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お久しぶりです。
文の書き方、多分モノクソ下手になっていると思いますが、それでもよかったら、続きを読んでくださると嬉しいです。
「無関係じゃない……?まさかそんな……」
キヨラは信じられないという顔で俯いた。やはり彼女は人を信じすぎる。かつてあんなことをされたというのに…。
「彼女は自分を両親から捨てられたと言っていました。他にもあるかと思いますが、それが原因で闇の精霊に心を染められ、闇の精霊の目的を果たすべく東に来たならば、全て説明がつきます」
キヨラは何も答えられない。畳み掛けるようにクロハが結論を言った。
「おそらく鶴さんが紅の人斬りです。キヨラの時におかしいと思ったんです。わざわざ近道と称してあの細い道を通っていくことが……」
「じゃあ………じゃあこれからどうするんですか……?闇の精霊の封印も解けてしまっていますし、このままではどうすることも出来ませんよ……」
そうですね…とクロハは考えて、続けた。
「とにかく鶴さんのところに行かなくては。このままだと今夜にでも何かが起きますよ」
∞∞∞∞∞
鶴が捕まっていると思しき牢屋へと向かう途中のことだった。
目の前を焦りながらもゆっくりとしか歩けていない紫の着物の青年を見つけ、キヨラはクロハの服を少し引っ張った。
「あれ、二吉さんじゃないですか?」
「そのようですね。向かっている方向を察するに、大方目的は想像付きますが」
「呼んでみましょうか?二吉さーーん!!」
キヨラの声に反応して二吉はあたりをキョロキョロとし始めた。
「……これは、キヨラ殿の声?」
キヨラは駆け足で側へより、肩を叩いて存在を知らせた。
「こちらですよ、二吉さん。二吉さんも、鶴さんの所へ行くところでしたか?」
「ええ………いてもたってもいられなくてなぁ……」
そして、二吉は杖で先を確かめながら、ゆっくり、かつ急いて足を進めていく。
「小生がここで何もせぬというのは、男として、夫としても有るまじき…非道な行為だ。出来ることはないのかもしれぬ、されど何もせぬわけにはいかぬのだ…」
「二吉さん………」
遅れてきたクロハも、二吉のことをじっと見つめて何か思いつめているようだった。
「わ、私が手を引きますよ!危ないところがあったらちゃんと教えます!なので、早く鶴さんのところへ行きましょう」
キヨラは二吉の手を取って気合十分にそう告げた。その様子を見たクロハが、やはりお人好しだと思ったことは言うまでもない。
「それなら、2人で遅れて来てください」
「えっ?」
「キヨラ、さっきも言ったように時間がありません。日没も近いです。急ぎで行ってもし出来るならば説得を、出来ないならば力ずくで止めます」
その言葉に今まで黙っていた二吉が振り向いた。
「クロハ殿……それは、それは鶴が原因だとあなたも言っておられるのですか?」
「………」
クロハは何も答えなかった。二吉は沈黙に怒りが湧いて、思わず杖を構えて殺気を放ち、悔しそうに歯を食いしばった。
「そなたも鶴が原因だと思われるのか!!なぜ、なぜそんなことを……!!」
クロハは右手で二吉の構える杖を握り、そっと告げた。
「彼女がこの事件に関わったことはもはや明白です。彼女を連れていった朝の彼らは間違ってなどいません。あなたは恐らく、騙されていたんです。初めから…」
クロハの手に握られた杖が砂のようにサラサラと散っていく様子をキヨラは何も言えずにただ後ろで見ていた。二吉は手に握る感触が消えてかなり戸惑ったが、すぐに足から崩れ落ちて動けなくなる。
「そんな……そんなこと…………」
「では、先に失礼します」
淡々と言って、クロハは去っていった。
嗚咽が道に響き、キヨラはそっと背中を撫でた。
予想よりは少し小さめの建物を見据え、クロハは一度呼吸する。
ここに、彼女がいる。
「もう関わらないと思っていたんですが……これも神の思し召しか、それとも……」
柄にもなく昔のことを思い出してしまったからか、微笑が零れた。しかし、すぐに無表情に戻る。
「行きましょう」
∞∞∞∞∞
門番が2人姿勢を正して立っている。出で立ちは二吉とは違った、もっと軽快そうな服である。二股の槍のようなものを持っていて、クロハが門を潜ろうとした際にそれをクロハの前に出して遮ってしまう。
「あなたは、この村の者ではない、ルンペンでござるな」
「ええ、そうです」
「この先が罪人の囚われ所と知って、ここに来ておられるか」
その問いに対しても、クロハは深く頷いた。
「ええ、もちろんです。僕は鶴、という女性からお話を伺いにこちらへ赴きました。通っても?」
ちら、とクロハは門番たちに目線を送ったが、彼らはキッパリと首を振る。
「それはいけませぬ。ルンペンでありましょうが罪人と面会は誰とも許されておりませんのだ」
クロハは面倒臭い、とでも言うように肩をすくめたが、すぐに思い出したようにマントの下を漁り始めた。門番たちは何事かとクロハを戸惑いの目で見ていたが、クロハのコートから束になった金銭の形を確認した瞬間、阻んでいた槍をどけ、心良い笑顔でクロハを中に受け入れた。
クロハはその金銭を門番の懐にそっと押し込むと、会釈を返した。
「ありがとうございます。これは、ほんのお礼です。あと、これから盲目の男性と、それを介抱する白髪の女性が来ますが、通して頂けますか?」
「ええ!良いでしょう、そのように計らいましょう」
クロハはそうして門をくぐっていった。
