行動開始
言い忘れてましたが、投稿は三日に一回くらいのペースで行きます。よろしくお願いします。
朝霞は翌日早速行動に移った。隣町にある高校の校門の前にいた。
「なかなか出てこないわね…」
片手に持っているメモを見ながら、彼女はとある人物を探していた。
榊昴。昨日、クラスの女子に頼まれて「私と彼を別れさせてほしい」という依頼…というのだろう
か、実際、名探偵ではないのだから、『依頼』ではなく、クラスの同級生同士の『お願い』という
ものだろうか。
五分くらい待っていると、女子生徒の彼氏と思われる男が出てきた。
「あなた、ちょっといいかしら」
他校の制服を着ているからか、朝霞が榊昴に声を掛けると、周りが少しざわついた。
「え、えっと君は…」
「ここじゃ少し目立つから、場所を変えましょか」
とまどいを隠せない榊昴をよそに、近くの喫茶店を指定した。
喫茶店に入ると、少し古風な雰囲気だった。マスターらしきおじいさんとウェイトレスの女の二
人だけで客は自分たちだけだった。
店の一番奥の席に座ってコーヒー二人分を注文した。
「コーヒーでよかったかしら、誘ったのは私なんだし、遠慮しないで何でも注文してもいいわよ」
「いや、そんなことより君は誰なんだ?僕に何か用かな」
戸惑いを隠せない榊昴は言った。それに対して、朝霞は答えた。
「ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。露美朝霞よ、呼び方はご自由に…」
朝霞はさらに続けて言った。
「急に呼び止めてごめんなさい。あなたに大事な話があるの。聞いてくれるかしら」
「いたずらって言うわけじゃなさそうだね」
朝霞は鼻で笑った。
「この私が悪戯で男に話しかけるわけないじゃない、といっても初めて会うんだし、こんなことあ
なたに言っても意味はないのだけれど……さて、本題に移らせてもらうわ。いいかしら?」
「僕に関する話なのかい?」
「単刀直入に言うけれど、あなた、今付き合っている彼女がいるでしょう?別れたほうがいいわ」
「なっ、君がなんでそんなことを知っているんだ!第一他人にそんなことを言われる筋合いはない
よ」
激昂する榊は朝霞に怒鳴りつけるように言った。
「あなたのために言ってるのよ。私はあなたに罪を擦り付けてその上で別れたいと相談されたのよ
。彼女浮気しているのよ?証拠もあるのだけれど…」
と言って、朝霞はボイスレコーダーを取り出した。
「私、何かあった時のために、いつもレコーダーを持っているのだけれど、昨日の会話を録音して
いたから聞かせてあげるわ」
ボイスレコーダーのスピーカーから、女子生徒の声が聞こえてきた。その内容は、昨日のそれとま
ったく同じものだった。
「うそ、だよな……」
「本当よ。何なら、実際見てみる?」
「どういうことだ」
彼は苛立ちからか、少ししゃべり方が荒くなっていた。
「彼女を尾行する。ということよ」
「あいつの予定がわからなくちゃ話にならないじゃないか」
待ってました。と言わんばかりの顔で朝霞は言った。
「私、段取りはいい方なのよ?」
朝霞の手には、時間と場所が書かれたメモがあった。
「それは?」
「彼女達のデートの日程よ」
朝霞と榊はお互いにニヤニヤと笑みを浮かべて同時に言った。
「決まりね」
「決まりだな」
外を見ると雨がシトシトと降り始めていた。榊は朝霞に言った。
「雨降ってきたね。少し質問してもいいかな?」
「何かしら、答えられる範囲でお願いね」
「あぁ、君のその白い髪、それにその目…何かしたのか?それとも、コスプレ?」
少し躊躇って朝霞は答えた。
「……答えれないわ。でもひとつだけ、コスプレではない……」
「そうか…いや、悪かったね」
「気にしてないわ、あなただけではないから」
何かまずい事を聞いてしまった。榊はそんな顔をしていた。それからしばらくは、マスターがコッ
プをコツンと鳴らす音や、水の音だけが店内に鳴り響いた。
「自分の話はせずに、他人の話を聴こうだなんて愚かなことだけれど、如何せん退屈なの、あなた
の話を聞かせてくれる?」
申し訳なさそうに朝霞は言った。榊はそれに快く了承した。
「何を聞きたいんだ?特に面白い話はないけど」
「そうね…あなたと彼女の出会いでも聞かせてもらおうかしら…」
榊は顔を曇らせながらも話し始めた。
それは俺が高校一年生の時のことだった。
部活も勉強も何もかも嫌気が差していた。そんな時、魔が差して学校には向かわず反対の方角に
向かって自転車をこぎ始めた。もちろん、学校から家に連絡が来るのだが、それでも、時間は有り
余っていた。そんな時間を潰すためにゲームセンターへ向かった。
そこには、平日の朝とは思えないほど人がいた。その中にあいつがいた。制服を着ているためか
変な輩、暴漢に絡まれていた。
俺と同じなんだろうなと思っているうちに、体が動いていた。
俺は人を殴ることで、日ごろの鬱憤を晴らしていた。自分では自覚はなかったが、笑っていたら
しい。冷静に考えてみれば、サイコパスと言われてもおかしくない。
それでもの見る目は違った。他の人間とは違う目だった。
それから、付き合うまでにそう時間はかからなかった。付き合い始めてから全て、何もかも上手
くいった。勉強も部活も、人間関係さえ。どれも彼女のお陰だった。今思えば、それが始まりであ
り、終わりの始まりだったんだな。
色々なことが上手くいくたびに、周りの期待は膨らんで言った。
勉強、部活に対する時間がだんだんと増え、同時に彼女に対する時間が減っていった。毎日して
いたメールや電話もたまにしかしなくなっていた。
「その結果がこれだよ」
彼は笑顔でごまかしているが、あまりいい顔をしているとは言えなかった。
「あなた、それで悲劇を味わっている気?それなら、私の方が悲惨だわ」
朝霞は、榊を馬鹿にするように言った。
「期待されている、と言うことは、努力が認められている、と言うことよ?私の場合はそれが当た
り前。いくらがんばったって認められない人間がこの世にはいるの、それだけは知っておいて欲し
いわ」
「すまない…それにしても、君は本当に謎だらけだ。だんだんと君に興味が湧いてきたよ」
「あら、こんな私に興味を持つなんて相当な物好きね」
「自分でもそう思うよ」
彼は笑いながら言った。
「失礼な人ね」
朝霞も笑った。
気が付けば、外の雨が止んでいた…
人物の
説明不足に
気が付いた