4
次の日の朝のことだった。
クロハの泊まる部屋の扉を勢いよく開けた人物がいた。
「おはようクロハ!」
とても晴れやかな顔と声のキリエラだ。
クロハはもうすでに起きていて、キリエラへ挨拶を返す。
「ああ、お早うございます」
「朝っぱらから…、なんつー重たいものを……」
クロハは部屋にある丸いテーブルに肉の塊を大量に乗せて頬張っているのだった。
「朝といったらコレですよね。わざわざ目の前の肉屋で焼いてもらって取り寄せたんですよ。ものすごく美味しいです。あ。あげませんから」
「聞いてねぇし、いらねぇよ……」
それよりも…とキリエラは言葉をつなげる。
「大会の受付が後30分で終わるぞ。急げ」
「ご馳走様です」
クロハはすぐに食べ終わり手の平を合わせて言い、器用に皿を積み上げると、机に残したまま立ち上がった。
「お待たせしました」
「おう。じゃ、行くぞ」
二人は急ぎ足でキリエラの案内のもと、会場へと向かっていった。
∞∞∞∞∞
二人がざわざわと声の鳴り止まない会場に着いたのは受付終了約5分前。
「あ、ほら。あの簡易式テントが受付だ」
キリエラが指で指したのは、一定の間隔に立てられた木の枝にうまく結びつけられただけの、ちょっとした突風ですぐに倒れてしまいそうなテント。本当に、ただ受付をするためだけのものだとすぐに分かる。
二人は受付の前に立ち、木のテーブルの上に載せられた羊皮紙を覗き込んだ。そこには大勢の人の名が書かれてあって、もう2、3枚にもなってしまっている。
受付には栗色の短髪に黄色の目、そして鼻の頭にそばかすが目立つ少年が座っている。どうやら彼が受付の係りのようだった。
少年はクロハの付けている留め具に目をやって、そして慌てて他の羊皮紙を取り出した。
「ちょっと待ってにいちゃん。この村の住人じゃないよね?」
「そうですが…」
「んじゃ、こっちの紙に書いてね」
少年はその紙を右手の人差し指と親指で挟み、ひらひらと泳がせて見せた後、クロハに差し出した。
「名前に、出身の村、それと印を書いてね」
クロハが言われた項目を書いている最中に、少年が小言を口にする。
「最近、近くの村が山賊に襲われてるとかで、全然ルンペンが来やしないから、にいちゃんが来てくれて、正直ホッとしてるよ」
「山賊に……?なんて名前だ?」
職業柄、キリエラはこういった話題に興味があるようで、真剣な目で少年を見た。
「うーん。詳しくは聞いてないけど、そいつら、誰かを探してるみたいだったって、襲われた村の連中が言ってたらしい。その証拠に、人なんかはさほど殺されずに済んだとか。でも、代わりに村の中に山賊達が押し寄せてきて盗めるもん盗んで去っていったらしいよ」
迷惑な話だよね。と少年はため息を付いた。
「そうか……。おそわれた村には悪いが、この村じゃなくて良かった」
「そんな事、どの村の連中も思ってることです。いちいち気にしてたらあなたの身が持ちませんよ」
キリエラの申し訳無さそうな言葉を堂々と一刀両断に切り捨てるクロハに、少年もキリエラも、苦笑いするばかりであった。
「どうぞ、書き終わりました」
クロハは少年に渡すと、少年に軽く会釈して直ぐにテントから離れていった。それを慌ててキリエラは追いながら、少年に手を振る。少年も机から身を乗り出して手を振った。
「情報ありがとう!」
「どうも、姉ちゃん!兄ちゃん、是非優勝してよね!」
クロハはちらりと目だけで少年をみた。
キリエラはクロハが直ぐに正面を向いてしまうと思ったが、彼はキリエラの予想を良い意味で裏切る行動をとった。
クロハは上半身を少年の方へ向け、左手を上げた。それを見た少年は満面の笑みになり、ゆっくり体を戻した。クロハもそれと同時に体を向き直す。
するとキリエラがにやにやしながらクロハのことを肘でつついた。
「なんだよ、そういう行動もとれるんじゃん」
「どういう意味ですか。僕だって、曲がりなりにも人ですよ」
「いや、クロハは他人に関心を示さない奴だと思ってた。現に、あたしのこと、名前で呼んだことないし」
「別に、深い意味はありませんよ。ただ、そういったことが苦手なだけですから」
「苦手、ねぇ……。ま、いいや。さっさとテーブルにつこうぜ」
∞∞∞∞∞
会場は、元は大きなレストランだったらしく、外装は残っていないものの、テーブル、椅子は大量に並べてあり、奥にステージが設置されている。掃除も行き届いているようで、クロハはここについては何も口にすることはなく、キリエラは一人こっそりと息を付いたのだった。
二人はそんな、ざわざわと声の鳴り止まない会場のテーブルにつき、静かに待っているが、周りが大声で叫んだり笑ったりしているために浮きまくっていた。
