戦争への準備 前編
「ハァッ…ハァッ…」
「精が出ますなー。勝士君。」
「なに役だよ、ジン。あん時から力を使わねえとイライラするもんでな。」
「“覚醒”…The シリーズに課せられた運命、か。
大変だな、勝士も。疲れるか?」
「そんなこともねえよ。息は切れるけど清々しくなるんだよ。段々とコントロールも上手くなってきた…はずだ。」
あの日…2週間前の会議後、心臓が跳ねた。
すると破壊の力に制御が効かなくなった。
それはなんとかセルのメンバーが止めてくれた。
壮絶だったらしい。死者は出なかったものの、重軽傷者が多数。
一人一人に謝りにいったらなんとか許してくれた。
「んじゃ、いっちょ依頼でもやりますか。
今人質乗せた車が逃走してるらしいからさ、行こうぜ。」
「いやもうちょっと急げよ!どこだ!?」
「わかんねー。翔んでみねーとな。もう翔べるだろ?」
「まあ跳べるようにはなったけどよ、まだあんまり慣れてねえんだよ。」
「そんなもんは実践してなれるもんだろ。わがまま言わないの。」
「だからなに役だよ。こんなことしてる場合じゃねえだろ。」
「おう。行こ。」
EEB の訓練所から出て、そのままEEBからでると目の前をパトカー数台が猛スピードで通った。
「パトカーが向かった先にいそうだな。
行くぞ。」
両手を地面に向ける。
そして破壊の力を放出。原理は解らないがとりあえずこれで跳べる。
気を付けなければならないのが放出される方向の5メートル以内に何か物があればそれを破壊してしまうのだ。
「よーし、おっけ。ジン、先行ってくれ。」
「りょうかーい。早めにいくぜぃ。」
そう言うと目の前からジンが消えた。
ジンがもといた場所がひび割れている。
跳んだんだな。
ジンの“翔ぶ”は推進力とかの話じゃなく、空気を蹴って移動する。アホみたいな話だが、ジンにはできてしまう。これが武のThe シリーズと言われてる由来かな。つか、なんか漫画であったな、あんなの。
「ほっはっほっ。」
「それ疲れねえの?
足動かすの速すぎて見えねえけど。」
「まあまあかねー。最高記録は600kmこれで行ったんだ。そんときはさすがに吐いたけどなー。」
吐いたんかいと心のなかで突っ込む。
普通に会話しているが、実際めちゃくちゃ聞き取りづらい。何てったってめっちゃ速く跳んでるから。
「おっ?暴走車はっけーん!直ちに急行せよ!」
とか言ってるうちにもう車の上に。
「君、停まりなさい。内蔵引きずり出されたくなかったらね。」
フロントガラスを割って脅すと、意外にもあっさり停まってくれた。
「はーい。とりあえず出てこいよ。」
「まさかこんな簡単に引っ掛かってくれるとはな。
平穏が訪れるとでも思ったか。」
炎。いや、これは…焔…?