在任を収容する大きな建物の中で、牢が続く一番奥、そこに鶴は閉じこめられていた。手には手錠を、足は足枷を嵌め、壁に寄りかかったままどこを見るでもなくぼうっとしていた。
不意に足音が聞こえた。それに気が付き、視線だけを泳がして探す。その音はだんだんと近づき、そして目の前で止まった。
その姿を確認した瞬間、鶴は驚きで目を見開いて慌てて鉄柵の側にはい寄った。
それはクロハだった。
「く、クロハ様!?なにゆえにここにおられますか!?」
「どうも、鶴さん。今は僕だけですが、時間をかけてキヨラと二吉さんがいらっしゃいますよ」
「二吉様が……そんな、あの方は目が見えてらっしゃいません………。そんな身でお外になどゆかれては事故に遭ってしまいます…!」
「まぁ、キヨラもいますし大丈夫でしょう」
そんなことより、と彼は言葉を続け、鉄柵に音を大きく立てながら掴みかかった。
「あなたの目的はなんですか、闇の精霊」
は……?────小さな静寂が流れた。
次に声を出したのは鶴だったが、その声は確かに震えていた。
「何を──仰って、おります………私が、ナハトですと……?」
「ええ。そうとしか考えられないんです。塔に残っていた傷跡、おそらくあれは鉤爪かなにかでよじ登ったんでしょう。そこで、あなたは弱り弱った封印の札を斬ったんです。完全に封印から開放されたナハトはあなたに取り付き、夜な夜な人を斬るようになっていった、そんなところでは?」
驚いたように目を見張る鶴を見据えながらクロハは言葉を続けていく。
「二吉さんに近づいたのは独り身であり、人が良かった、そんなところでしょうかね。目に呪いをかけ、自由を奪い、仮初の愛で満たして、満足しましたか?何をするつもりかは分かりませんが、あなたはここで止めますよ」
鶴はクロハの言葉を最後まで聞いたあと、乾いた笑いがゆっくりとこみ上げてきた。
「は、はは……あはははっ!!あっははははははははははは!!!!」
笑い声が牢の中に響く。その異様さに、クロハは思わず眉をひそめた。
「なにが、おかしいんです?」
「……ふふ……気付いていないのですか?あぁ、ここは室内ですから、分かりづらいでしょうね」
最初はわからないとクロハも首を捻っていたが、時間をかけずにすぐピンと来て、近くの小窓を探して開け放つ。
既に日は没しかけていた。
∞∞∞∞∞
そのころ、キヨラと仁吉はようやく牢屋の建物の門まで来ていた。その二人の姿から、門番は先ほどクロハが言った人物だとすぐに察し、声をかけた。
「先程通られたルンペン殿から話は聞いております。ぜひ通られよ。しかし……既に日は没しかけておるゆえ、手短にな」
「はい、ありがとうございます!」
そう返事をして、門を潜った時だった。
ドゴンッ!!!という鈍く、重い音が響いた。その音の方向は、牢屋の建物の一番奥の方だった。
「これは何事が……!」
戸惑いの表情を浮かべた二吉に、急に黒い、帯のようなものが巻き付き始める。
「───…は?」
仁吉の体を支えていたキヨラを押し退けてその帯は二吉を大きく持ち上げ、ぐいっと引っ張ったかと思うと、先程の音の場所に吸い込まれていった。
「二吉さんッッ!!!!」
キヨラが声を荒らげるもそれは意味をなさなかった。
そしてキヨラも二吉を追うように走り出し、その場所に着くやいなや、声を失った。
「……あら…キヨラ様。二吉様をお連れしてくださったこと、謹んで御礼申し上げましょう」
瓦解の中心に、鶴はいた。
だが、にっこりと微笑む笑顔に、普段の優しそうな雰囲気は面影すらも消えていた。そして、彼女の足元に蠢く“それ”の雰囲気は、かつてキヨラが恐怖した“それ”とひどく酷似していた。
「……クロハさんは…?クロハさんはどうしたんですか!?」
姿を目視できないクロハを思い出し、キヨラは鶴に問いかける。その名前を出すと、鶴は忌々しそうに顔を歪めた。
「あの男……私を随分必死に抑えておりましたが…さぁどうでございましょう?今頃瓦礫の下で轢死していらっしゃるかもしれませぬなぁ…」
キヨラが絶望の声色で喉を鳴らした瞬間、建物だったものが音を立てる。
「…勝手に、殺さないでいただけませんか……」
ゆっくりと土煙の中から姿を現すクロハの姿に、キヨラは安堵する。
「………えぇ、えぇそうでしょうとも。この建物を壊したのはあなた様ですから…死んでいるわけはありませんね。むしろそれは拍子抜けというもの、まだまだ私の本気はここからでございますよ!」
鶴が腕をバッと大きく広げ、辺りの影が波のように揺れる。
キヨラは先程二吉を捕らえた際を思い出し、攻撃に構えた時だった。
「………鶴ッッ!」
捕えられ、宙に浮かべられた不安定な体制のまま、二吉は愛しい妻の名を呼ぶ。
「何をしようとしているのか、小生には分からぬ…だが、そなたが闇に身を落としているのは、もう、小生は耐えられぬ……」
「二吉様………私は、あなた様に拾われたあの時から、生涯の愛を誓っております…!!ですが、私の闇は決して、あなた様であろうと断ち切ることなど出来ませぬ」
止まっていた影の動きが再び動き始める。鶴の確固たる覚悟が気迫となってひしひしと肌に伝わる。
そして、日は没した。
「私が憎むは、私を捨てた親、孤児と軽蔑した村人共、決して争いごとが収まらぬ村……そして……」
鶴の瞳から涙が一筋零れた。
「───少しも今までの恩を返せぬ私自身でございます……!」
読んでくださりありがとうございます。
かつての月一更新は無理になるかと思いますが、それでも着々と続きを書いていこうと思うので、待ってくださると嬉しいです…




