ーprologueー
ある夜のことだった。
森だけでなく、近くの集落さえも闇に包まれ、月の光も雲に遮られている。そればかりか、人の生活の営みの音さえも聞こえずに静けさばかりが広がっていた。
しばらくした暗い暗い森の中で、誰かのすすり泣きの声が小さくこだまする。
「っく……っく……。お腹、すいた…。お、父っ…!お父ぅ………」
幼く、十にも満たないであろう少年。汚れの目立つ小汚い服を、細い小枝のような手足を通して着ている。その姿をみる限りは、良い生活というものを経験していないような印象を与える。
それから、空を覆い、月明かりを閉ざしていた雲に亀裂が走り、僅かながら光が漏れて、森の葉や木々を少しだけ照らす。
そのとき、少年の砂埃の付着した黒髪が、月光を反射し、綺麗に輝く。
すると、闇ばかりが立ちこめていた森の奥から、蛍のようにも見える、真っ白な光が少年へと近づいていった。
『寂しいか、少年』
30代程と思われる男性の低い声が響く。だが、声の主はいない。その声に反応して、少年はハッと顔を上げた。長く垂れた前髪の間から、希望に満ちたかのような黒い瞳が見える。
『寂しいか』
声は念をおすかのように再び問う。少年に、この状況を耐えることは出来なかった。少年は小さく頷いて見せる。
『そうか。ならば、我がいつまでも共にいよう』
「ほ、ほんとっ…?」
少年の顔に、笑みが戻る。
『少年よ。そなたが力を望むなら、或いは生きたいと望むなら、我はそれに答えよう』
「チ、チカラ……?」
意味が分からないと言うように首を傾げるが、すぐに言葉を続ける。
「で、でも僕っ…!死にたくない…。帰りたい…、やりたいこと、いっぱい…。生きたいよっ…!!」
『少年…、いや、主よ。我はあなたと共に…終焉の日が来るまで。さあ、我を飲むがよい!』
少年は、目の前の白い光にゆっくりと手を伸ばしていき、光も、それごとに輝きを増していく。そのとき、大きく音が響き渡る。
ぐぎゅるるるるー……。
少年はこの腹の音を合図に一気に飲み干した。
そのままふらりと体は右に傾き、ドサリ、と倒れた。
森には再び、静寂さが戻る。そんな森に、先程の声が響いた。
『精霊は人と共に……。これは運命であり必然。さあ、主よ。この世を破壊し尽くそうか』
まだまだこれから続いていきます。
ここを見てしまうと、なにこれって思うかもしれませんが、この先を読んでいただければ分かるのではないか、と思います。
ケータイからですいません。