罪の贖い~第1話~
誰も知らない夜に、
小さな嘘と大きな真実を置いていきます。
心を盗む物語を書いていきたいと思っています。
扉を開けるかどうかは、あなた次第。
失踪した友人から送られてきたボイスメッセージやメッセージをもとに、組み立てていきます。私は、友人を助けようとしたけど、間に合わなかった。その無念をここで晴らします。そのために友人の一人称「俺」で進めさせてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの夜以来、俺の世界は、静かに、でも確実に崩れはじめた。
誰も信じられない。
何も信じられない。
このスマホで受信したたった二通のメッセージが、俺を追い詰めていく。
**
翌朝、会社に向かう道すがら、ふと足が止まった。
歩道橋の柱に、何か貼られている。
目を凝らす。
それは、一枚のモノクロ写真だった。
俺が──
知らないはずの俺が、映っていた。
目を伏せ、手を血で汚したまま、どこかへ走り去ろうとしている"俺"の姿。
「……は?」
口から、声が漏れた。
頭が混乱する。
こんな写真、見たこともない。記憶にもない。
なのに、胸の奥のどこかが、
"知っている"と囁いていた。
**
会社では、何もなかったかのように振る舞った。
同僚たちは相変わらずバカみたいな雑談をして、上司は無駄な説教を垂れ、昼には安い弁当を食った。
だけど──
パソコンを開くと、
デスクトップに、見覚えのないファイルが一つ。
【@匿名からの招待】
震える指で、クリックする。
画面いっぱいに、赤い文字が浮かんだ。
《選べ。》
《お前の秘密を晒すか──》
《無関係な誰かを、犠牲にするか。》
《制限時間:24時間》
《回答方法:こちらから、リンクにアクセスせよ。》
そこには、短縮URLが貼られていた。
**
ふざけんな……
そんなの、選べるわけないだろ。
それに、俺には「秘密」なんてない。
ないはずだった。
**
夜、帰宅してすぐ、水無瀬由紀に連絡を取った。
由紀は俺の数少ない友人だ。
今はフリーのライターをしていて、ネットに強い。
「やばいもん見せてやるよ」
俺は半ばヤケクソでスマホを突きつけた。
由紀は真顔で、メッセージをスクロールした後、小さく息を呑んだ。
「これ──本物だよ、悠人。冗談抜きで、やばいやつ」
「だよな……。これ、ハッカーか? ストーカーか? それとも──」
言いかけた俺を、由紀が遮った。
「違う。もっと……"深い"。やつらは、データの裏側に潜んでる。
普通の警察とか、ITセキュリティとかじゃ手に負えない」
「意味がわかんねえよ……」
「悠人……あんた、昔、何かやった?」
「やってねえって!」
叫んだ俺を、由紀は静かに見つめた。
その視線に、妙な違和感を覚えた。
──なあ、由紀。
もしかして、お前も──知ってるのか?
**
結局その夜、由紀は俺の家に泊まることになった。
少しでも異変があれば、二人なら対応できるだろう、そう思ったからだ。
だが、深夜2時。
ふと目を覚ますと、隣で寝ていたはずの由紀がいない。
リビングから、微かに音がする。
──コツ、コツ、コツ。
足音だ。
俺は息を呑み、スマホを手に、静かにリビングへ向かった。
だが、そこには、誰もいなかった。
代わりに、リビングの真ん中に置かれていたもの──
それは、
「@匿名」と書かれた、小さな"黒い箱"だった。
**
俺は、震える手でその箱を開けた。
中に入っていたのは──
一枚の古びたUSBメモリ。
そして、
真っ赤なインクで書かれた、一枚のメモ。
《思い出せ。お前が"最初に裏切った日"を。》
**
俺は知らない。
そんなはずだ。
けど──
なぜか、涙が止まらなかった。
**
そして次の瞬間、
俺のスマホが、けたたましく鳴りはじめた。
着信表示は、
また《@匿名》。
俺は、出るべきか、迷っている。
──もし、出たら。
二度と戻れない気がした。
まだまだ第1話ですので、ぜひこの後の話も読んでみて、感想などを評価とともに教えてくださると幸いでございます!!