しばらくして、ステージにまだ少女らしさの残る女性と、男性二人が大きな銅鑼を持ち上げながらあがってきた。女性は男性たちに何か指示を促すと、その内の一名がバチで銅鑼を叩いた。じゃああああああん!!と大きな音が響く。きっとその音は、村中に届いたと思われる程の大きな音で、キリエラが楽しそうな顔を浮かべている横で、クロハはこっそり両耳を指で塞いでいた。
『皆さん、盛り上がってますかーーーっ!!』
女性が大きく叫ぶ。それを合図に会場の人達が拳を掲げてうなりをあげる。ふと、クロハはキリエラに問いかけた。
「あの人の声がよくここまで届きますね。どういう仕掛けになってるんですか」
「ふふーん、驚いたか?あの人の持ってるもの、見えるか?」
「…………石?」
「うん、拡張石だよ。それだけじゃないぞ。えーっと、後ろと…左右にもあるな。反響板だ」
キリエラは後ろと、左右にそれぞれ指をさす。その先の遠いところに、巨大な浅く窪んだ金属の板が、くぼんだ側をこちら側にしてたてられている。それが前後左右に合計6つ。
「あれは音を反響させる装置だよ。音源をあの女の人にして、拡張石で大きくした声を後ろの反響板で反響させる。そこから横、前、っていうように、どんどん音を反響させるていくんだ。村をあげての大会だからな。ド派手にやるぜ」
「面白い装置ですね。驚きました」
クロハの表情は大した変化はないように感じられるが、キリエラはもう慣れてしまったようで、得意そうに笑った。
「でも、ぶっちゃけてしまうと、ここで発明された機器ではないように見受けられますね」
クロハの言葉にキリエラはドキリとする。
「見ていると、ここは工業が盛んではなさそうですからね。でも、ここは商業の村ですから、さしずめ、輸入した、ということなんじゃないですか?」
「す、鋭いな……。でもまあ、輸入したものを輸出したりしてうちの村は儲けさせてもらってんだ。今更隠すつもりもない」
「別に、責めるつもりなんて微塵もないですよ。そんなことより、ほら。大会が始まるみたいです」
二人が正面を向き直ると、女性は小さく拍手をしていた。
『村長、ありがとうございました。では、次に大会の説明です。なんと、今回は前回よりももっとスリリングな戦いにするため、主催者側で大きなルール変更をすることを決定いたしました!まずは、これから行う予選で落ちてしまった方についての変更です。以前は、予選の食料分の代金を支払っていただいていたのですが、今回、新たにその代金の二倍を支払っていただくこととなりました!』
参加者の間で一斉にどよめきが広がる。クロハはちなみに、とキリエラにきく。
「前回までっていくらだったんですか」
「昨日クロハが食べた料理の二倍よりちょっと少ないくらい」
「ああ、それは高いですね」
まるで他人事だな、とキリエラはため息を付く。もしかしたら自分も払わねばならないかもしれないのに、と。
『なお、優勝者の変更は特にありません。前回と同じく、金貨十枚です。では、ようやく予選の説明に入ります。まず、参加者全員の前に大量の握り飯が置かれます。個数は全て同じですのでご安心を。それらを全て平らげた上位十名の方が次のステージへ進むことが出来ます!』
クロハが辺りを見回して呟く。
「この中から十名……」
「すげぇ落とされるだろ?でも、そうでもしないと終わんなくなっちゃうから」
「米もよくそんなに用意できますね。凄い大掛かりです」
「さっき言ったろ?村をあげてなんだよ。これくらいの米なんて、簡単に用意できる」
「あ、運ばれてきました」
会場の外から大勢の男女が山になった握り飯を乗せた皿を両手に持って入ってくる。
「なかなかボリュームはあるみたいですね」
「お前って、腹が減ると口数増えるな」
「気づきました?」
∞∞∞∞∞
同時刻。
村の外にある集団が近づいてきていることに、クロハもキリエラも、門番さえも気付いていない。
その集団はほぼ全員が馬に乗っている。その中で一際目立つ黒い馬にのるフードをかぶったボロボロの布を身にまとった男。フードからは顔は見えない。だが、その隙間から男のいやらしい歯が見える。笑っているようだ、とても楽しそうに。
「この村が最後か。チョロチョロ逃げやがって、器用な奴だ。だが、それも終わり。なんてったって、見張りがこの村に入ったところを見たらしいからな」
「殺してやる…………」
なんだか文が段々雑になってきたような……。
気のせいですよね、きっと。
因みにですが、本文の途中で出てきた音がどうたらっていう説明はかなりテキトーですw
まあ、異世界だしいいかな、と思って書きました。理系の方とかいて、これ違うよとかあればコメントで教えていただけると幸いです。
さて、遂に次回で第一章が終了です。
最後に出てきた変な男の人は一体誰なんでしょうね?
来月末までには投稿するよう頑張りますので、是非待っていてくれると嬉しいです。




