適材適所なのでしょう
「王都立騎士団長は、代々、ゲゼルテ侯爵閣下が責任者となっているのです。」
「ゲゼルテ侯爵閣下…」
噂には、聞いたことがあるでしょう。
厳つい顔付きに、薄い金髪に茶目のおじ様で、国王陛下の護衛騎士も務めています。
若い頃は、容姿からして、王族の中でも、血が薄いことを馬鹿にされていましたが、先代侯爵から受け継いで、騎士団長となりましたので、今は、馬鹿にする人はいません。
ゲゼルテ侯爵閣下の実力は、本物ですよ。
「王都立騎士団の次期騎士団長は、マーリックのお兄様にあたります、ケイリックです。」
「ケイリック様………」
「ですから、国王陛下は、辺境伯領では、実力や人格などで選ばれるという意味を、ご理解していないのかと思いますよ。」
「そ、そうなのですね…?」
あの国王陛下に、はっきりらそのような発言を言えるなんて……… さすが、王女殿下………
だからこそ、彼女が女領主として、辺境伯閣下として、選ばれたのかもしれませんね。
ちなみに、妹のカールメリッサ第二王女殿下がこちらに来る場合は………
婿養子となる公爵子息様を辺境伯閣下に
カールメリッサ第二王女殿下を辺境伯夫人に
なるご予定だったそうだ。
「国王陛下が、お父様が……
いきなり、このような無理難題なお願いをしてしまいまして、申し訳ありません。」
「リュディヴィーヌ様………」
ぺこりと頭を下げるリュディヴィーヌ様…
ゴーリュンは、驚きました。なんて、優しい。
なんて、謙虚なお姫様なのだろうか。
お姫様なら、婿入りした子爵家出身の私には、命令で、婿養子なのだから、養子入りしてきた侯爵子息の面倒を見るのは当然のことだと思いそうな場面なのに……!
「はい、分かりました。
マーリック様を、騎士団の皆様と共に、立派な騎士団長候補にしてみせます。」
「ゴーリュン………」
「師匠が師匠なので、厳しいかもしれませんが、養母となられるリュディヴィーヌ様がお優しい方なので、適材適所なのでしょう。」
「適材適所………」
「リュディヴィーヌ様も、
私自身も、お互いに子育ては不慣れですから、一緒に、頑張りませんか?」
「ええ、そうですね、一緒に頑張りましょう。
ゴーリュン、ありがとうございます。」
侯爵家のご子息を、子爵家のゴーリュンが次期騎士団長として、育てることになる。
かなり、無理難題ではあるが、ゴーリュンは、王家と板挟みになっているリュディヴィーヌのためにも、頑張ろうと思えた。
その様子に、侍女のマーサも、安心しました。
安心して、主人を任せれる、と。
「マーリック様は…」
「何か、心配事がお有りですか?」
「次期領主でもあるのでしょうか?」
「いいえ、それは、違うみたいですよ。」
「えっ? そうなのですか?」
「はい、辺境伯家の、次期領主は、私達の息子か娘という形になるようです。」
「わ、私達の、息子か、娘に…?」
「ええ、そうなりますね。」
サラッと言われて、驚いたが、なるほど…
次期騎士団長候補をマーリック様、次期領主を自分たちの間に生まれた子に。
次世代も役割分担していく形という訳なのだと理解して、婿として支えよ、と。
ゴーリュンとしては、妻との間に子を考えても良いのだと、ほっとしていました。
辺境伯家に養子を迎える。
それは、今のように白い結婚のままの夫婦だということなのか、と思ったからだ。
リュディヴィーヌに、淡い片想いしている今、内心の、この心配は言えないのだが。
「いつ頃、マーリック様は、
こちらに来られるのでしょうか?」
「こちらに来るのは、来月からですね。」
「来月から!それまでに、新しく義息子となる方の部屋を準備しないといけませんね。」
「貴方の甥っ子の部屋を参考にしてくださいな。男の子用の部屋をお願いできるかしら?」
「はい、かしこまりました。」
ゴーリュンは、サムセイト子爵家の三男坊。
次期子爵の長兄にも、商人見習いの次兄にも、甥っ子がいる身。確かに、甥っ子なら、参考になりそうだ。兄達に、ご相談してみよう。
辺境伯家に婿入りしてから、兄家族や実家と、疎遠気味ではあるが…
「養子となる彼の事は、マーリック様ではなく、呼び捨てでマーリックと呼んで下さいね?」
「えっ!?呼び捨てで、マーリック…?」
侯爵家の次男様を、呼び捨てに!?
子爵家生まれのゴーリュンにとって、王族で、侯爵家の方を、呼び捨ては、難しい。
例え、10歳と、幼い少年であっても。
「貴方は子爵家のご子息ですが、私の婿です。
辺境伯閣下の夫という立場ですから、侯爵家の次男坊と、そんなに大差はありませんよ?」
「あ……… そうなんですよね………
まだ、今の立場に慣れてはいなくて…
そうですよね……マーリックは、私達の義理の息子になりますからね!」
「ええ、でも、焦らないで下さいな。
そうですね、まず、師弟のような関係を参考にして良いと思います。」
「はい、焦らずに……… 師弟関係で………
ありがとうございます…!」