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ある場所に、水の村という村があった。
美しく透き通り、輝き、美味な水が村の中を複雑に入り組んでいる。
それらは村に多大な利益を与えた。
水を利用した水産資源、酒、作物……。
しかし、利益ばかりを与えられることはなかった。
雨が降れば洪水となって村を巻き込み全てを流し、人を飲み込み悲しみを与えた。
そして、そんなある日のこと。
村に一人の少年が生まれた。
彼はあることを除いては何ら他の人とは変わらない少年。
彼の髪は何も汚れのない雪のように白く、瞳は深く深く海の底のような蒼の色。
はじめは村人皆、彼を精霊の移し身として崇め、奉っていた。
だが、少年が物心着いた頃のある日、村人たちはある事気がついた。
雨が、二週間近くも止まなくなってしまったのであった。
そして、少年の母親が遂に雨が止まぬ理由を知った。
少年が夜寝る前と朝起きるときに雨乞いを毎日行っていたのであった。
少年が雨乞いを行っていた為に雨が止まないのではないかと疑った村人たちは、少年を殺害した。
それだけで、雨は止み、太陽が顔を見せた。
村人たちは皆嬉々とした。
また、平和が訪れたかのように見えたが、違う悲劇が訪れる。
今度は日照りが続き、水の村であるはずが、水が全て干上がってしまった。
これを、村の人々は少年の呪いと考えた。
村人たちは少年を殺したことを後悔し、何度も精霊に懺悔してから1ヶ月。
少年と同じ姿をした少女が生まれた。
今度は以前と同じ過ちを犯さぬよう、少女に教育を与えて。
決して村に反抗しないよう、上下関係を分からせることから始まり、自らの存在は全て村の為に尽くされる事を理解させ、自分の思考を持たせぬように教育を施した。
そのおかげか、少女は村人の言うことならば何でも聞くようになり、どんなことをされても泣き言も言わない、とても立派な子供に育つ。
それからというもの、同じ様な赤ん坊が生まれる度にその少女と同様の教育をするようになった。
全ては、村の為。
∞∞∞∞∞
私はキヨラといいます。
水の村、という、美しい淡水の水路が村中を複雑に入り組んでいる、水と共に生きる村に住んでいます。
私は訳あって、この村の外れの、この村では珍しい草原の小さな小屋に一人で暮らしています。親は、顔も見たことありません。私が幼い頃に捨てたそうです。
私の日課。
朝起きたら、先ずは小屋の中を食い込むようにして通っている川で顔を洗ってすっきりすること。朝ご飯を作ってたべること。そして、森へ木の実を取りに行くこと。それからは、特に何もない。本を読んだり、河辺でのんびりしたり、時々街を遠くから眺めるだけ。そんな、退屈な日々。
あの日も、朝はいつも通り、のはずだった。
∞∞∞∞∞
鳥の囀りが小さくこだまする。これが、私の起床のアラーム。でも、目を開けても部屋は真っ暗なまま。それも当然、窓はガラスのものと木のものが二重になっていて、外から入ることは出来ないし、割られる心配もない。
どうしてこんな生活をしているかは、またおいおい話すつもりだ。
私は若干重たい身体を上げて木の戸を内側に、外側のガラスの窓を外へ開く。そこでようやく、本日最初の日の光を浴びる。
体をぐいっと伸ばして、深呼吸したあと、部屋の中のほかの窓全てを同じように開く。これで部屋に明かりが差し込む。大きな部屋には、テーブル、机、椅子、台所、そして、ベッドから反対の隅に水路が通っている。この水が、私の水資源だ。この水がなければ、私は生きていけない。
「今日はどうしようかなぁ」
私は水路のそばにしゃがみ、水をすくい取って顔を洗う。そして、もう一度すくい取り、その水を飲んだ。
「取り敢えず、外に木の実を取りに行こうかな」
私は立ち上がり、テーブルの上のカゴを手に持ってドアを開いた。一歩踏み出したとき、柔らかい何かを踏んだ感触が足に伝わる。
「へっ?」
恐る恐る下を見ると、汚れたコートを身にまとい、布を顔に巻き、黒髪の少年がうつ伏せに倒れている。私は彼の肩を足で思い切り踏みつけていた。そしてなぜか、辺りにはぐぎゅるるるる………という音が鳴り止まず響いている。
私は腰が抜けて、その場で尻餅をついてしまった。
「ひっ………!きゃあああああっ!!」
でも、これが私の人生を変えることになるなんて、その時は思いもしなかった。
さて、新たに出てきたキヨラという女の子。今回の話は彼女が中心です。
彼女が一体どういう人間なのか、どうクロハと関わっていくか、これから始まっていきます。