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遠くで、何かを煮込む音がする。続いて、トントンと軽やかな音も…。長い間聞いてなかったから、とても懐かしい。最後に聞いたのは、何時だったか…?それはきっとーーーーー
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うっすらと目を開けると、ぼやけた視界に白の天井。そればかりか、長い間使われていたことがありありと分かる黒ずみや汚れが転々と目立っている。
「ここは…………?」
小さく絞り出した自分の声に、クロハははっとさせられる。ばっと身を起こすと、そこは見慣れぬ誰かの部屋。
視線のやや左側にある台所で、白髪の少女が料理をしている。この状況にまるで覚えがないためにクロハはまずは自分の置かれた状況を確認した。
自分はベットに寝かされていて、コートも、口元を隠していたはずの布もない。自分の物を見つけて安心したいという心理が働いたのか、部屋の隅々を見て、コートと布がテーブルの上に畳んで置かれていたことに気がつく。そして、ベットの脇に綺麗にブーツも並べられていた。
「お目覚めですか……?」
声の主は白髪の少女。その少女の瞳は美しい深き海をたたえたような蒼。その少女がクロハを見ながら微笑んだ。
「あの……どなたですか?」
「えっいや、あの、すみません……」
「いや、別に怒ってないですけど」
「あ、す、すみません……」
「もう、いいです…。それで、あなたは…?」
「わ、私はキヨラと言いまして、この部屋の住人です。け、今朝のことなんですけど、あなたが倒れてらっしゃるところを、その、見てしまいまして……!」
「たお、れて………?」
記憶がない。
「それで、その、そのままにすることも出来ないので、とりあえず私の寝台に、お運びしました…!」
キヨラと言った少女はそれきりうつむいてしまう。クロハは困ったように頭を掻いて、ベットから降りてブーツをはいた。それから机の上にあったコートを手にとって、キヨラへ向けて言う。
「なんか、お世話になっちゃったみたいですね。もうこれで出て行くので、後はもう気に」
ぐぎゅるるるるーー………。
この音が鳴ってしまい、思わずクロハは口ごもる。その表情は相変わらずの無表情ではあるものの、しっかりと目線は左下にそれている。
「あ、の………。わ、私これから、お昼を食べるんですけど、い、一諸に、どうです、か……」
キヨラの顔は真っ赤だ。人と話すことに慣れていないことが分かるが、それでもなおクロハを食事に誘った勇気にクロハ少し感銘を受けたのか、はたまた単に腹が減っていたのか、それは彼自身にしか分からないが、クロハはコートを机の上に置いて言う。
「それなら、お言葉に甘えて」
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机の上には器によそられた白いとろとろとした液体の中に彩り鮮やかな野菜が沢山入っているものや、ちょうど良い大きさに切られた鶏肉をこんがりと焼き、トマトソースをかけたられた状態で皿に盛られているものなど、その他料理を含めて、量は少なく見えるもののどれもとても美味しそうだった。
「私、ほかの方に料理をお作りするなんて、初めてです……。それなので、お口に合うかどうか、分からないですけど…」
「見た目はとても美味しそうですよ」
クロハはパチパチと瞬きしながら言う。そして、いただきますと言ってから料理を口に運んだ。
「い、如何ですか………?」
「………あなた、キヨラさん、って言いましたよね?」
「え、ええ、そうですけど……」
「しばらく、ここに泊めさせていただいてもいいですか?」
これが、クロハの言う、“美味い”である。つまりは、“あなたの料理が美味しくて、しばらく食べたいので泊めてもらえないか”ということである。
「か、構いませんけど……。でも、ここなんかに泊まるよりも、村の中心に行った方がずっと良いですよ。それに……」
そう言い掛けて、キヨラは目を伏せる。クロハはそんなキヨラを見つめてから、ご馳走さまでした、と手を合わせた。キヨラは下げていた視線をクロハに戻し、視線を軽く泳がせながら聞く。
「あの、厚手がましいかも、しれないですけど……、あなたのお名前を、伺ってもよろしいですか…?」
「僕の名前は、クロハと言います。破壊の村からやってきたルンペンです」
「ルンペン………とは、何でしょう?それに、ハカイノムラ?」
キヨラは首を傾げた。それを聞いたクロハは珍しく固まる。そしてすぐに、口を開いた。
「えっと……………。ご存知、ない?」
クロハが固まるのも当然。これは普通の人なら必ず知っていることである。
ルンペンとは、浮浪者という意味であるから、数にばらつきはあるものの、当然ありとあらゆる村を訪れている。その時は、大抵村人全員に知らされる情報であるし、村からでればルンペンになる、ということは親や兄弟はもちろん、学校(あれば、の話だが)などで教えるものであるのだ。そればかりか、村の名前まで知らないと来ている。それらを知らない、とは真っ当な教育を受けていないことを示唆すしているのだ。
「………一応、これは常識として知っておくべきことなので、教えておきましょうか」
そうして、クロハはキヨラへルンペンについてを語り始める。そして、その話は最終的に話がそれていき、クロハが今まで行ったことのある村の話へと変わっていった。そんな話を、蒼い目をきらきらと輝かせながらキヨラは耳を傾けていた。
「僕が山賊にそんな理由で追われ、最終的に着いたのが『商業の村』で、そこでキリエラという少女に出会ったんですが…って、もう夕暮れですね…。長くなって申し訳無いです」
「いえ、いいんです。それより、もっと話をしていただけないでしょうか…!私、この家と村の中心部にしか行ったことなくて、そういう話、聞いたことなかったんです…」
キヨラは寂しそうに俯いてぎゅっと拳を握った。それをみたクロハは、また再び話を再開したのだった。
随分投稿が遅れてしまいました、すみません。
さて、今回もみれば分かるとおり、量はめっちゃ少ないです。なんだかんだいってぜんぜん進めていなかったので(^-^;)
でも、話が軌道に乗れば、かなり早くストーリーを展開していくことが出来ると思うので、それまで待っていただけると嬉しいです。
大体、この章も前回と同じで6、7くらいのつもりなので、皆さんもそのくらいだと思って気構えておいて下さいね(笑)




