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一話:懐く幼体

ドラゴンハンターから聞いた噂話。

 冒険をしていて恐ろしかったこと? そりゃあ、盗賊に鉈を突き付けられて身ぐるみ剥がされたり、魔獣に手足を噛み砕かれたり、死にかけたことなら色々あるけれど。そんなの冒険者なら、誰でも一度は経験するから大した話にならないと思うが。

 恐ろしかった、ではなく、恐ろしい、と思う話、か。だとすれば、一つあるな。俺自身が経験したわけじゃない、というより、ドラゴンハンターの中でまことしやかに囁かれる「噂」みたいなものだ。そういう話も「カイダン」になるのか?だとすれば、まぁ、暇つぶしに話しても良いかな。


 ドラゴンは賢い生き物だ。その知能故に縄張り意識や所有欲求も高く、同種同士でもそりが合わなければ殺し合う。そんな生き物が「人間如き」に懐くわけがない。

 だが数十年に一度、人に懐くドラゴンが生まれるという噂があるんだ。それは卵から生まれたての幼体が刷り込みにより人に懐いた結果や、遠い昔にドラゴンの個体数が激減した際に人間に愛でられることで絶滅を回避した結果など、いくつかの説が提唱されている。噂といえどもそんな学説が存在するということは信憑性もあるのだろうと、ドラゴンハンターの中ではある種の伝説として語られている。


 だからこそだろうか。時に新人のドラゴンハンターが「俺はドラゴンテイマーになる」なんて宣うことがある。どこの闇業者から仕入れたのかも分からない卵を後生大事に抱きかかえ、そこから生まれるドラゴンを従えることで定常的にドラゴンの素材を手に入れようと考えるらしい。

 そんなことを駆け出しのドラゴンハンターの手で出来るわけがないし、そもそも手に入れた卵がドラゴンの卵だという保証はない。大概がドラゴンとは別種の大型爬虫類の卵だよ。それでも時折「噂」が流れてくるんだ。卵から本物のドラゴンの幼体が生まれ、それは飼い主によく懐いたと。

「知り合いのドラゴンハンターが聞いたんだってよ」

 知り合い、友達の友達、とある有名なハンター……噂の主人公は諸々の名前で呼ばれて、いくつもの武勇を語られるものだ。しかし終わりにはいつも悲劇が待っている。


 そう、懐いていた筈のハンターの最期は、ドラゴンによって与えられるのだ。

 懐いたドラゴンが他のドラゴンハンターに襲われ、助ける為に人間同士が争い殺し合ったとも。発情期のドラゴンが自分に懐いたドラゴンを見初め、その傍にいた飼い主を嫉妬で八つ裂きにしたとも。懐いたドラゴンが夭折してしまったが為に、淋しさのあまり同種のドラゴンの前に飛び出して骨も残さなかったとも。全ての噂は悲劇に終わる為、ドラゴンハンターの間でそれは「ドラゴンと人間は相容れないという教訓なのだろう」と認識される。

 だが俺は、本当にそれだけなのだろうか、と思う。


 そもそも、懐くとはどういう状態だろう。俺は、人間側が懐いていると「思い込んだ」だけで、ドラゴンはただ「観察している」だけなんじゃないかと思うんだ。静かに視線を合わせていれば、気持ちが通じたものだと考える。手づから食事となる死骸や木の実をつまめば、喜んでそれを投げて寄越す。そのうちに、勝手な鳴き声で自分を呼び、鳴き声ばかりでなく顔の筋肉の伸縮や態度で対話を試みようとする。そんな「動物」の「利用方法」を、ドラゴン達は幼体の内から覚えているのだとすれば。

 何故そんなことを考えるのかって? そう尋ねられてしまえあ自分でも意地の悪い思考だな、とは思うよ。だが少なくとも「人間如きに懐く純粋無垢なドラゴンの幼体」なんて物語より「幼体の頃から愚かな人間を利用し使い潰す狡猾なドラゴン」という物語の方が、俺好みなんだ。

 あの美しい生き物が、俺達に懐くわけがない。懐いてなんぞ、欲しくはないとすら言える。


 こんな話でも良いかい? そうか、喜んでもらえたのなら良かった。ああ、丁度飯も運ばれてきたよ。俺は此処のドラゴンスープが大好物でね。特に内臓と旬の木の実を軟らかく煮たのが最高なんだ。

 あんたはどう考える? ドラゴンは本当に懐いているのかどうか……それよりも全ての物語がバッドエンドだって事実が気になるって? 本当に「人間がドラゴンを飼っていた」のだろうか、って?

 ……ああ、その考えはとても良い。ドラゴンが戯れに人間を飼っては、自分の為に死なせているなんて。俺にはとても、羨ましい話だ。

恐怖と羨望は混ざる時があるようです。

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