「これ…見覚えないか?」
車から出てくる。初めて見る顔…だが、この焔。
犯人が俺に左手を向けてきた。
「【豪炎】」
聞き慣れた単語が、もう聞かないと思っていた単語が聞こえると、視界いっぱいが焔でうもれた。
「破壊しろ。」
だが焔は俺に熱を伝えることも出来ず、破壊された。
「お前らは絶対に許さねぇっ!!」
気付いたら俺は言葉を発し、犯人の顔を殴っていた。解ったんだ。奴はなんなのか。何の焔だったのか。
誰の超能力だったのか。
「このクズ共がぁぁ!」
殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
破壊する。
「ハァッ…ハァッ…クソがっ…。」
殴った跡を見ると、奴は居なかった。
前の奴の比じゃねえ。強いぞ。
「暴れすぎだ。お前はもう死ぬ運命だ。」
後ろからの声。すぐに裏拳を食らわせようとするが、間に合わない。
「まーいかい、俺を忘れてねえ?」
もう、人を殴ったような音じゃない。
硬い建物に鉄球をぶち当てたような、鈍すぎる音。
「やべ、遠くまで殴り飛ばしすぎたな。
あれ、炎羅の焔だな…。ムカつくな。」
──────違う。
いつものジンじゃない。怒ってる…のか。
許せることじゃねえよ。クソが。
「あいつこんな程度じゃ死なねえな。
降りてこいや。もう一回ぶん殴ってやるからよ。」
「やれやれ。相当嫌われてるようだな。
The breaker は殺せざるを得ないが頭魔 ジン。
お前は仲間にいれたかっ」
「二度と俺の名字を口にするんじゃねえ。
殺すぞ。」
「……ほう。その様じゃ入る気はさらさら無さそうだな。なら、ここで死んでもらおう…と言おうと思ったが、時間だ。また会おう。」
「逃がすかよ。お前だけは。」
破壊の力を具現化。20cm位の球体にし、100個ぐらい造る。それをヤツに撃ちまくる。
「急いでいるのでな。
卑怯な手を使わせて貰う。」
打ち続けていると、奴の前に一般人らしい人が集まってきた。
「なにしてんだ!どけ!」
「ちっ、違うんだ!動かされてる!」
まさか…
「サイコキネシスの2つ持ち!?クソ!」
これじゃ攻撃できねえっ……!
「退こう、勝士。追いかけてもたぶん、逃げられる。」
「…そうだな。とりあえずサイコキネシスで操られた人達が大丈夫か確認して、報告に行こう。」
「だね。」
……………………………………
……………………………………
「で、だ。超能力の複数持ちが現れる可能性があるってことだよ。」
「そんなことあるわけないだろ。バカだな、勝士は。」
「おいコウ!お前見たのかよ奴らを!見てねえからそんなこと言えるんだよバーカ!!」
ゼダンに戻りセルメンバーに報告した。
あの幹部みたいなやつの感じを見ると超能力が2つとは思えない。まぁ勘だけど。
「奴はなんか前のやつとは違うんだよ。
しかも超能力の合成に成功してるんだったら何個も持てるかもしれねえだろ。」
「確かに勝士の言う通りだと思うな。
私もstatechange とサイコキネシスの2つ持ちだが、2つ持っている者がいるならそれ以上を持つものもいるはずだと考えていた。
2つ持ちが産まれる理由も解っているからな。」
「ほーら。科学者がこう言ってるんだぜ?
黙って認めろよ、タコ。」
「ぐぬぬぬぬな……」
「…アイツ…いや、あいつら俺達のこと全部調べあげてるぜ。
…俺の名字も知ってたからな。」
「ジンの名字を!?そいつ名前はわからないのか!?」
ビックリした。ボスがこんなに動揺するなんて久しぶりだな。
「名前は分からなかったよ。
多分、親父と面識があると思う。」
「…それ、確証はあるのか。」
「それは無いけどさ、何となくって感じだ。」
「もしそうなら……早くに準備しとかねえとな。
もうそろそろ手を打ってくるはずだ。」
多分、3人の過去になんかあったんだろうな。
ジンの親父。そして名字。複雑な関係があるんだな。深くは追求しないでおこう。
「そうだな…。今やるべきことは仲間集めだ。
これは各自動いてくれ。狙うは賞金首だ。
戦闘になる可能性もあるからな。
気を引き締めて行くぞ。」
「「「「「「「了解。」」」」」」」
じゃあまずは賞金首のリストを見て、探さねえとな。
…時間かかるなぁ。
「よし。コウ、頼んだ。」
「いやなんでだよ!ちゃんと自分でやれ!」
「いやいや。俺ってさ、戦闘員じゃん。
