11話
李祭月の死体を見ながらオレは考える。
なんで李祭月は革命の女神の公開処刑を知っていた?
なんでこの軍服に流星の涙がある?
手紙はないのに、流星の涙はある。
手紙はないのに、流星の涙はある。
要はオレにこれを使って宋麗のもとに行けってことかい。
じゃあ、李祭月はなんで、公開処刑のことを知っていた?
オレの頭じゃわからん。
とりあえず、行けばいいってことだろ。
シンプルに考えよう。
オレは流星の涙を握りしめ強く願う。
ん?
ここは見たことがある。
というよりも時の部屋だ。
やられた。
ベットの上に流星の涙と手紙。
手紙の内容なんて、おおよそ予想がつく。だから、李祭月が公開処刑のことを知っていたのか。
いや、別にいいんじゃねえか。宋麗のもとには彼が行ったわけだし。ここはポジティブに考えよう。そうだよ。宋清に相談にきたと思えばいいんじゃねえか。
よしと言って、オレはギイと扉を開ける。
そこには何もなかった。
オレは時の部屋の後ろまで見にいったが、やはり何もない。
どゆこと?
オレは時の部屋に戻り、椅子の上に置いてあった流星の涙を眺めている。これは宋麗が肌身はなさず持っていたと思うと五十歳独身男には刺激が強すぎる。
うわ、、鼻血出そう。
もう一回、見てみる。
へへ、おじさん興奮しちゃうんだけど。
ん?
なんか変だな。
宋麗に渡した流星の涙って、こんな形だったっけ。
オレは無性に椅子の上に置いてある手紙が読みたくなったが、李祭月の屈辱的な手紙だったらと思うと、封を開けるのを躊躇ってしまう。
じゃ、とりあえず送り主だけ。
ビンゴ。
ほら、李祭月。
ん、なんか変?
オレは手紙の送り主を見て考え込む。確かに送り主は李祭月。これは間違いない。
でも、おかしい。何がおかしいって。
なんで送り主のところに李祭月って書いたんだろう。
オレは手紙の封を開け、手紙を恐る恐る読みはじめた。
周恩君様
君がこの手紙を読んでるということは私はこの世にいないのだろう。
これは君への遺言と思って最後まで読んでほしい。
流星の涙の能力者である君の前には私たちではどうにもできなかった相手が存在する。
君もいつか出会うであろう覇王の能力者だ。
流星の涙の能力者と覇王の能力者は相容れない存在であり、流星の涙の能力者では覇王の能力者に勝ち目はない。
流星の涙の能力者である君が覚醒した今となっては覇王の能力者が覚醒するのは時間の問題だ。
月麗を看取ってくれた君に非業の最期を迎えさせたくない。
とにかく覇王の能力者からは逃げろ。
これが私からのアドバイスだ。
この先は破れていた。
大事なことが書いてあったのか。
挨拶程度のものが書いてあったのか分からない。
今度会った時に聞いてみよう。
この遺言。
オレはどう受け取ればいい。
オレは軍服の胸ポケットに入っていた流星の涙と椅子の上に置いてあった流星の涙を見比べる。
ん?
あれ、これひょっとして両方とも男竜の涙?
フッ、あいつ泣き虫だな。
ということは、これじゃあ最初から宋麗のもとに行けなかったんじゃねえか。
でも、それと時の部屋の周りの変化と何か関係があるのか。
まあ、オレの頭じゃわからん。
ひょっとして李教授の持つ法具ってこれ?
だとしたら、大したもんじゃなかったな。
オレは気がぬけて、そこにあるベットで寝てしまった。
そこは先程見てきた時の部屋の外の光景。今度は時の部屋すらない何も存在しない世界が広がっている。おそらくここはオレの夢の中の世界。オレは何かを待っているようだ。向こうから男が一人歩いてくる。どうやらこの世界では気で判別することはできないらしい。いや、そもそもそんなものは存在しない世界なのかもしれない。
男はオレに近づいてくる。
心なしかオレの心臓の鼓動が速くなっていく感覚がある。
オレの心臓?
靄の中から抜けてくるように男が現れる。オレの心臓の鼓動はさらに速くなっていく。
なぜオレは逃げないんだろう。
男がオレの目の前に立つ。
その瞬間、オレの身体は地面に横たわる。そう、横たわっているのだ。もう心臓の鼓動は感じられない。
オレはこの男を知っている。今はオレの中にいる男だ。その男はオレに向かってこう言う。
「次はシューティングスター。お前だ」
オレは全身に悪寒を感じ目覚めた。寝てしまったはずなのに立っている。目の前には見知った姿があった。ここは身写しの鏡の前。
「おやおや、やっとお目覚めかい。随分冷や汗をかいているけど覇王にでもあったのかい」
女竜がオレをからかうが、オレにはそれに応える余裕なんかなかった。
「そうかい。悪いことを言ったね。でもさあ、あんた覇王に勝てないとでも思っているの」
「流星の涙の能力者は覇王の能力者には絶対勝てないらしいぞ」
「ふふふ、あんた本当に面白いねえ。あんたがあんたに勝てないってどういうことだい。もう少し冷静になりな。それともあの小娘が気になって集中できないとでも言いたいのかい」
「オレにとっては麗ちゃんがすべてだ。それはお前も知ってるだろ。どこにいるのかさえ分からないんだよ。冷静になれるわけねえだろ」
「じゃあ、あの小娘がどこにいるかわかればいいのかい。じゃあ、行ってきな」
オレは宋麗のそばに配置された兵士と入れ替わっていた。
やがて、処刑の号令がかかる。
「遅い。遅い。遅い。おっそおい。周兄、遅い。次遅れたらちゅう一回って言ったよね。ほら、ほら」
あの⋯⋯。
銃弾が嵐のように飛んでくる中で磔にされている女の子がキス顔って、どゆこと?
