と三九二君は元気に返す。仲がいいんだか悪いんだか。


 しかし、正悟の弁も分からないでもない。確かに、こんな不審者三人が後ろから来ていることに気付けば声を掛けると思う。何せ、往来する人々が僕らのことを避けているし。


 ―――お母さん、あのお兄ちゃん達。駄目、見ちゃいけません。


 なんだか良く聞くようなやり取りが余所でやられている気がする。


 もっとも、これだけ割る目立ちしているんだから関わりたくないということで無視されていることも否めなくもない。


「どっちにしたって拒否されてないんだ。このまま続けても問題ないだろう」


 なんて無茶苦茶な理屈を正悟は言ってのける。そもそもの行為自体が問題なんだけどね。


 本当はこのまま帰ってしまったほうがいいのかもしれないけれど、ちょっと自分の好奇心が上回っているのが悲しいかな。


 結局、悪いとは思っているけれどそのまま後をつけていた。


 学校から野寺川沿いに真っ直ぐ進むとT字路に突き当たる。前には農業用水を確保する建物がある。それを右に、野寺川に掛かった小さな橋を渡り、直ぐの十字路を彩月さんは左に曲がった。


 しばらく市役所の駐車場に止めてある車の陰に隠れてようすを覗っていた僕らは、見つからないだろうなといった位置に彼女が移動したのを確認して後を追いかけた。


 橋を渡ると彼女は10メートルほど先を道路の左側を歩いていた。電柱は道の右側にしかないので川沿いに止めてある車の陰に隠れながら彼女を追いかけた。


 彼女は川沿いを真っ直ぐ歩いていく。対岸だけど彩月さんを始めて見た場所は過ぎていた。


「んー、まずいなぁ。真っ直ぐ進まれると厄介だな」


「真っ直ぐ進まれると何がまずい、何が厄介なんだ?」


「お前、こっち住まいだろう。この先のことぐらいわかるだろう」


「いや、俺こっちに友達いないし、今日はじめてきたし。大体、俺の家小学校の近くだから殆どこっちだから関係ないし」


 聞いた正悟が肩を竦めた。


「一応あっち僕達の帰り道なんだけれどね、このまま真っ直ぐ行くと家が密集しているんだ。そこまで広くはないんだけど、道は狭いし隣接する家は距離ないから。もしそっちに家があったらうっかり見失うとどの家か分からなくなってしまうから」


 言ってから自分がとんでもない発言をしていると気付いたが、これはあくまで彼らに触発された結果だとして責任を棚上げしておく。


 さて、話を戻すとこの先にあるのは住宅の密集地である。そもそも、野寺川と堤防の間は殆ど家しかないけれど。ただ、比較的に整理されてかつ幅が狭い間ために見通しは聞きやすいので多少遠くにいても見ればわかる場所だ。


 けれども、この先はそうでもない。土手沿いの道路に立ち、その隅にあるからどうしても均等には配置されていない。


 道は狭く入り組んでいて、家が邪魔して見通しはきかない。そのくせ短いから迷うことはないけれどうっかり人は見失う。


 されに家に入られれば何処にいるかなんてわからない。いや、軒数は少ないからかたっぱなしからアタックかければぶちあたるかもしれないけれど、それをやったら大問題だ。ひっそりつけいる意味はないだろうし。現状怪しい人に見えるだけの存在だけど、完全に不審者になってしまう。最悪親呼び出しコースだ。


 そんな訳で注意する必要はあるけれど、しかし、それも杞憂に終わるだろう。


 何せあの変人がまともに家を買ってすむとは思えない。お金には困ってなさそうには見えないけれど、自分を家を持って住むタイプの人には見えない。そもそも、川に浮いていた人だ。


 おそらく、貸家か空き家辺りに住んでいるんじゃないかと思う。


 幸いにも正悟が気にしたように僕らの帰り道にある密集区には行かないだろう。


 何せ、そっちには貸アパートがない。いや、貸家はあるけれどそれは全部埋まっているはずだ。


 もっとも、まともな方法でヤマダさんが住宅を確保できるようには思えないし、仮に貸家に住んでいたとしても手続きはどうしたのだろうと考え込んでしまうが今は関係ない話だ。


 そして、案の定彼女は真っ直ぐ進まずに左に曲がる。そこには市営マンションの郡がある。といっても片田舎。あって2~3棟ぐらいだ。


 鉄で出来た車の通れない簡素な橋を彩月さんは渡っていく。


「とりあえず、厄介な方向にはいかなかったな」


「そうだね。向こうに行くんだったら市営かな?」


 そういえば市営住宅ってそんな簡単に入れるっけ?


 しかし、僕の予想とは裏腹に彼女は市営を超えて市外に真っ直ぐ向かっていった。


「市営には住んでいないようだぜ。しかし、何処行くんだ?」


「それを今探しているんだろう。さ、行こうぜ」


 視界から消えたあたりで僕たちは足早に簡素な橋に向かう。


 そうして、橋の真正面に立った時、彩月さんの姿が消えていることに気付いた。


「……んな!?」


 正悟が驚く。間を置かず三九二君が走り出す。さすがサッカー部足が速い。


交差点ごとに左右を見渡し、突き当たったところでUターンして戻ってくる。


「駄目だ、姿形もない」


 息も切らさず戻ってきた三九二君は言った。


「そんな訳ないだろう。こんな短時間で消えるわけねーんだから。お前の目が節穴なんじゃねーか」


 なんだとう、と三九二君は怒るがとりあえず探すようにということで三人が散った。


 貸し家やレンタカー屋。商店や家屋、廃マンションと小さな公園を見渡すが、結局彼女はいなかった。夕方とはいえ片田舎。人もまばらで見間違いをするはずもないのだが……。


 結局、僕は彼女を探すことは出来なかった。

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