つまりそういうことだ。」
「理由もクソもねえな。ま、お前は休んでろ。
やってやるから。」
「なんだよ、気持ち悪い。ま、ありがとさん。」
「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは。
能力のトレーニングでもやっとけ。」
「ほーい。よろしく頼むわ。調べ終わったら呼びに来てくれ。」
さてと…言われた通りトレーニングでもするか。
セルメンバー全員を驚かしてやる。
あれを完成させてな。
……………………………
……………………………
「おーい勝士。リスト持ってきたぞ……大丈夫か勝士!!」
「うわ。来んのはええよ。見られちまった。」
「これ…お前がやったのか…?底…見えねえぞ。」
シンプルにでっかい破力を具現化して落とす。
でっかい破力を具現化するってのがめちゃくちゃ難しい。作って落としちまえば、あとは勝手に破壊してくれる。一応これで完成か。
「言うなよ、セルメンバーには。」
「驚かせたいんだな。分かった。ほら、これリスト。
賞金が高ければ高いほど強い。
当たり前だけどな。」
「3人行くわ。上位3人の居場所とか目撃情報とかは自分で探す。ありがとな。」
「おう。頼むぜ。」
さーて、調べますか。
3位から調べよう。
えーと…名前は尾凪 隼里か。
年齢は20。賞金首になった理由は…
殺人か。あんまし犯罪者入れたくねえんだけど。
やるだけやるか。
殺害した場所は自宅。東京…じゃないか。
お、隣だな。シグマの東東地区か。
そこから…最新の目撃情報は3ヶ月前に…デルタの南地区に居た、と。
日本の地方の4つのうち2つか。
だっる。
この世界の日本は大きく分けて4つに分けれる。
俺達がすむ東京。そしてデルタ、シグマ、アルド
だ。そのなかで更に8つに分けられる。
東西南北に東東西西南南北北だ。
上からデルタアルド東京シグマだ。
今回はまずデルタに向かおう。
「電車使うか…跳んでいくか…。
電車高いし欲しいもんがあるからやっぱ跳んでいくか。」
そう決めて、俺はデルタへと向かった。
…………………………………
…………………………………
2時間程跳んでいたら、シグマへようこそ。
って書いてある看板を見つけたからひとまず降りてみた。
辺りは結構綺麗で、横に大きい建物が多い。
人も多いな。
「ふぃー、疲れた。
1000km位行ったんじゃねえか?ここは、えーと…
ちょいちょい、そこのひと。そうそうあんた。
ここってなに地区?」
「えーと…東東地区です。あなたは…?」
「名乗るほどの物じゃねえよ。ありがとな。」
うわ。今の俺イケメン過ぎる。
「さーて。南地区だよな。
もう跳ぶのは疲れたし、車で行くか。」
タクシー…なんてあるのか?この世界はとにかく物価がアホみたいに高い。
電車なんて1つ駅を通過するたびに3000円も加算される。こんなに物価が高いのなら、給料も高いんじゃ?と思うが、実際はもとの世界の給料より少し高いぐらいなんじゃないかな。
「よし。これは脅そう。そうしよう。」
ちょうどハンドガンも持ってきてるしな。
でも通報されたらヤバイかも。国の連中に感付かれる可能性もあるしな。慎重に行こう。
乗用車…お、あったな。素早く後部座席に入ってこめかみに銃を当てる。これでいいだろ。
「やりますか。」
すーっと乗用車の近くまで行ってドアを開けた。
気付いたな。そのまま座りドアを閉め、
「動くな。」
一言。
「ひっ…」
「あんたに危害は加えない。だがしてほしいことがある。南地区に向かってくれ。
声をあげようとしたら、こめかみを撃ち抜かして貰う。」
「なんで…私なんですか…?」
「運が悪かったからだ。ドンマイ。
早速向かってくれ。」
「…分かりました。」
よし。動き出したぞ。女性だったか。結構冷静だな。
ははは。肩震えてんじゃん。そんな怖いか。
「そんな固くならなくてもいいよ。
普通にいってくれたらいいから。うんうん。
柔らかくしないと逆に事故るからな。」
「分かりました…。あの、聞いてもいいですか…?」
「いいよー。」
「10代…ですよね。なんでこんなことを?」
「ああ。普通に南地区に行きたかったから、なんか乗り物ほしいなーと思って。
でもタクシー高いじゃん。だから、狙いました。はい。」
「お金が欲しいからとかじゃなくて…?
