緊急のお手紙が届きました
ドーシャン男爵閣下、ベイルーディ。
彼は、商店街に住む商人とお針子職人の間に、次男坊として生まれたお方でありました。
騎士としての才に目覚めた所を、先代の辺境伯閣下に知られて、デレッシュ伯爵家に養子入りして、ドーシャン男爵位を貰いました。
そのデレッシュ伯爵閣下は、先代辺境伯閣下の父方の再従弟にあたるお方です。
ドーシャン男爵閣下も、ゴーリュンも、身分や生まれに負けずに、努力された人なのですよ。
それはそれは、素晴らしいことですね。
「あとは、個人的になのですが、
ゴーリュンの様子も気になりまして。」
「えっ!? リュディヴィーヌ様は、私の様子を見に来て下さったんですか………?」
「ほほー、まさか、次期騎士団長を婿養子に迎え入れて下さるとは有り難い話でございます。
ゴーリュンを、宜しくお願い致します。」
「ええ、もちろんです、ドーシャン騎士団長」
戸惑いながらも嬉しそうなゴーリュンに、騎士団長は、政略結婚と聞いていたはずなのだが、ゴーリュンの片想いか……と納得した。
残念ながら、リュディヴィーヌは、夫の様子を視察がてら見に来ましたというさっぱりとした感じなので、温度差が凄いのだ。
ゴーリュンの初恋が、実ると良いのだが。
「ゴーリュン」
「はい、何ですか?
リュディヴィーヌ様?」
「貴方に、ご相談があるのです。」
「僕に、ご相談………?」
「ええ、そうです。こちらの、騎士団の客間を、お借りしても宜しいのかしら?」
「かしこまりました…!
ただいま、準備をして参ります…!」
「ええ、宜しくね、ゴーリュン。」
ゴーリュンは、慌てて、客間の準備に。
次期騎士団長なので、客間は、自由に使える。
貸し切り状態、誰も入って来れないようにしてから、リュディヴィーヌをお連れした。
リュディヴィーヌとゴーリュン、この二人は、この夫婦は、自然と、隣同士に座った。
普通の会議なら、向かい合うのが正解なのに。
それを見た侍女マーサは、内心ニヤニヤして、大切な主人、女領主の幸せを祈った。
「リュディヴィーヌ様
何か、ありましたでしょうか?」
「王家から、緊急のお手紙が届きました。」
国王陛下たるお父様から、緊急のお手紙とは、初めてのことでございます。
王家主催の会議で、いきなり、決まったことだそうですが、本当に、急なことでした。
「お、王家から!?」
「はい、今回は、お父様からですね。」
「国王陛下から…! いったい何が……!?」
「この度、お父様、国王陛下の考えなのですが、養子を迎える事になりました。」
「………えっ!? 養子を?」
これまた、予想外の急展開に、ゴーリュンも、侍女のマーサも、驚きました。
ゴーリュンは、密かに、リュディヴィーヌへの片想いに、目覚めたばかりなのです。
そんな時、義父である国王陛下の命で、2人の間に、養子を迎えることになるとは……
「はい、そうでございます。」
「ど、どなたのお子様でしょうか?」
「王都立騎士団長、ゲゼルテ侯爵閣下の第四子、次男坊にあたります、マーリックです。」
「マーリック様………」
「ええ、王族の血をひくので私の親戚ですね。
今年から、10歳になりますよ。」
「………えっ? まだ、10歳!?」
25歳のゴーリュンと20歳になったばかりのリュディヴィーヌ様の養子が、10歳?
歳の近い、義理の息子…?
子育てしたことがない末っ子のゴーリュンは、養父として務まるだろうか心配になりました。
「この領地に来れたのは、去年ですけれど…
わたくしも、10歳の時に、先代辺境伯夫妻、ダーシェン様とレイティーナ夫人の養女となることが決まりましたよ。」
「そうなのですか!?」
「ええ、そうです。」
10年前のことでした。
国王陛下たるお父様と王太子殿下たるお兄様のおふたりに呼ばれて、養女となるように、と。
ダーシェン様とレイティーナ夫人は、子どもに恵まれずに、悩んでおりました。
隠居してしまう前に、国王陛下に、養子縁組が出来る方がいないか相談しましたら、まさかの選ばれたのは、第一王女殿下でした。
私も、その時は、かなり驚きましたね。
「跡継ぎは、どうなりますでしょうか?」
「次期辺境伯としての養子ではなくて、騎士団長候補として、マーリックを育てて欲しいという形になりそうですよ。」
「えっ? 次世代の、騎士団長に…?」
「ええ、そうです。」
それは、辺境伯家の領主夫妻の養子というよりゴーリュンに弟子入りという形のようだ。
辺境伯領立騎士団長は、現騎士団長も次期騎士団長も、実力や人格などで決まっている。
辺境伯家へ養子入りしたとしても、騎士団長に選ばれる程の実力と人格になるかは、幼い今、全く分からないのだが…
今度は、10歳の息子が出来るようです。