例によって宋麗を気で包みこんであるから銃弾なんて届かないんだけどね。
オレが拘束を解いている間もほらほらとやってる。革命の女神ってこういうのでいいのかと思いつつもオレは宋麗を抱いて処刑場の上空へと上がっていく。
チュッ。
え?
「次、遅れたらちゅう二回だからね」
真っ赤な顔の宋麗と固まるオレ。
だから、五十歳独身男には刺激が強すぎるって。
宋麗を救出したオレは城陽に向かった。そこで友軍を二手にわけ、一方を慶陽への援軍に充てた。敵の援軍が迫る中で籠城する敵を攻撃する愚か者はいないだろうという目論見だが、まあ最悪リセットだ。
オレはというと、もう一方の友軍で首都城陽を包囲している。海秀という男の話では総統となったオレは首都城陽を包囲して、政府軍を城陽に閉じ込める作戦をとったと言っていたが、この作戦ってどうなのだろうか。外から見れば偶然そこへ巨大地震が襲ったようにみえる。
本当にそれでいいのか?
オレは自分の選択に戸惑いを隠せなかった。九月十三日、タイムリミットがあまりに早すぎる。首都城陽を陥落させて、その後遷都。いや、どう考えても時間がなさずぎる。とりあえず、首都包囲しか今のオレには打つ手がなかった。
そんな折、慶陽に出していた友軍から急報が入った。どうやら援軍に出た友軍とウルファイ軍が挟撃した結果、慶陽を包囲していた政府軍を壊滅させた。その際、政府軍残党にクニホシが捕らえられてしまったというのだ。現在、追跡中ということだ。そこでクニホシの気を知ってるオレの出番となったのだが、気がのらない。
「周兄、クニホシさん助けてあげなよ。周兄だったらあっと言う間でしょ」
なんだこの娘のオレに対する絶対の信頼感。
「でもさあ、麗ちゃんとしばらく会えないんだよ。いいのかい」
「えっ、私も行くから大丈夫」
おいおい、慶陽で捕まったのは誰かな。
しかし、なんで捕まる奴は毎回捕まるんだろうか。命落とす奴もいつも一緒。ひょっとしてそういう運命かもしれない。宋麗以外の救出には正直気がのらない。
宋麗はというと、オレにべったりだ。兄貴になんて言い訳しよう。
そういえば、あれ以来時の部屋には行っていない。
宋清はどこ行ったんだろう?
最近気になることがある。宋麗の独り言が多いのだ。この間なんて大声で独り言で口論しているんだ。そういうお年頃なのかなあ。まあ、かわいいからいいか。あまりひどいようなら医者に診せないとな。
しかし、なんだろう。クニホシの気がヒットしない。この辺にはいないのかな。
そんな折である。政府軍がクニホシの公開処刑を計画しているという情報が入ってきた。
どうみたって罠だろ。
さてと、帰るか。
そうだよ。どうみたって罠だし。タイムなんちゃらっていうのもこわい。オレが考え込んでいると宋麗がなんで行かないんだとかうるさい。なんで宋麗以外を助けに行かなきゃいけねえんだ。オレは正義の味方じゃねえからここは静観でいいんだよ。
そんなことをやっていると、クニホシの気がヒットした。
あれ?
情報と違う場所でだ。場所は慶陽の街。
行きたくねえな。
このまま最初の情報の場所に行って空振りっていうクズの考えが頭を垂れてくる。
宋麗がオレの顔をじとおって見てくる。オレは知らんふりをする。
「周兄、クニホシさんの居場所わかったでしょ。私にはわかるんだから」
ハハハ、そんな訳があるか。
オレが冷や汗を拭いていると、宋麗がオレの顔を覗き込んでくる。
「周兄が行かないんだったら私が行くよ。いいの。いいの。いいの」
絶対行かない奴のセリフだ。
仕方ねえなあ。
どうせ暇なんだから行ってやるか。
オレは宋麗を連れて慶陽の街に向かった。この娘はお留守番させると必ず捕まるもんな。
なんだろう。
宋麗の独り言が多い。
よくよく聞いてみる。
ふむふむ。
「私は周兄が皇帝になればいいと思うんだよ」
オレが皇帝?
随分具体的な独り言だな。
宋麗はご機嫌だ。鼻歌まじりに歩いていく。なんかいいことあったのか。
「麗ちゃん、いいことあった?」
「別に」
あ、これ絶対いいことあったやつだ。
「麗ちゃん、いつも誰と喋ってるの?」
「えっ」
「えと、あ、周兄だよ。周兄に決まってんじゃん。変な周兄」
やっぱり、誰かと喋ってんだな。
でも、誰だ?
「相手は彼氏?」
「ち、違う。清兄、あ、しゅうにいらよ」
宋清?
「麗ちゃん、宋清と喋ってんのか?」
「へへへ、バレちった」
いや、バレるとかそういう問題じゃないだろ。
なんだか、慶陽の街に近づいていくほど警備が厳しくなっていく気がする。しかも、友軍のだ。
オレはクニホシの気のする方に歩いていく。やっぱり、友軍の警備が確実に厳しくなっている。
オレはその扉の前に立つ。
「ほらほら、周兄開けなよ。なにやってんの?」
これ、誕生日でやるサプライズだ。でも、オレの誕生日は今日ではない。まあ、いいや。
オレは扉を開ける。
すぐ閉めた。
「ちょっと周兄なにやってんのよ。ほら、主役なんだから。さっさと入って」
いや、こういうのは本人抜きでやっちゃダメだろ。犯人が横でニヤニヤ笑っている。