夏の記憶
過去に詠んだ50首連作の供養。
プルタブを開けてプシュッと音が鳴るこの苦ささえ人生になる
夏が好き君が言うからこの空を見上げる度に涙が伝う
窓を開けセミの鳴く声飛び込んで地球の裏に潜り込んだり
風鈴の音をかき消す扇風機前に座った宇宙人さん
扇いでも暑さは増してゆくばかり冷蔵庫開け怒られるまで
大切に育て続けた向日葵は太陽の日を浴びて喜ぶ
ラムネ開け少しずつ飲む昼下がりビー玉の音からんと響く
ヒグラシが鳴く夕方に帰るって云ったあなたは何十年も
蚊帳の外扇子で涼を取りながら見上げた星は光を変えて
風鈴が寂しいと泣くものだから枕は濡れて嗚咽が響く
火をつけて燃え尽きるまで目を瞑り蚊取り線香匂いを被る
砂浜を裸足で走る僕を見て海の先から笑うあなたに
麦わらの帽子を被り駆けていくワンピース着た白い肌すら
これでもか水鉄砲を噴射する透けたTシャツ映る青空
軽やかに波打ち際を走りゆくあなたはたまに振り返っては
木陰へと逃げ込む君と倒れ込み見上げた空は深い緑の
丁寧に折っては飛ばす飛行機は海の果てまで旅をしに行く
汗すらも宝石みたく見えているキラリと光るその眩さに
さくらんぼてっぺんに載せ出来上がりしゅわしゅわ音を鳴らすソーダの
溶けていくアイスをかじり微笑みを交わして夏の足音を追う
格好をつけて飲んでも大人にはなれないままのアイスコーヒー
手を繋ぎ巡る屋台と人の群れ笑顔は花火のように散った
夏祭り固く繋いだ手はすでに離れていたと信じたくない
泣き顔は似合わないからほらおいで高台で見た大輪の菊
紫陽花の葉っぱの影を映し出すレースカーテン朝日が差して
雨の降る前のひんやりする空気纏いし肌はしっとり濡れる
窓際に立たせた本に映る影夏の緑の匂いがこもる
読みかけの本が捲れて開かれたページは君がよく言う言葉
雨の降る夜は寂しく冷えていて傘を片手に飛び出していく
公園の深い緑は風に揺れ蝉の声すら陽だまりになる
吊るされた光るCD反射する蝉の鳴き声遠くに飛ばす
公園の蛇口で顔を洗っては袖で拭ってまた駆けていく
日焼した肌から滑り落ちていく汗と涙は努力の証
朝顔を手に持ち帰る子どもらの苦しい顔はもうじき晴れる
朝顔の実を手にとって笑み浮かぶ夏の終わりの涼しい風と
ベランダで煙草を吸ってため息をともに吐いても心埋まらず
真夜中に頭上を通る流れ星願いをどうかあなたのもとへ
冷え切ったグラスにビール注ぎ入れ空虚にコツン乾杯をする
旱星疲れたときは泣いたって誰も怒りやしないのですよ
ベランダでふっと飛ばしたしゃぼん玉雲の峰まで追い越していく
ねぇ待って一人で何処かに消えないでずっと一緒に居てほしかった
あの青に触れることすらできなくて遠いあなたに触れるもできず
夏の夜ひとりで呑んで見た月はなぜかぼやけて溺れていって
気が付けばレモン水から進化してレモンサワーを呑むようになる
星空はどれも同じに見えるけどひと際光る星は君だと
おはようを言っても声は届かないおやすみなさい、いい夢見てね
目を閉じてあの日のままの君が居る川を渡って実は結ばれる
夢の中夜行列車を乗り継いで君のもとへと走る星空
いつかこの花が散りゆく瞬間を君と見上げて手のひら繋ぐ
幽霊を信じるわけじゃないけれど背が重いのは君だと想ふ