学校とかは行ってないんですか?」
「行ってる奴はこんなことしないでしょ。
良いね。肩の力抜けてきたじゃん。ここら辺の人?」
「東京から来たんですがかれこれ4年ぐらい住んでますね。あなたはどこから?」
「勝士でいい。俺も東京からだよ。
てかさ、どうみても俺の方が年下だからさ、タメ口で良いよ…って使うわけないか。犯罪者だし。
あ、尾凪 隼里って知ってる?」
もしかしたら一般人と交流があるかもしれないしな。情報収集だ。
「はい…。指名手配の人ですよね。」
「どこにいるか知らないかね?」
「ちょっと分かんないですね。何故ですか?」
「仲間にほしくてね。」
「テロでも起こすんですか…?」
「ま、そんな感じかな。狙いは政府だけだけど。」
「そうなんですか…。」
やば。話しすぎたか。この人言わないよね?国に。
言われたら色々と大変なんだけども。
にしても…落ち着きすぎじゃないか?
警官かな。その可能性大すぎるな。
「お姉さんさ、警官かなんか?」
「っ…何故ですか?」
「そっかー、警官か。一般人にしては落ち着きすぎてるからね。今日はオフ?」
「……はい。ドライブに行こうとしてまして。」
一人でか。なんか寂しい人だな。にしても警官か。ヤバイな。…殺るか。いや、でも動きはないし、してくる気配もないし。様子見かな。
「いや今ごろなんだけどさ。俺はなんもしないから。大丈夫。信用出来ないと思うけど。
そういやお姉さん名前は?」
「私ですか?私は太原 彩花です。
あの、もうすぐ南地区です。
こんなこと言うの…なんですけど、人殺しは止めてください。お願いします。」
「わかってるよ。逆に助ける側だしね。
ここら辺でいいよ。ありがとう。これ、少ないけど置いとくね。
じゃ、またいつか。次は普通に会えることを。」
そう言って猛スピードで走る車のドアを開け、そのまま降りる。
もちろんそのまま地面に落ちたら痛いし少し跳ぶ。
はは。めっちゃ叫んだな。
5万ぐらい置いといたし、感謝の気持ちは伝わったかな。
「じゃ、尾凪を探しますか。」
超高速道路から出て、空からなんとなくいそうな場所を決めて行くことにした。
ここら辺は治安が悪いって聞いたしちょっと気を引き締めていくか。
「よぉ、兄ちゃん。なにもんだよ。スーツなんか着て。見たところ10代っぽいな。調子乗ってなブハッ!」
「ごめん。チャラさと顔のキモさが合わなさすぎて殴っちゃった。」
4人のクソキモい柄悪そうな奴等が寄って来たら殴るっていう特性が出ちゃった。
「てめぇなにしてんだごらぁ!ぶっころガベラッ!」
「めんどくさ。もういいだろ。あんまり触りたくねえから。あ、尾凪 隼里って知ってる?
知ってんなら言え。」
殴られてない二人はびびっててを出してこなかった。もしかしたらここら辺でボスになってるかもしれねえしな。尾凪が。
「なんでお前なんかに言わなきゃなんなねぇんだよっ…!」
「あ?いいから言えよ。それともわかんねえのか?
これはお願いじゃなく命令だ。
解ったら早く言え。こっちは急がしいんだよ。」
「いってぇ…。尾凪さんは南地区の五月雨の総長だ。ここから300メートルそこの道を行ったら店がある。お好み焼きやだ。いってボコられてこいや。
クソがき。」
ちかっ。あそこで降りといてよかった。
しかも五月雨て。お好み焼き屋て。普通に名前だして店やってんのかよ。突っ込みどころ多すぎだろ。
「お前なんか一瞬だよバーか。
後で見に行ってやるよ。お前の泣きっ面。」
ドゴ!
