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SF短編集

最後の自動販売機

SFはいいですよね。絶望的な世界で、それでも希望を探し続ける人間の姿って、なんかこう、胸にくるものがあります。短編でまとめるのは骨が折れるけど、勢いで書き上げたんで読んでやってください。

砂は、全てを覆い尽くしていた。


かつて青かった地球は、今や赤茶けた荒野と化し、風が運ぶ砂塵が視界を遮る。都市は朽ち果て、その残骸は砂の波間に沈んだ廃船のように、遠くに見え隠れするばかり。人類は、自らが作り上げた環境汚染という名の津波に飲まれ、滅びの淵に立たされていた。


わずかに生き残った人々は、巨大な車輪を持つ移動都市「ノア」の中で細々と暮らしている。ノアの動力源は、もはや枯渇寸前の地下資源。食料は配給制で、一人一日一回、手のひらサイズの栄養ゼリーが支給されるだけだ。子供たちの腹は常に飢え、大人の顔には諦念が刻まれていた。


リクは16歳。痩せこけた体には、この過酷な世界を生き抜くための最低限の筋肉しかついていない。彼の瞳は、かつて祖父が語った「青い空」の色を想像するたびに、遠い光を宿した。


祖父は、リクが幼い頃に亡くなった。その直前、祖父は震える手で一枚の古びた紙切れをリクに渡し、囁いたのだ。「リクよ、この世界のどこかに、『最後の自動販売機』というものがある。そこには、この世界を変える力が眠っている。探し出すのだ、希望を……」


紙切れには、かすれた文字で座標のようなものが書かれていた。それは、ノアの航行範囲をはるかに超えた、未知の領域を示すものだった。


「じいちゃん、そんなもの、あるわけないよ」

リクは心の中でそう呟いたが、祖父の言葉は、彼の心の奥底に小さな灯火をともした。この絶望的な世界で、彼を突き動かす唯一の希望の光だった。


ある日、ノアのメインエンジンが故障した。食料の備蓄も残りわずか。修理には、最低でも一週間はかかるという。このままでは、ノアの住民全員が飢え死にする。絶望が都市全体を覆い始めたその時、リクは決断した。


「俺が行く」


ノアの長老が訝しげな顔でリクを見た。「どこへ行くというのだ、少年。この先の砂漠は、もう何も残されていない。」


リクは祖父からもらった紙切れを差し出した。「この座標に、伝説の自動販売機があるって、じいちゃんが言ってたんだ。きっと、そこに、この世界を救うものがある!」


長老は紙切れを受け取り、じっと見つめた。やがて、その顔に深い皺が刻まれた。「それは……伝説の『タイムカプセル自販機』か……。まさか、あれが実在したとは……」


タイムカプセル自販機。それは、文明が崩壊する直前、世界中のあらゆる知識と技術、そして種子やデータが収められた、最後の希望を託された自動販売機のことだった。長老は、その存在を伝説としてしか知らなかったのだ。


「しかし、それはあまりにも危険だ。君一人では……」


「俺が行くしかないんだ!」リクは力強く言った。「このまま死ぬくらいなら、希望を求めて進みたい!」


リクの強い意志に、長老は何も言えなかった。若者たちの命を救うため、彼に託すしかない。


その夜、リクはこっそりとノアを抜け出した。彼が持っていたのは、わずかな水と、修理班が持っていた旧式のGPS、そして祖父の紙切れだけ。砂漠の夜は冷え込み、満点の星空が、彼の小さな旅立ちを見守っていた。


数日間の旅は、想像を絶する過酷さだった。砂嵐に何度も巻き込まれ、水は底を尽きかけた。幻覚に悩まされ、何度も倒れそうになった。しかし、祖父の言葉と、ノアに残してきた人々の顔が、彼の足を前に進ませた。


「もう少しだ……もう少しで、きっと……」


GPSの示す座標が近づくにつれ、リクの心臓は高鳴った。そして、ついにその場所へと辿り着いた時、彼は自分の目を疑った。


そこには、砂に半分埋もれながらも、確かに存在していた。

錆びつき、色褪せた、一台の自動販売機が。


「本当に……あったんだ……」


リクは震える手で、自動販売機に近づいた。表面には、無数の傷と砂が付着しているが、奇跡的に、その姿を保っていた。

彼は祖父の紙切れに書かれた、最後の言葉を思い出した。「起動には……『真の希望』が必要だ」


真の希望。それは一体何なのだろうか。リクは自販機のパネルをじっと見つめた。パネルには、古びたコイン投入口と、いくつかのボタンがあるだけだ。

彼はポケットを探ったが、古びた硬貨など、持ち合わせていなかった。


「どうすれば……」


その時、彼の脳裏に、祖父の言葉が再び響いた。「この世界を変える力が眠っている」

世界を変える力。それは、食料や資源のことだけではないのかもしれない。


リクは自販機の前で立ち尽くした。絶望的な状況の中、希望を信じてここまでたどり着いた。これこそが、「真の希望」ではないのか?

彼は自分の手のひらを見た。そこには、旅の途中で傷ついた跡がいくつも残っている。彼はその手を、自動販売機のパネルにゆっくりと触れた。


その瞬間、自販機が鈍い音を立てて震え始めた。

パネルの奥から、微かな光が漏れ出す。そして、古びたディスプレイに、文字が浮かび上がった。


『真の希望を確認しました。プログラム起動します。』


リクは息をのんだ。

ディスプレイの文字が、次々と変化していく。


『人類最後の希望、承認。』

『全機能、オンライン。』

『排出を開始します。』


ガコン!という音とともに、自動販売機の下部から、何か大きなものが排出された。

それは、古びた木箱だった。

リクは慌てて木箱を開けた。中には、無数の種子がぎっしりと詰まっていた。

小麦、米、野菜、果物……。かつてこの地球に存在した、あらゆる植物の種子。


そして、その下には、小さな金属製のカプセルが一つ。

リクがカプセルを開けると、中には、小さなUSBメモリが入っていた。


「これは……」


『全地球環境再生プログラム。人類、再起動。』


ディスプレイに表示された最後のメッセージが、リクの目に飛び込んできた。

彼は、祖父の言葉の意味を悟った。

『最後の自動販売機』は、ただの食料供給機ではなかった。

それは、荒廃した世界を、もう一度、再生させるための希望の装置だったのだ。


リクはUSBメモリを握りしめた。彼の心には、新たな決意が宿った。

ノアに戻り、この種子とプログラムを使えば、きっと、世界は変わる。

青い空を取り戻し、緑豊かな大地を、もう一度。


彼の目に映る砂漠は、もはや絶望の象徴ではなかった。 それは、新たな始まりを告げる、希望の光に満ちた大地に見えた。 リクは来た道を振り返り、ノアのある方向を見据えた。 彼の足は、もう迷うことなく、強く大地を踏みしめていた。

書きたいものが溢れてきて、書き終えるのが大変でした。短編って言ったけど、これ長編のプロローグくらいにはなるんじゃないかな……なんて。


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