表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

罪の贖い~第2話~

鳴り続けるスマホ。

耳障りなバイブ音が、心臓を掴んで揺さぶる。

逃げろ。

出るな。

そんな声が、頭の奥で喚いていた。

でも、俺は──受けた。

**

「……誰だよ」

喉が乾いて、うまく声が出なかった。

スピーカーの向こうから、

子供みたいな、でもひどく冷たい声が返ってきた。

「やっと、出たね。悠人くん」

ぞわり、と肌が泡立った。

知らないはずなのに、その声には奇妙な既視感があった。

「……何が目的だ」

「ゲームだよ。君はプレイヤー。ルールは簡単。秘密を晒されたくなければ、"代わり"を差し出して。」

「ふざけんな!」

怒鳴った俺に、声はあくまで静かだった。

「君には、思い出してもらわないといけない。

君がどれだけ、醜いことをしてきたか。」

「俺は、何も──」

言いかけた俺の脳裏に、ふいに"光景"がフラッシュバックした。

──誰かが、血を流して倒れている。

──俺は、その横を、顔を伏せて通り過ぎる。

──誰にも、何も、言わずに。

「……っ」

スマホを取り落としかけた。

「君には、救えたはずの命があった。

でも君は、"見捨てた"。

その代償を、今、支払ってもらう。」

通信は、それだけを告げて、切れた。

無機質な通話終了音が、やけに重たく耳に残った。

**

リビングに戻ると、由紀がいた。

いや──由紀が「倒れて」いた。

「由紀ッ!!」

慌てて駆け寄る。

肩を揺さぶると、彼女はゆっくりと目を開けた。

「……悠人……? ここ、どこ……?」

意識はある。

でも、表情がぼんやりしている。

それに、由紀の右手首には、赤黒いアザができていた。

誰かに、掴まれた跡。

……誰だ。

家には、俺と由紀しかいなかったはずだ。

「由紀、スマホ、貸せ」

彼女からスマホを受け取り、確認する。

メッセージアプリが開きっぱなしになっていた。

そこに表示されていた文面──

《次は、彼女の番。》

《選択肢:

秘密を晒す



彼女を犠牲にする》



《制限時間:あと6時間》

**

「ふざけんな……っ」

震える手でスマホを握りしめる。

選べるわけがない。

由紀を犠牲にするなんて、できるわけがない。

けど──秘密を晒したら、

俺は、すべてを失う。

職も、友人も、家族も。

この世界から、抹消されるだろう。

何より──

思い出したくない、

封じ込めていたはずの"あの日"の記憶が、

全世界に暴かれる。

「……どうすりゃ、いいんだよ……」

自分でも情けないくらい、震え声だった。

由紀は、ぼんやりした顔で俺を見ていた。

「悠人……あたし、なんでもいいから、助けて……」

**

助ける。

それが当然だ。

俺は、あの日と違う。

逃げたりしない。

……そう、思っていた。

でも、あの時、俺は──

助けなかった。

そういう人間だった。

そうだろ、遠山悠人。

**

選択の猶予は、もうない。

俺は、"どちらか"を選ばなきゃならなかった。

そして、俺は──

俺は──

「由紀、ごめん」

そう呟いた。

声が震えていた。

由紀は、きょとんとした顔で俺を見ていた。

「……え?」

その瞳に映った俺は、

きっと最低だった。

「……俺、無理なんだ。

全部晒されるくらいなら……お前に、行ってもらうしか、ない……」

膝が笑った。

心が引き裂かれるみたいだった。

でも、選んだんだ。

もう、戻れない。

スマホを操作する指先が、異様に冷たかった。

表示された選択肢。

【2. 彼女を犠牲にする】

俺は、ためらいなく──タップした。

**

すぐに、

リビングの照明が、パチンと消えた。

真っ暗闇の中、由紀の小さな声が聞こえた。

「……やだ……悠人……?」

ガタガタと、テーブルが揺れた。

家具が軋む音が響く。

何かが、由紀を引きずる音がする。

俺は──動けなかった。

ただ、スマホの微かな光を握りしめたまま、震えていた。

「……たすけ……」

最後に聞こえたのは、

由紀の、掠れた、必死な、呼びかけだった。

──ごめん。

本当に、

ごめん。


**

数分後。

明かりが戻ったリビングには、もう由紀はいなかった。

代わりに、床には真っ赤な手形が点々と続いていた。

そして、スマホに新たなメッセージが届いていた。

《選択完了。

次のゲームへ進みます。》

《次のターゲット:君の"家族"》

**

胃の中が、ぎゅうっと捻られる。

次は──家族。

俺は、助けられるのか?

それともまた、選ばされるのか?

そして、画面の下には、さらに別の文言が添えられていた。

《君が最初に見捨てたのは、"あの日の少女"だったよね。》

《彼女の名前を、思い出せる?》

──あの日の少女?

誰だ。

俺が、

俺が忘れている──誰だ?

思い出せない。

いや、思い出したくない。

でも、思い出さなきゃ、次は──家族が、消える。

**

その瞬間、俺は覚悟を決めた。

逃げるのはもう終わりだ。

戦うしかない。

たとえ、過去の俺がどれだけ汚れていようと。

俺は、"@匿名"の正体を暴く。

すべてを、終わらせるために──。


お楽しみいただけていますか?楽しんでいただけていたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