地面を殴った。おもいっきり。
すると地面は陥没し、周辺がひび割れた。
やっぱり、強くなってる。身体能力も。
「後でお前らとも話がある。」
仲間は一人でも多い方が良い。全面戦争だ。
とりあえずお好み焼き屋に向かった。
普通に歩いていると、やはり、チンピラが目につく。つか、めっちゃこっち見てる。
「どうするよ?あいつ、なんか雰囲気があるぜ。
いくか?」
「お前さっきの見てなかったのかよ。
ありゃあ化け物だ。俺達が敵う相手じゃねえ。
才能ってやつだよ。」
「クソッ。この世界は才能が全てなのによ。
何なんだよ。クソが。」
……たまに、思うときがある。もし、俺にこのThe シリーズの力がなかったら。この身体能力が無かったら、俺は今まで生きてこれたのか?とか。
本当にこの世界は超能力が支配してる。
弱い奴は強いやつの言うことを聞くしかない。
もとの世界じゃ鍛えたら鍛えるだけ体は強くなる。
だがこの世界はどうだ。能力値に限界がある。
練習しても練習しても、結果は変わらない。
恵まれた者勝ち。嫌な世界だ。
「俺に用があるみたいだな。」
「あ?……あぁ、尾凪 隼里か。ちょいと話を聞いてくれ。」
どうやら考え事に夢中で気づかなかったがもうついていたらしい。
見た目はまんまチンピラだな。
髪は茶髪でイアリングにゴツい指輪。
顔も強面だし。ちょっと怖いな。
「中に入れよ。」
「ああ。」
少し警戒しながら中に入る。
暖簾をどけ、店内を見ると、銃を持ったチンピラが数人。こっちを見てる。
“妙なこと”したら撃つぞってか。おもしれぇ。
「で、話ってなんだよ、兄ちゃん。」
「手を貸してくれ。」
「ははっ。何を言うかと思えば…。
兄ちゃんはどこの人間だ?ここら辺の人間じゃねえのはわかる。強いのも解る。
目的は?」
「戦争だ。政府とのな。ま、ちょっとしたデモを、革命を起こすって感じか。」
「そりゃあいい。馬鹿げた話だ。
じゃあ革命を起こすのになぜ俺が必要だ。」
「分かるだろ。人員確保だ。敵は強い。
俺達が負ければ、高ランクの超能力者は狙われる。
実験のモルモットもしくは、汚ねえ肉塊になるだけだ。」
「その話を信じるとでも?」
「信じなきゃ、死ぬだけだ。」
さぁ、どう出る…?
「…俺は俺より弱い奴の下に着く気はねえ。
戦え。それからだ。」
「はぁ、言うと思った。やるか。
尾凪のランクは?」
「…見て決めろよ。
“光射”」
尾凪がそう言うと、俺が座っている真後ろからレーザーみたいなのが俺の頬を掠めた。
「表出ろ。」
流石は3位か。たぶん、レーザーの速度は光速。
人の、Theシリーズの強化された動体視力でも、追いきれるものじゃない。
満場一致のオーバーだな。
「ちょっと先に更地がある。いい場所だ。そこにいこうや。」
素直に従う。奴は誘導してる。それはわかってる。
反則的な、強い力。発動条件があるに決まってる。
「ここなら良さそうだ。破壊しつくせる。」
「…はっ!誰かと思えば…破壊だと?
まさかこんなガキがThe breakerだとはな。」
「あれ、バレたか。まあいいか。
いくぞ。」
言い終える前に、既に俺の膝は尾凪の顔の目前だった。
「ッ!!…早ぇ…」
避けたか。これはビックリだな。顔もぎ取る勢いでいったんだが。反射神経は相当のもんだな。
次は対応力だ。カポエラと能力使って攻めるか。
「ほっはっ…はっ!」
「くっ…“的射”!」
上から光線が来る。まだ予測の範囲内だが。
頭上に破壊の膜を造る。
「俺のレーザー、やっぱ効かねえか。
肉弾戦でいく。はっ!」
急接近してきた。カポエラ出来る距離じゃない。
ケンカスタイルでいくか。向こうもそうだろうし。
「オォラァ!」
とんでもなく隙だらけな大振りのパンチだな。
いや…さっきの戦い方からは考えられないな。ならこれは囮か。だが光線は来ていな
「あれ?」
「砕けろ。」
いつの間にか、俺は地面に転がっていて、俺の顔にパンチが飛んできている。
「うっおぉ!」
ギリッギリ、避けたか。いやかすってる。
足払いされたか。格闘も強いな。
「“破槍”」
距離を取りつつ槍型の破力を形成、そのまま射つ。
何故槍型かというと、原理はわからないが槍型が一番スピードが出たからだ。空気抵抗が少ないのかな。
「“乱光”」
読み方卑猥だな。尾凪の掌から大量の光線。
避けつつ当たるやつは破壊していく。
妙だ。さっきまでは上からとか後ろからとか、予測ができない方向から来たが、今回は自身から出た。
強すぎだろ。もう体中からビーム撃てるじゃん。
「はぁ、疲れてきた。
おい、The シリーズ。お前見たところ疲れてなさそうだけどよ、その力、無制限か?」
「んなわけあるかよ。さっき槍を撃ったろ?あれだけで1500メートル走った位しんどい。
だからさ、こうゆう手段を使うんだよ。」
だらだら喋ってる間に尾凪の頭上にどデカイ破球。
隙だらけだ。
「ほら、死ぬなよ。」
それを一気に叩き落とす。
死ぬなよ。の一言で警戒心を高めたのか、全力で、前に飛び込んだ。
それにあわせて尾凪の顔を蹴っ飛ばす。
倒れた場所に、さっき作った破球を、いつでも落とせるようにしておく。
「いってぇ…なっ…。これさっき落としたんじゃ…。
まさか、操れるのかよ…!」
「ごめいとーう。んじゃ、分かったかよ。」
「…あめぇ!」
「バーカ。」
「ぐあっ!?」
能力を発動しようとした尾凪の手首を踏みつける。
こいつの超能力の発動条件は色んな方向から撃つ場合、手の動きが必要だと分かっていた。
しかも、右手でしかできない。戦いの中で、右手しか使っていなかった。多分、体から出る場合も、右手からしかでないかもしれない。
「さっきのでもう発動条件が見破られたかよ。
くっそ。分かった。協力する。」
「言い返事が聞けて嬉しいよ。
一週間後、迎えに来る。準備しておいてくれ。」
「りょーかい。あ!名前は?」
「勝士だ。よろしく。
じゃあな。」
「ああ。待ってるぜ。」
破力を噴射させ、俺はEEBに戻った。
……………………………
……………………………
「はあ!?もう二位のやつ仲間にして来たのかよ!?」
「すまない。勝士が二位の賞金首を狙っていると知らなかったんだ。」
「まあ良いけどさ。名前は?」
「沙希だ。女だった。
能力はBomb。正直ギリギリだった。気を付けろよ、勝士。一位のやつは多分相当な手練れだ。」
「わかってる。で、情報あるか?」
「東京に居るらしい。しかも結構詳しい情報もある。
南南地区にある日本守備機関のビル周辺のネットカフェでオンラインゲームをしているらしい。
相当なオタクだ。色んな意味で気を付けろ。」
「そんなやつが一位だとはな。
よし、明日行くわ。今日疲れた。」
「もうこんな時間か。体、休ませておけよ。」
時計の針を見てみると短い針が9を指そうとしていた。ちょっと早いけど、寝るか。
「ああ。バーイ。」
オタクで最強…良いね。良いね。
前の世界じゃあ、有り得ねえことだ。
命を狙われるのも、誰かの為に戦うのも。
もう、戻れないな。あの世界には………